第44話 幾重の塔 4
2人のウラドは互いに近づく。ウラドらは互いに杖を向ける、
【串刺しにする魔法】
2人の2m程の間に幾重もの棘が隆起する。ウラドは押し迫る棘を冷静に見切り詠唱する。
【固める魔法】
刹那、津波のように迫っていた岩棘が静止する。ウラドは目線だけ上に向ける。宙に浮かんだウラドがこちらに杖を向けている。なるほど、術式の『関数』とやらか。確か、今いる空間をある種のグラフとした時、一時的に自身のいる場所を空中に設定したのか。だが、その理論の通りなら、その場から動けないはずだ。感心していると、奴は猛烈な攻撃魔法である雷霆を放つ。あたり一帯が電撃によって崩壊する。この威力、跳ね返すのは些か難儀なものだ。ウラドは少し下がる。
ダァァァァァァ!!ズドォォォォォォォン!!!
跳ね返さぬほどの威力に対する魔法には、同じ密度のものを繰り出せば良い。ウラドは容赦ない一撃を放つ。術式のウラドは同じ攻撃で相殺する。飛び散る光の粒子が辺りを照らす。だがウラドは淡々とそれを見据えていた。自分なら、おそらくこれに対処できると。ウラドは幾度か魔法を繰り出し、奴目掛けて猛攻を放つ。だが、奴も浮いたままあちこちに飛行してかわす。ウラドは眉間に皺を寄せる。もしかしたら、奴は今この場にいる空間を立体的なグラフとして考え、自身のある場所をほぼリアルタイムで自動計算している。そうする事で実質飛行する事を可能にしたのだろう。
「僕は、術師の才能もあったのかな。」
奴はそのままウラドを吹っ飛ばす。彼は壁に打ち付けられるも、何とか起き上がる。錬金術師が彼女を一瞥すると、奴は一気に距離を詰め、杖を鋭く尖った棒状にする。なるほど、ティナの真似事か。ウラドは防御結界で防ぎ、杖を向ける。
【切断する魔法】
ウラド2人は空気の刃の様なものを繰り出す。接触すると、その刃は壁に跳ね返り、切り傷を生み出す。ウラドは咄嗟にしゃがみ込むと、風の刃が、彼の頭上の壁を斬る。あと少し頭が高ければ脳みそが飛び出ていた所だった。ウラド2人はまた距離を取る。流石に小手先では通用しないか。ウラドは淡々と歩きながら杖を向け、詠唱する。
【雷霆】
ドーム状のこの大広間に大きな稲妻が降り注ぐ。鼓膜がはち切れそうな程の轟音の中、ウラド達は互いにそれを繰り出していく。地面が抉れ、最早防御結界が破壊される程の威力だ。だが、これで十分だった。これなら、懐に入れる。ウラドは稲妻を降らせつつ、稲妻によって砕けた巨岩を弾丸として撃つ。柱が破壊され、天井も崩れかけていく。奴はより大きな岩を撃つ。ウラドは稲妻で破壊すると、丁度眼前が岩で見えなくなる。奴は一気に飛び、ウラドの懐に刃を入れ込む。
ドスッッッ!!!
「ゴフッッ!!」
ウラドは腑に一撃を喰らい血反吐を吐く。だが彼は奴の杖を握りしめる。だが勝ち誇った顔をするウラドに奴は無表情の困惑を見せた。
ドスッッッ!!
奴も間抜けな様子で自身の脇腹を見る。そこには半ば忘れかけていた護身用の小刀を刺した相手の腕があった。奴はウラドに刺した槍を無理矢理横に引くと、ウラドの腹から血が吹き出た。ウラドは声にならない悲鳴をあげる。歯の隙間から漏れ出る血を流したまま彼は唸る。
「−−−−−死ね。」
ウラドは杖で奴の腹を狙って攻撃を放った。奴は面倒臭そうな顔で杖を見るだけで、特段何もしてこなかった。
ズドォォォォォォォン!!!!
