第49話 生体錬金術
ある日の昼間、花園のようなものが庭に広がる邸宅にて、窓辺の陽光を背に、術師ベリアールは研究に勤しむ。ここ数週間で素材は15消費した。彼は血で少し汚れた手記に少し書き留め、素材が乗った寝台を見る。今回は腕の筋肉量を増幅させようとは思ったが、腕は捻じ切れ素材は呻き声を上げてガタガタと縛られた中動いている。だがやがては動かなくなり、出血のボタボタと滴る音がする。ベリアールは素材16かぁ、と思いつつ手記に記す。術式反応を確認しつつ、魔力をこめるのをやめにした。彼は血みどろの部屋のドアの前で赤いエプロンを脱ぐと適当に手記の上に放り投げる。廊下は静寂で誰もいないかのようだった。その時、部屋の中からロキが出てきた。彼は白の膨らみのあるシャツに普段から履いている黒ズボンを履く。黒はたいていの人間に似合う。ロキはテナナが呼んでいたであろう錬金術や術式の本を五冊ほど片手に携えていた。
「やぁロキ!テナちゃんは勤勉だね!この前も水を出す魔法出して、その後すぐにドゥルゴヴィシュデ出来たもんね!」
「成長速度の速さを感じる。」
「まぁ、水の魔法は使えて当然だけどね。水、雷、火、土、風ぐらいは使あるのが前提。それ以上使えないなら無能だね。ティナは使えなかったみたいだけど。」
「ティナは無能だというのか。」
「うん。」
何の悪びれもなく答え切った彼のその目を見て、ロキは何も返すことなく彼らの寝室へと戻っていく。ベリアールはそれを目線のみで見送っていくと、早速成長著しい観察個体の部屋へ入る。
「おはよ!テナちゃん!ちょっと外へ行かない?疲れたでしょう?!」
個体はベリアールが実験隊たちにとりあえずあてがう部屋にいる。艶のある机に本を一冊開き、拙い文字を紙に書いている。そこにはどうやら術式の勉強だったようだ。個体は少し恐ろしいものを前にしているような反応を示している。緊張状態のようだ。唇を噛んでいる。
「テナナ、お世話しなきゃいけない子がいるの。だから、手伝ってほしい−−−−いいかな?ベル兄。」
ベリアールはニコニコした薄気味悪い顔を崩すことなく、ただ目を見開いて硬直する。観察対象は少し怯えた様子だ。少し前に鳥を爆発させたのを見せてしまったからだろうか?わからない。ベリアールはニコニコとしたままそれを承諾した。ドアを開けて庭に出ると、少し小さめの池がある。澄み切ったその池には、魚はいない。ただ綺麗なだけなのだ。ベリアールはその純粋さが好きだった。さて、その池の近くには木が生えている。昔はウラドがそこでよく寝たり、本でも読んでいた。その木の根元に向かうと、1匹、小さめの鳥が横たわっているのがわかる。観察対象は駆け足でそばによると、しゃがみ込んでは少し土で汚れた鳥を持ち上げる。ベリアールは少し眉間に皺を寄せる。
「うわぁ、よくそんなきったないの持てるね!」
「汚くないもん。ベル兄、どうしたらいいんだろう?」
ベリアールは掌に乗った鳥を摘み上げると、一旦腹を見る。突いてみると、骨が折れている。角度や深さ的にもう死んでいる。念のため軽く胸に触れるが、死んでいた。ベリアールは鳥を投げながら言う。
「こいつ死んでるよ。どうにもならない。」
「そんなふうにしちゃダメだよ!」
「なんで?動物なんだよ?『動く物』なんだから、物じゃないか?とりあえず、実験材料になりそうだし貰ってくね。処理は僕でしとくから。ありがとうね、テナちゃん!」
ベリアールは鳥を握りしめて笑顔で言うと、観察対象は潤んだ目でそれを見送り、そのまま木の上を見る。母鳥が巣の淵を飛び回って慌てている。
「ごめんね」
さて、一方ベリアールは部屋に戻ってまた無駄になった素材を眺める。本当に微動だにしていなかった。だがふつと、やってみたい事が浮かんだ。
「もう流石にまずいかな?試しに、この鳥でやってみるか!」
ベリアールは死体をどかし、鳥を置く。
「まずは、心臓のあたりでも動かしてみるか。」
鳥の心拍数は測ったことがある。故に、適当にそれに合わせて動かす。指の腹で胸元を押す。どうやら動き出したようだ。ベリアールは何だか改造して遊ぶ子供のように笑っては言う。
「さて!次は、筋肉かな?羽は動くかな?」
鼻の部分の骨を、まるでカラクリ人形のように慎重に動かす。
パタパタ!!
ベリアールは歓喜で肩がすくむ!最高の瞬間だ!!
「やった!やったぞ!!できたんだ!!!死んでないとダメだったんだ!人間の心臓の本来の動きが、術式の強さに負けてたんだ!!これなら潰せる!!」
鳥はすぐさまばたりと骨を折つつ実験台の上に落ちる。ベリアールはすぐさま手紙を書いた。その目はまさに、狂気であった。
「テナちゃん!鳥直ったよ!!!」
ベリアールは部屋から飛び出して行った。




