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彷徨える貴方  作者: 黒井基治
第2章 2部 北の大陸 魔導試験編
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第46話 最終試験 上

試験当日、他試験者達は各々談話室で互いを鼓舞しあっていた。ティナも明るく挨拶を済ませると、そのまま宿を出た。ワイワイと少し前まで敵であったのに、何故か今は親友かのように打ち解けあっている。魔導教会の大広間では、ギャリケーからリリスなど担当官がズラリと壇上に待機しており、その中心の豪華な椅子には紫に近いサラサラな黒髪の男が座っていた。白いフリルのついたクラシックシャツで胸元あたりが開けており色気がある。足のラインに沿った黒ズボンはやつの魅惑さを引き出していた。男の頭には黒と紫の禍々しいツノが生えており、我々を見下すかのような態度からして、ドラゴンだ。奴はゾロソロと入ってくる魔導士達を値踏みするように眺める。全員が集まった時、ギャリケーがトントンとまた杖をつく。すると、男はニヤリとほくそ笑みながら言う。


「今年は優秀な面々がいて結構だ。今回の試験監督は、直々に俺がやってやる。喜べ。」


「なんかお主態度でかいのぉ!!」


「火龍よ。俺は偉いんだよ。『ギルデロイ・バロック』といえば、この魔導教会の創設者だからな。己を誇って何が悪い?これだから、生まれたばかりの奴は馬鹿だ。」


トウカは火がついたように飛び跳ねていたが、セナが組み手をして抑えていたので些か大人しくはなった。しかし、セナもギルデロイに対して殺意を込めた睨みを見せていた。ギルデロイは満足そうに深々と背もたれにもたれる。そして、重厚な布に覆われた肘置きに頬杖をする。


「生憎、どこぞのドジっ子が試験内容を言ってしまったことで、試験を知った時の特別感がなくなった故、端的に説明する。まず、各々1人ずつ試験監督と対戦してもらう。各々、このバッジをつけてもらい、相手のそれを取った方の勝ちだ。制限は15分。」


ギルデロイが指を鳴らすと、魔導士達の胸元に金と青をあしらった勲章のようなバッジが出現する。そして、試験監督達も装着すると、ギルデロイはニタニタと笑いながら裸足のままあぐらをかく。そして、とある一枚の紙を浮かせながら皆々に見せつける。ティナは3回戦のリリスとの対戦。そして、ウラドの名前はなかった。


「ギルデロイ。僕は誰と?」


「お前はこの俺だ。お前には興味がある。」


ギルデロイが気になった女を見るような目で眺めると、リリスが言う。


「まぁ、我々では手がつけられんからな。」


「リリス。卑下するな。己を誇れ。」


ギルデロイの淡白な一言にリリスは謝罪と承認を示した。ギルデロイは機嫌を戻すと、手を叩きながら椅子な上に立つ。


「ではこれより、この俺による。試験を始める。受かった連中は全員合格にしてやる!!!」


彼の大きな一声により、試験が始まった。


それから暫く時が過ぎた。今のところ、サイモン、ヘレナ、ミフェナ、リックが試験を受けたおり、うちリック、ミフェナが合格していった。落ちたもの達は悲しみの目をしていたが、他の者達を鼓舞し、互いに労いながら、宿に戻っていた。ひと段落した時、奥の大扉が開き、受付の男が手を挙げながら呼ぶ。


「次、ティナさん。」


ティナは耳をビクッと振るわせ、杖を握りしめながら立ち上がる。


「は、はい!!では、行ってきます!」


ウラドは大きく頷く。ティナは皆に激励を受けながら、大扉へ向かった。大扉より先は廊下となっており、右に曲がってまっすぐ言った先が会場である。重たい扉が開かれ、ティナは入る。そこには、中心の広間を囲むように水が流れており、花も咲いている。まるで庭園だ。


「ティナだな?」


ウロウロと辺りを見渡すティナはすぐに声の方向を見る。そこには黒ベストに白いシャツを着たギャリケーが佇んでいた。彼は鋭い目線で彼女を見る。


「私は貴様が理解できない。獣人は魔法を習う上で素質はほとんどない。リリスの部下も、亜人もそうだ。貴様ら如きが、一級魔導士になれるとは思えん。」


「確かに、私にも魔法の素質はありませんでした。ですが、一切使えないと言うわけではありません。使えないことに挫折したからこそ、できることに目を向けたのですから。」


ティナは杖を双剣に分裂させる。ギャリケーは少しだけ関心を示したように顔を上げる。


「ほう。原始分裂を利用した術式か。錬金術の派生の一つだ。やはり−−−−貴様ら殺戮の種族は錬金術でないと扱えんか!!」


ギャリケーは杖を突き、詠唱する。


       【閃光術式(ライト・グレネード)