ウラドは血反吐を吐きながらゆっくりと体勢を整える。
「疲れた−−−」
ウラドはフラフラになりつつも前を見据える。そして、腕輪をはめた右手で脇腹を抑えつつ、通信術式を展開する。
「ウラドだ−−−−もうそろそろ限界だ。逃げながらこっちに来れるかい?」
***
一方、ウラドが戦闘をしていた頃、アルバートとシモン、ヘレナは複製体ののリック、サイモン、カルータと戦闘状態にあった。サイモンとカルータは虎の班の人間で、質量攻撃を得意とする魔道士だ。アルバートはシモンを主にフォローする。ヘレナは互いの死角を補う様に防御を展開させる。複製体のリックは壁を破壊する様にして視界を塞ぎつつ、サイモンらの攻撃の手段を生み出す様な動きをしている。サイモンは巨岩を生成すると、地面に手をつき、まるで地面砲弾を放つ様に撃つ。アルバートは冷静に思考する。恐らくは地面の隆起現象と放物運動を組み合わせた、いわゆる弾道予測で放っているのだろう。弧を描いて着弾する巨岩は、まさに砲撃そのものだった。ヘレナはドーム状に防御を展開する。巨岩が砕けたタイミングでアルバートは杖をゴンッと突くと、それらは鎖状の武器に変形し、縦横無尽に舞う。そして、リックの足に巻き付くと、引き摺り込み、身動きが取れなくなった時には杖で心臓を一突きした。
「1人殺した。」
シモンは双剣を形成してカルータと斬り合いをする。カルータが距離をとった時、シモンはすかさず投げナイフを投げ、奴の服を壁に標本の様にした。身動きが取れないカルータはそのまま蠢くのみで、シモンは冷静に首を掻っ切って殺した。塵となっていく彼を数秒眺めると、すぐに双剣を携えてサイモンに襲いかかる。サイモンは岩の防壁を形成し、そこに防御結界も展開することで魔法と物理双方から身を守る。弾かれた瞬間に、複製体のリックは小賢しくも攻撃を放つ。シモンは身を翻して避け、壁にくっつく。アルバートは詠唱する。
【固定術式】
すると、リックはその場に固まる。シモンはこの好機を逃すつもりはなく、そのまま切先を向ける。ヘレナは勝ち誇りつつも冷静にサイモンに杖を向ける。攻撃を溜める。
ドスッドスッッッ!!
刹那、鈍い音と共に、突き刺さる痛みを感じた。最悪の事態は何となく想像できた。だが確認するのが怖かった。ゆっくりと、頭の走る脇腹をみる。深い傷だ。もう戦えない。気がつけば肩もやられている。
「リック−−−」
ヘレナは左側にいるアルバートを見る。どうやら彼もだ。彼の死角を狙うとは、彼自身のハンデを認知している人物だ。ヘレナは不意をついた複製体を見る。リックはハッと後ろを視認する。倒れかける2人の間を走り抜ける様に、泥色の長い髪がゆらりと動いていた。鋭く装飾のない槍、猫耳のある女だ。リックは杖の柄で女の一撃を受け止める。奴が背後に回ると、すかさず腹蹴りを喰らわせ吹っ飛ばす。アルバートは血を噛み締めながら杖に体重をかけ立ち上がる。
「せめて瀕死に−−−!」
ドォォォォォン!!
女は杖を放射状に展開し、防御をした。跳ね返った攻撃によりあちこちの壁が砕ける。皆は驚愕した。結界は弾けても反射はできない。いや、こちら側に『弾いた』と言った方が、ティナの複製体の感覚に近しいのだろうか。どちらにせよ、素晴らしい才能だ。その時、腕輪が浅葱色に光る。そこからは、ウラドの声がした。
「ウラドだ−−−−もうそろそろ限界だ。逃げながらこっちに来れるかい?」
リックは叫ぶ。
「こっちも時間切れだ!行くぞ!!」
アルバートはシモンの方へ駆け寄る。
「シモン!」
シモンは頷き全力でアルバートの方に走る。だが女は背後から分裂させた刀の片方で腹を突き刺した。シモンは目を見開き、血反吐を吐く。布から滴る血の量からして、もう助からない。彼が倒れ掛かるのが、まるでゆっくりに見える。
「シモン!!」
アルバートが叫んだ時、彼もまた、腹のあたりに激痛を感じた。吐血して跪くアルバートを見て、シモンは確信していた。契りがあるから、彼が死んでしまう。被害を抑えるには、彼を生かすには、シモンの中でそのことだけが頭を占めていた。
