桜の七枚の「罪の設計図」と、久留米の静寂の共犯者
夜間:鷲塚公園の静寂
午後十一時半。久留米市荒木町の鷲塚公園。昼間の喧騒は嘘のように消え、公園の土の匂いは、湿った、しかし、どこか懐かしい匂いだ。その「漂う微かな土の匂い」は、暦の五感全てを、静かに刺激する。
ベンチには、一ノ瀬桜が、七冊のレポート用紙を抱えて、暦を待っていた。彼女の顔は、夜の帳の中で、昼間の「完璧な優等生」という仮面を脱ぎ捨て、人間的な疲労を滲ませている。
桜「古賀くん。木下くんから連絡がありました。『お前の完璧な規律は、孤独な破壊者を生み出す』と。彼の比喩は、詩的で独特で、私の七年間の自己抑圧の壁を、三秒で崩しました」
彼女の「完璧な規律」の裏側には、幼少期に七百万円の壺を割ったという過去の描写だけでなく、その破壊的衝動が、『社会全体を巻き込む規模になる』という妄想的恐怖がある。
桜「私の感情は、五百パーセントの熱量で、いつか荒木町全体を焼き払う。私は、それを恐れて、言葉の壁で五重に心を閉じ込めてきました。でも、木下くんは、『お前の破壊衝動は、誰かの救済になる』と……」
桜が差し出したのは、七枚のレポート用紙。それは、アプリの起動ログとヒロインの行動データを、完璧なフォーマットで分析したものだった。
桜「これは、七日間のヒロインの行動パターンを五種類の変数で分類した、『罪の設計図』です。私の解析によれば、アプリは、『依存』という概念に最も脆弱ですが、その『依存』を誰に向けさせるかが重要です。ヒロインのトラウマは、全て『承認欲求』に繋がっています」
暦「誰に依存させる?」
桜「木下誠です。彼は、『傍観者』という七つの罪を背負っている。ヒロインの自己否定と、彼の傍観者の罪。この二つの鏡像が結びつけば、アプリは『倫理的なジレンマ』という無限ループに陥ります。これが、私の完璧な解決策です」
暦は、桜の冷静すぎる分析の裏に、孤独な魂の叫びを感じた。彼女の協力(具体的な指示)は、単なる論理的な支援ではなく、「私と一緒に、この地獄を管理してほしい」という、他者への深い依存を求める恋愛の芽生えに似た感情だった。
暦「桜。完璧でなくてもいい。お前の破壊衝動は、この五重のカオスを再構築する、七色のエネルギーだ。俺は、お前の『罪の設計図』に、依存する」
この「依存」という言葉が、二人の間に三センチの心理的な距離を縮めた。彼女の瞳が一瞬揺らぎ、五つの感情(驚き、安堵、戸惑い、喜び、恐怖)が交錯した。
夜間:術式の最終調整
午後一時。暦は、帰宅後、木下と桜の協力を統合した最終術式を、スマホに打ち込む。
「依存。それは、久留米ラーメンの濃厚なスープのようだ。一度味わったら、五日五晩、忘れられない。木下と桜、二つの異なるトラウマが、俺の『静かに暮らしたい』という願いに粘着質な依存を求めている」
彼の心の中では、二つの感情が「がっちゃん…がっちゃん…」とぶつかり合っていた。一つの感情が「ひゅう…」と風を切り、もう一つの感情が「どすん」と重く落ちる。その不協和音は、静かに「むずむず」と胸を掻きむしり、やがて「ぐつぐつ」と煮え滾る依存の熱へと姿を変えていった。
1 術式の決定: 「ヒロインのトラウマの矛先を、木下の『傍観者の罪』に向けさせる」。
2 五感の複合比喩の考案: 鷲塚公園の土の匂いと、桜のレポート用紙の新しいインクの匂いを融合させ、「依存という名の、清々しい設計図の匂い」を表現する。
暦は、スマホを両手に持ち、目を閉じた。
「五人の依存は、木下誠という傍観者の罪の上に全てを注げ! それが、俺の静寂への七番目の道だ!」
「再起動、どぉぉぉぉぉぉん!」
暦の疲労感は、七日間の深い思索を経た後の、脳と魂の分離のような重さだったが、彼の心には、桜との共犯関係という名の、温かい依存の粘着質が残っていた。
しかし、その時、スマホの画面に、予期せぬ一文が表示された。
『新キャラクター:六ツ星の登場を検知しました。』