刹那、目も眩むほどの光が広間全体を照らす。ティナは思わず目を閉じる。まずい、完全に目をやられた。ギャリケーは冷徹な面持ちで一気に懐に入る。だが、ティナは右腹のあたりに彼の気配を感じ取り、即座に拳を振り上げる。確かに何かを殴った感触がした。ギャリケーは頬が骨に食い込んで痛みを伴う感覚を強く感じた。そして、彼は軽く吹っ飛ぶ。ティナは目を閉じたまま、五感を鋭くする。水の音、空気の流れ、ギャリケーの革靴の軽い音、それらから類推すると、彼は今、2mほどの距離、そして11時の方向にいる。


ギャリケーは鼻血を垂らしながらも、意地で詠唱する。


         【関数術式(エクセル)


ティナの耳がピクピクと小刻みに動く。その方角から、地面が抉れるような音が真っ直ぐ、いや、音からして交わり合いながら二重に向かっている。ティナは上に飛び、天井に手を伸ばす。ギャリケーは理解不能と眉間に皺を寄せつつも上を見上げる。ティナがなんとか天井のなにかを掴むと、ひとまず目を開ける。ぼやけてはいるが、視界は確保できる。ギャリケーは真下。天井に幾つもの棘が伸びている。今掴んでいるのはこれか。ギャリケーは杖を向ける。


         【雷の魔法(メルバーラ)


ティナの眼前に眩い光が突進する。彼女は天井を蹴って地面に落ちるまでの数秒間に、奴に一撃を入れる。ギャリケーは寸前で胴体まですっぽり入る防御結界を展開したが、彼自身ヒヤヒヤとしていた。彼の雷は天井の突起を伝うようにバチバチと音を鳴らし、降り注ぐ。あちこちに飛び回りながら、ギャリケーの眼前に雷が落ちた時、ティナは一直線に突撃する。そのまま串刺しにかかる。ギャリケーは淡々と呆れた無表情で防御結界を展開する。壁にぶつかったような音が響く。火花が散る中、ギャリケーは歯を食いしばるティナを見る。


「他の連中のを破壊できたとしても、俺のは無理だろう。それだけ、俺は鍛錬を積んできたからな。」


ギャリケーはティナの杖を握る。そしてグイッとこちらに引き寄せる。ティナは距離を詰められないように杖を分離させ広間の端まで下がる。ギャリケーは分離した杖がウニャウニャとするだけで何もしてこない様子を見て、納得したように彼は軽く頷いた。ティナも必死にあの杖が動くように念じるが、言うことを聞かない。焦りで唇を噛む彼女を見て、ギャリケーはなんで単純な獣人なんだと嘲笑った。そして、彼は自身の杖に手をかけ剣を取り出す。ティナは目を見開く。仕込み杖か。


「凄い仕組みですね」


「口を開いていると死ぬぞ。」


ギャリケーは足ほどの長さの剣先を伸ばして彼女に突き技を繰り出す。ティナは慌てながらも回避して、残りの杖を短剣に変形させる。


「俺なら、お前をどこからでも狙える。どうやら、お前は術式すら使えんようだからな。」


ギャリケーは嘲笑いながら剣を鎖にして順応無尽に振り回す。ティナは躱しながら思考する。今自身の杖の片割れは向こうの手に渡っている。魔力は体を流れ、杖を伝って魔法を繰り出す。故に、一手として使いたいがイメージが湧かない。だが、彼の防御は硬い。だが敗れるはずだ。最強の盾がないのと同じように、全ての盾は破壊できるはずだ。


「硬いって言っても、どう言う感じで硬いんだろ−−−?」


ティナは時折瓦礫などをぶつける。ギャリケーは突然無駄な行動をしてきた彼女に違和感を感じた。まるで初心者がありえない一手を打ってきたように。


ティナはあの盾を魔法の方面から考えてみたが全く思いつかなかった。故に、盾のみの観点から見て考える。盾というのは基本的に耐久性がある。彼の盾はそれが魔力によって供給され強度が保たれているとすれば、それを枯渇させれば良いのか?いや、その魔力が未知数である中、困難だ。時間制限が来てしまう。となると、彼の盾の弱点をつかねば、あの時盾が壊れなかったのは何故だ?展開している盾の強度を越えられなかったからか?