ふと、アルバートの中で何か糸のようなものがプツンと切れるのを感じた。瞬間、シモンの魔力との繋がりが一切感じられなくなった。アルバートは気が狂った様に叫ぶ。怒りに満ちた目で、喉が叩かれそうなほどの悲痛な叫びだった。
「シモン!お前、契りが!!!」
女は悪びれも何もない顔でそれを見つめていた。リックはシモンの方へ向かおうとするアルバートを担ぎ上げ走り出した。その時、リックは自身の腕輪を投げ捨てた。女はすかさずもう片方の刀をリック目掛けて投げるが、ヘレナが防御した。走り出す中、アルバートは脚をバタバタと暴れさせて叫ぶ。
「シモン!!!!待て!おろせ!!」
シモンは手を伸ばしかけたが、彼をここに止まらせるわけにはいかないと、手を下ろした。ふらりと壁に寄りかかった。荒い息を遮る様に、アルバートの悲痛な叫びだけが、廊下を響かせていた。シモンはポケットから指輪を取り出す。彼はそれを愛おしそうに眺めたが、涙が溢れ出した。
***
***
一方、ティナとミフェナは複製体のヘレナと双龍と対峙していた。双龍は辺りの壁や天井をぶち破りながら重い一撃を放つ。ミフェナは即座に防御に徹し、それを弾く。ティナは素早く走り、双龍のバックアップに回っていたミフェナまで向かう。だが、あるレンガを踏むと、地面から幾つもの棘が隆起する。ティナはそれを軽々と伝い飛び跳ねて行く。あと一歩のところで、トウカが前に立ち塞がり、剛拳を叩き込む。放たれた炎に対し、ティナは杖を盾に変形させ、防御結界を展開する。ミフェナはトウカの魔力を即座に分析する。咄嗟に叫ぶ。
「ダメです!体勢を!!!!」
密度からして弾けない。ミフェナもバックアップをしようとするも、セナによって阻まれる。ただ拳が振り落とされるのを見るしかなかった。
ガコォォォォン!!!!
すると、炎はティナの結界によって、弾かれるどころか、トウカの方に反射する。トウカは受け止めきれず、腹ごと撃ち抜かれる。ドサリと地面に落ちるトウカを見て、セナも彼女の元へ退く。腹元に触れると、すぐさまセナはトウカの腹を、己の手で貫通させ介錯した。灰の様に消え去るトウカを前に2人は唖然とする。セナの目には復讐の、怒りの目が宿る。そして、水による圧倒的な水圧攻撃が叩き込まれる。ミフェナはあらぬ軌道を描いて噴射された水を、なんとか防ぐ。だが、本人も杖に力を込めて握らしめる。ティナは杖を分離させクナイを投げる。凄まじい勢いでセナの方に穴が開く。セナは水を一気に纏め上げ、一つの水玉を作り出す。ミフェナは叫ぶ。
「ティナさん!この攻撃は私では不可能です!ティナさんの結界の性質を利用します!こちらへ!!」
「はい!!」
2人は隣同士に並ぶと、杖を地面に突く、その瞬間、セナは水玉をこちらに投げる。壁の様に迫ってきた水流は2人の展開した結界に思い切りぶち当たる。2人は歯を食いしばり魔力を込める。壁が少しずつ剥がれていく。すると、数秒の押し合いの末、水は反射する。複製体のミフェナは防御を展開するも、呆気なく死んだ。この時、ウラドからの通信があった。2人はそれを受信してすぐに走り出した。
***
ウラドは腕輪から顔を離すと、まっすぐと土埃の先にいるやつを見る。奴は右の脇腹と足が無くなっているが、まだ杖を握っている。その時、奴の飛び散った足の破片が水状のように彼のもとに集まって形をなしていく。ウラドは杖を向ける。奴の冷たい眼差しを見る。その時、ふっと霞に紛れるように一瞬だけ魔法を感じ取った。
「−−−−!!」
ヒュン!!ズドォォォォォォォン!!
刹那、ウラドは石門に叩きつけられる。息ができない中、奴を見据える。冷たい目だ。そして、苦痛の滲む笑みを浮かべる。ウラドは杖を構える。なるほど、ヨレネスでの魔人と同じものか。空気圧の壁で押し潰そうとしているのか。今ここで構築した奴の魔法。ウラドは歯を食いしばって言う。
「変な所で頭の回転早いな−−−!!」
【叱責の炎】
爆炎が辺りを吹き飛ばす。奴は相手を封じながら、もう片方の手で水を生み出す。まるで自我を持った水の荒波がウラドを飲み込む。空気中の水分を集めてここまでになるとは、やればできるのだな。ウラドは防御結界全身を覆い、呼吸を可能にし、杖を強く握り、叱責の炎を放つ。だが不発だ。まずい、質量攻撃によって相殺されている。
パリパリパリ!!
