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プロローグ ~『婚約破棄された令嬢』~

要望が多かったので、連載にしてみました

こちらも楽しんでいただけると嬉しいです

「はぁー、またエリスが婚約破棄されたのかっ」


 アークウェル公爵が屋敷の居間で深々とため息をつく。娘が問題を起こし、婚約破棄を突きつけられるのはこれで三度目だからだ。


 エリスは紅茶を飲みながら、のんびりと父を見つめる。


「ため息ばかり吐いていると、幸せが逃げますよ」

「誰のせいだと思っている!」


 父が声を荒げると、エリスはわざとらしく首を傾げる。


「私は悪くないですよ。だって魔道具が勝手に壊れたんですから」

「普通、魔道具が触れただけで爆発するものか!」


 父は机をドンと叩いて力説するが、エリスはまったく動じない。


「それがするんですよ、なぜか。世の中には不思議なことがあるものです」

「不思議なことなどあるか! 三度も同じような騒動を起こしておいて……お前には反省というものがないのか!」

「反省はしていますよ。ただ、私が触れると爆発する魔道具側にも問題があるのでは? 製作者に問い合わせてみたほうがよろしいかと」


 エリスはそう言うと、再び紅茶を口に運んで微笑む。


 父はそれを見て、さらに深いため息を吐くしかなかった。


「まったく……これでまた縁談を探さなくてはならん」

「お父様のことですし、どうせ別の男性を既に用意しているのでしょう?」

「……なぜそう思う?」

「公爵令嬢は縁談によって貢献するのが仕事ですから。私が役目を放り出すのを許すほど、甘い人でもないでしょうから」

「……まったく。お前は頭が良いのか悪いのか分からんな」

「お父様にそっくりだと褒められますから。自ずと答えが出るのでは?」


 エリスが小悪魔のように笑うと、父はますます疲れた様子でこめかみを揉む。


「馬鹿だと認めれば、私自身のクビを締めることになる。その言い回しには才気を感じるのだがな……」


 父がぼやいていると、部屋の扉が軽く叩かれ、執事が入ってくる。


「旦那様、お嬢様。次の縁談が決まりました」

「読み通りでしたね」


 的中したと嬉しそうに口にするエリス。対称的に父は苛立ちを強くする。


「お前は反省という言葉を知らんのか?」

「私は故意に魔道具を壊したわけではありません。反省する理由がありませんから」

「まあいい。話しても水掛け論になるだけだ……それで相手は誰だ?」

「帝国の将軍であり、シュトラール辺境伯でもあるクラウス閣下です」


 執事が淡々と告げると、父の顔が引きつる。


「よりにもよって、あの『鬼将軍』か……」

「怖そうな二つ名ですね」

「実際、恐ろしい男だぞ。先の戦争では一人で一万の敵を撃退した」

「それはまた、随分と盛られましたね」

「いや、本当にやったらしい。歴代の将軍の中でも特に偉大な英雄と呼ばれている」

「それは凄い。ですが、どうしてそんな人との縁談が私に?」


 わざわざ三回も婚約破棄された令嬢を選ばなくても、相手には困らないだろう。だが父は眉間に皺を寄せる。


「その、なんだ……顔に問題があってな……」

「強面なのですか?」

「鬼のように無骨で、一言でいうとブサイクだそうだ。子供なら見ただけで泣き叫ぶほどにな」

「そうですか……」


 エリスの表情に変化はない。紅茶を美味しそうに飲む姿は、いつも通りだ。しばらく静かな時間が流れると、彼女はカップをそっとテーブルに置いた。


「でもまぁ、エリスへの罰にはちょうどいいか」

「私には罰にならないと思いますけどね」


 エリスが平然と答えると、父はますます顔をしかめる。


「お前は昔から人の外見は気にしないものな」

「孔雀じゃあるまいし。醜くとも優しければよいのです。具体的には私が魔道具を壊しても、微笑んで許してくれるような殿方を期待しております」

「そんな男がいると思うのか?」

「期待くらいは自由でしょう?  お父様は悲観的すぎるんです」

「お前が楽観的すぎるんだ……」

「それはそうでしょうね。でなければ、三度も婚約破棄されて、こんなに前向きなはずがありませんから」

「説得力があるようでないような……その妙なポジティブさは誰に似たのだろうな……」

「お父様でないことだけは確かでしょうね」


 エリスは嬉しそうに返すと、再び紅茶を口に含む。そして本題を切り出す。


「それで、いつ私は出発するのです?」

「明後日だ」

「随分と急ですね。私にも心の準備というものがあるのですが」

「時間を与えると、屋敷の魔道具を壊されかねんからな」

「ひどい言い草ですね。でも、まあいいでしょう。準備を始めます。可愛いドレスも用意しなくては……」

「今度こそ、嫁ぎ先に迷惑をかけるなよ」

「ご安心を。二度あることは三度あっても、四度目は起こらないものですから」

「不安しかないが……期待だけはしておこう」


 公爵は再び深い深いため息を吐きながら、椅子にもたれかかるのだった。

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