「大体の盾はより強く、大きな衝撃に弱い−−−」


ティナは閃いた。そして、自身の短くなった杖をハンマーに変形させ、突進する。ギャリケーはこの一手は理解できた、と考えた。彼女はハンマーを振り上げる。ギャリケーはその一手をマジマジと凝視し、今度は顔ほどの大きさの防御決壊を展開した。ティナはハッとする。そして距離をとった。やはり、そうか。だが物理的な威力が足りない。恐らくは杖のみでは足りない。となると、今知っている魔法でどうにかする他ない。ティナはゆっくり後退りする。ギャリケーは作戦を察し、広間の端を囲う。だが、ティナは杖を地面に突き刺す。


「ウラドさんは、この魔法は水を生み出すものだと言っていました。ですが、よくよく考えると変です!空気にどのくらいの水があるのか、皆知らないからです!!貴方はそれを理解しているから、今こうして広間を囲う水を堰き止めた。ですが、地面までは区切れていませんね!!」


ギャリケーは一瞬困惑したが、徐々に理解が追いつき、顔を歪めていく。ティナの足元には大きな魔法陣が展開されていく。ギャリケーは焦燥を馴染ませて言う。


「この式、やはり貴様−−−!」


ギャリケーは足掻こうと魔力を込めるが、もはや魔法陣が展開されてしまう。青白く光る中、大津波のように水が壁となり、囲いを突き破る。ティナが杖をギャリケーに風を切って向けると、大津波は一斉に彼へ雪崩れ込む。ギャリケーは青ざめ、杖を落とす。気持ち程度に展開した防御結界は呆気なく散る。


「−−−−−クソが。」


ザバァァァァァァァァ!!!!!!


波が濁流となって広間を流れたのち、それらは排水口を伝って流れていった。暫くすると、枯れた水路に水が満ちていく。ティナは眼前の奥へ歩く。そこには彼女の杖を器用に球形にして難を逃れたギャリケーが丸くなりなって倒れ込んでいた。彼はゆっくりと起き上がり、壁にもたれると、ティナは片割れを拾い上げる。ギャリケーは惜しそうに歯をギリギリと擦る。


「−−−−俺の負けだ。だが、術式が負けたんじゃない。俺の不手際だ。貴様を侮っていた。−−−−ギルデロイ様に恥をかかせてしまった。」


ギャリケーは名残惜しそうにバッジを外し彼女に差し出す。尾を振りながらそれを受け取る彼女の目には、もはや戦いの冷静さはなかった。


「まぁ、侮られるのは慣れてますし。大丈夫ですよ!!」


「貴様、魔法がろくに使えんのに、何故あの時使えた?」


「何故でしょう?なんだか、皆さんの解釈に疑問があったので、私なりにイメージしたんです。私の経験から。だからできたんだと思います!それに、ウラドさんのおかげでもあるんです!花を出す魔法と、水を出す魔法は少しだけできるんです」


「−−−−戦いの最中でそんなことが出来るとは、最早怪物だな。早く帰れ。貴様は合格だ。」


ティナは一礼すると、スキップしながら大広間を出ていった。ギャリケーはその後、ボロボロになったまま悔しげに広間を出ていった。


ウラドは呑気に壁側に座り込んでいた。隣には剣を磨くシモンがいた。アルバートはソワソワと手を握りしめている。その時、大扉が開かれる。そこから出てきたのは有頂天に飛び跳ねるティナはウラドの方へ駆け寄る。


「なんとかなりました!」


ウラドは目を丸くして彼女の一言を聞いた。


「凄いね。試験が終わったらお菓子買っておくよ。」


「ありがとうございます!!では、先に戻ってますね!皆さんもご武運を!」


ティナは輝いた目で立ち去ると、ウラドの名前が呼ばれた。


「さて、行くか。」


ウラドは真剣な眼差しで立ち上がり、大広間に立ち入る。そこには、ニヤニヤと楽しげに笑いながら佇むギルデロイがいた。彼は杖を持ってはいなかった。


「ギャリケーがボロボロになって帰ってきたんだ。あの小娘はよくやったよ。」


「あの子の努力の成果だよ。」


「そうか?その一端はお前が担っているはずだ。でないと、あんな発想は浮かばない。」


「師匠というのはね、謙虚でないと。才能があっても愚図は多い。その中で自我を持って自主的に動ける子は中々いない。」


「確かにな。だが、師匠のおかげというのも事実だ。何も知らんまま右往左往することこそ、馬鹿の極みだ。弟子のおかげ、師匠のおかげ、それで何が悪い?」


ウラドは魔法石を取り出す。その目は、淡々と戦に臨む者の目だった。

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