防御結界が破壊された。瞬間、ウラドは波に揉まれる。体がグルグルと波に巻き添えを喰らい、狙いが定まらない。まずい。本当にまずい。息が苦しくなる。杖は水圧で容易く砕け散ってしまう。口から泡を出し、意識が遠のいていくのを感じた。その時、ウラドは誰かに襟元を掴まれ引っ張られる感覚がした。
ザヴァァァ!!
ウラドは喉に入り込んだ水を吐き出す。隣で聞き覚えのある活気に満ちた声が二つほどした。
「なんじゃこれ!兄者!まだなんかおったぞ!!」
「こっち来いと言うから来たものの、まだ片付いておらんかったか−−−おい、起きんか阿呆。」
ウラドは目を開ける。そこにいたのは、どう打ちのめしてやろうかと、生意気な笑みを浮かべる双龍だった。トウカは豪快に笑いながら、肩に担いでいたティナをぞんざいに落とす。
「ニ゛ャ゛!」
ティナは狼狽えながらもゆっくり立ち上がる。セナは印を結び、言う。
「トウカ!!焔を解放するのじゃ!!一気に畳み掛けるぞ!!」
「応!兄者!」
トウカは腕を半被の胸元から出し、それを脱いだ。胸元のさらしの状態となっても、平然としている彼女に、ウラドはどこに目をやればいいのか少し戸惑う。ティナも、龍人は皆自由すぎると呆れた。トウカは大股で拳を地面に叩きつける。ヒビが入る。そのヒビからはメラメラと魔力が滾ってきている。トウカは詠唱する。
『猛き炎よ!!悉く燃やし尽くせ!止められる者なぞどこにもおらぬ!!思うがままに我が、ままに!!」
トウカが拳を天井に突き上げると、地面から炎が湧き出る。凄まじい熱気だ。赤い炎、青い炎、凡ゆる炎が燃え盛っている。奴は少し戸惑うように炎を見る。トウカは拳に炎を纏わせ、奴に突撃する。奴は防御結界を展開するが、虚しく破壊され、顔面に一撃を喰らう。吹っ飛んだ奴にトウカは大笑いした。セナは片手で印を結んだ状態で、水の塊を一気に奴にぶち当てる。壁に打ち付けられた奴は、無様に地面に這いつくばっていた。ウラドは重々しく立ち上がろうとするも、血反吐を吐き、その場に倒れ込む。腹周りが痛い。ティナがサッと抱き抱える。水飛沫が蒸発して蒸し暑い中、トウカはゲラゲラと笑いながらウラドに言う。
「治っとらんのぉ!わしの火で炙れば一発じゃ!」
ウラドは青白くなる中、乾いた声で笑う。
「そうだね。一発であの世行きだ。」
「ウラドさん!」
石門の方を見ると、満身創痍のヘレナとアルバートを担いだリックがいた。ウラドは痛みに悶えつつも、悲しげなをする。
「シモンか−−−−」
リックは小声で言う。
「あいつはよくやってたぜ。だが、死角を突かれた。もうどうしようとダメなほどにな。」
「誰がやったんだ?」
「あそこの獣人だ。」
リックはティナを指差す。ティナは驚いて飛び跳ねる。ウラドは少し困惑していたが、あの2人以外は皆納得した反応を見せていた。
「魔力探知が効かないと言うのは、魔導士にとって死活問題ね。やはり、改良の余地があったとは−−−」
ミフェナは虎の班のサイモン、カルータと共に、疲労困憊ながらも合流した。セナが言う。
「それより、あやつはもう良いのか?」
セナは奴を指差す。ウラドは蒸気の中、煙に巻かれた奴を見つめる。目が合う。冷たく、怒りに満ちたような目、だがはっきりと、我々を狙っている目だった。ウラドはその目が何かハッキリと理解した。その時、辺りが一変した。トウカが放った焔が一瞬にして消え去り、深淵が天井を覆う。禍々しいその雰囲気に、皆圧倒させた。暴風が吹き荒れる中、呆然とする皆とは真逆に、焦燥の顔を見せたのは、ウラドとミフェナだった。ウラドは叫ぶ。
「全員、防御結界を!!」
全員、一瞬戸惑ったが、ウラドの発言で正気を取り戻し、防御結界を展開する。ウラドは杖を握る仕草をするが、生憎杖は先ほどの水流攻撃で粉々になっていた。致し方ない。ウラドは目に力を込めて奴を凝視する。式を展開するよりも早く、魔力が放出されている。奴はウラド達を嘲るように睨む。リックが言う。
「おい!お前なら、何を詠唱する?!」
「僕なら−−−アレを出す。でも、正式な名前がないんだ。」
「名前がないだと?!そんなもん術式にねぇぞ!」
「その通り、だが、錬金術ならある。昔、聖導師との争いの中、破壊のためだけに生み出された魔法。仕組みなんて忘れ去られた、錬金術最古の破壊魔法。」
恐怖で硬直する皆々の前で、ウラドは続ける。
「もし、僕が名付けるなら、こう呼ぶね。」
【葬送による審判】
刹那、音が止んだ。あたりは静寂と化し、天井は深淵が水面に映し出すようにして澄みきった青空が広がっていた。雲も漂い、晴れ渡っている。ある者の目には、雲すらないように見えたり、ある者には、満月の夜空に見えるだろう。だが、美しい空である事には変わらなかった。その青空から、一つの光がゆっくりと降りて来ている。まるで小さな天使の降臨だ。その光から発せられる濃縮された魔力の密度は絶大。皆を魅了し、防御結界を音もなく破壊していた。その様は、まるで花びらが風で舞っていくかのように。ウラドは悔しげな顔で俯く。だがここで終わるわけにはいかない。ウラドは効果があるか期待できない為、不安に満ちた顔で天井を睨み詠唱する。
『全てを打ち砕く万力よ。屈服せよ。汝の前におわすは、我が生涯最強の盾である。』
【矛すら打ち砕く盾】
光が地面に落ちた時、暴風と、それに伴った瓦礫が辺りを踊り狂う。その瓦礫を封じ込めるように大きな魔法陣が展開された。ウラドは歯を食いしばって跳ね返そうと力む。そこには強く、だが眩むことのない光の陣が展開されている。盾によって瓦礫と、青空ははみるみる消え失せていく。これにはウラドも奴も目から鱗であった。効果がある。だがこれではいずれ押し返される。奴は目を丸くしながら空が消え去るのを見届けた。光が収まると、皆は何が起こったのかと、少し混乱していた。ティナは奴を見る。奴は不貞腐れたようにこちらを気怠げに見ている。ウラドは言う。
「まさか、昔の錬金術師の友人の魔法が役に立ってくれるとは。」
「なんだか、あのウラドさん少し満足げですね。」
「嬉しいのに、不貞腐れてる。昔みたいだ。」
「と言うことは、今も昔も変わってないのではないですか?」
「かもね。」
2人はクスッと笑った。
ゴゴゴゴゴ−−−−
ふと、眼前の扉が開かれる。
そこには螺旋階段が続いていた。ウラドはティナに支えられながら皆を見回す。残ったのは、結局チーム同士で結託した虎、龍、蠅のみであった。よもやこれしか残らなかったとは思わなかった。ウラドはゆっくり階段を登った。
階段はそこまで長くはなかったが、あまりにも薄暗かった。まるで夜更けだ。故に、最上階に上がった時の外の眩しさは目も眩むほどだ。ウラド達は目を細めながらゾロゾロと外に出た。
「ご苦労。皆皆、随分と几帳面であったな。私なら、始まってすぐ天井に向かって飛ぶのに。」
傾く陽光の逆光の中目を細めながら、ウラドは影を見る。そこにいたのは、あの塔の麓にいたエルフ、リリスであった。リリスの髪は逆光で明るいオレンジのように輝いて他靡いている。リリスは待ちくたびれたように言う。
「とりあえず、ここにいる者は全員2次試験合格者とする。例年より多くて助かるな。」
「何名か塔の中にいる。」
ウラドは淡々と言う。すると、リリスは鼻で笑い言う。
「言ったであろう、捨て置け、と。死体の回収は気が進まんが私がやる。それと、転送術式が未だ向こう側は設定できていないようなので、ここで待ちぼうけだ。」
「最悪ですね。」
ミフェナが謙るように言うと、リリスは自信げに笑い、陽光の方を向く。
「そうか?この光、まさしく生命力を感じる。この絶景があるのに、最悪はあるまい。」
ウラドは塔の淵に行く。そこには、森や遥か向こうにある街、都市、そして、山脈が畝いていた。野鳥が陽光へ飛び去る様は、まさに自然そのものであり、美しかった。魔導士達は各々労いあいながら、休憩をとっていた。
その後、リリスの部下らしき獣人がリリスを直接迎えに来たので、受験者達は各々帰宅となった。ティナとウラドは最後まで、アルバートの事が気がかりでならなかった。不安が渦巻く中、ウラドは治療を終え、眠りについた。




