表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彷徨える貴方  作者: 黒井基治
第3章 北の大陸 魔導試験編
38/55

第38話 魔導第一次試験 上

ユリウルス暦876年 1月9日


都市には人々が押し寄せている。その目には野心や傲慢さが宿っている。彼らが向かう先は生か死の中流点だ。ウラドとティナは杖と念の為の聖典を持ってその中流点に来ていた。受付の娘が言う。


「1級魔導士試験を受験される方はこちらに。」


彼女の示す方には厳重な術式が展開されたゲートがあった。魔導試験は下手をすれば、死ぬような試験らしい。あの木製の開き戸の先には、その死さえも踏み躙れるような強者がいるのだろう。ティナは少し恐怖で身震いしていた。ウラドは言う。


「こんなこと言うのもあれだけど、怖いね。」


「–––はい。皆さん『権益』を求めていますから、相当気合が入っていますね」


「権益って?」


「どうやら−−−試験に合格すると、欲しいものが手に入るらしいです。頑張りましょう!!」


「そうだね。行こうか。」


2人はゲートを潜り抜け、目もくらませる様な灯りの強い広間に出た。広間には厳つい面持ちをしたもの、底知れぬ笑みを浮かべる者などがいた。だがこう見ると、人が多い。まるで壁が蠢いているようだ。広間の最奥の壇上には金髪の顰めっ面をした男が佇んでいる。魔力の洗練さからして手練れではありそうだ。にしても見たところ20歳前半といったところだろうが、若いのに凄いなと感心した。広間の端には数人の職員らしきものたちがおり、あの壇上の男含め、皆赤の腕章をしている。


ガンガンガン!!


男は銀製の杖先を強く地面に突き大声を出す。


「静粛に!!皆皆集まったな?」


低く上品な声だ。透き通りつつも重みのあるその鶴の一声により、他魔導士は静まり返った。粛々とした雰囲気の中、男は強い語気で続ける。


「私は一次試験の担当官『ギャリケー・スミス』だ。今から諸君には、指輪を配布する。その指輪の紋章と各々記憶させた魔力によって判別する。では、各自集合したまえ。出来次第始める。」


その声を契機に、皆皆混ざり合うように移動した。ウラドは指輪を見る。ドラゴンの紋章だ。そして指にはめると、他にも共通の魔力を感知した。どうやら個人ではなくチームによって決まった魔力があるのだろう。隣のティナとはまず同じチームだ。ティナは安堵の息を吐き、杖を持ち直す。他の魔力は3つで、同じ場所に固まっているようだ。ウラドは杖を握ったまま淡々とその方へ向かう。人混みを掻き分けていくと、確かに3人いた。1人は黒に近しい藍色の三つ編みの少女で、青のクラシックスカートに白のフリルシャツの大人しい印象だ。もう1人は桃色の長髪に金色に近しい龍のツノが上腕ほどの長さまである。濃い桃色の半被のようなものを着ており、北にしては随分な薄着だ。どうやらこの青髪の青年も同じツノがある。彼は少し厚めの藍色の忍び装束のような身軽な格好をしている。恐らく双子だろう。同じ金の目が特徴的だ。ウラドが口を開こうとした時、藍色の少女がすぐにこちらに隠れるように迫って言う。


「あ、あの、あの方々は一体–––?」


「あの方々は『龍人』ですね!」


ティナは恐れない様子でハキハキと言う。少女は理解できなさそうに、怯えた目でこちらを見ていた。その時、桃色の娘が大きな声で言う。


「なんじゃ!お主!わしら龍人を知らんのか?」


ウラドも『龍人』という単語に一瞬困惑したが、すぐに合点がいった。


「いや、北と西の者(僕たち)は君らを『ドラゴン』と呼んでいる。君達は双子だね?同じチームとして名乗っておいた方がいいと思う。」


青の龍人は冷静な目で人間を眺め、桃色の龍人は喧嘩腰の生意気な目を向ける。だがすぐにグイッとこちらに近づいて元気よく言う。


「ふーんそうか!!わしは『燈華(トウカ)』じゃ!!兄者は『瀬那(セナ)』じゃ!!」


「おい、勝手にワシの分も名乗るな。阿呆が。」


肩を組んで楽しげに言うトウカとは別に、セナは静かだ。魔力もトウカは火のように燃え上がり強いが、セナは冷たく滝のようだ。藍色の少女はウラドの背中からヒョイと顔を出し名乗る。


「わ、私は『ミフェナ・ガーデンズ』です。2級魔導士です。」


「ティナです!無級です!!」


「ウラドだ。同じく無級だ。2人は?」


「わしらはそんなようわからんもんはない!!」


トウカは自慢げに言うが、要は魔導師としての資格があるのはミフェナだけと言うことか。


「そうか。とりあえず揃ったし、外の試験会場に向かおう。」


ウラドはこのメンバーはクセが強いな、嫌な予感がすると、つくづく重たい気分になったのだった。


外に出ると、真っ先に目に映ったのは、大自然の生い茂る森でも、この試験会場の広さでもない。ここ一帯を覆いかぶるように被さった結界であった。結界は半透明な白色の膜のようであった。そして、この緻密な式、最早何者も出入りする事はできないということは自明の理だった。フウカは言う。


「忌々しいのぉ出られんようじゃ。」


「出れば失格であろうな。出るなよ。阿呆。」


「わかっとるわ!兄者!!」


フウカはセナに飛びかかり今にも彼は燃えそうだった。ティナはそれを宥めようとしている。嫌な予感が的中した。そもそも初対面同士で協力し合うのは何かと不都合が多い。その時、ギャリケーは言う。


「黙らんか。そこのクソガキ。」


今にも飛び出してきそうな目を見て、ウラドは思わず魔法でトウカを封じ込めた。トウカは混乱しながらも、未だ喧嘩を売っている。セナは呆れてそれを眺めつつ、抱き抱えて身動きが取れないようにしていた。ギャリケーは満足そうに頷くと、そのまま会場の崖の淵まで歩いて言う。


「試験内容は、各自のテリトリーの中心にある『塔』を守りつつ、相手の『塔』を突破する、と言うものだ。」


辺りでざわめきが起こる。実際、トウカとティナは上の空であった。だが、ウラドとセナは何か少しだけ納得したようだった。ギャリケーは左手を挙げてざわめきを止めると、淡々と説明を続行する。


「まず、一回戦につき5チームが戦う。各チーム領地にある塔を守りつつ、1つでも塔を陥落させた方の勝ちとする。制限時間は10分とする。」


ギャリケーは困惑と唐突な緊張感に強張る魔道士たちなぞ気にも止めず杖を召喚した。一見すれば単なる艶のある棒切れだ。彼はその棒切れで地面に式を書く。


「それと、言いそびれていたが、チーム内の誰かが死ねば、そのチーム全体として失格とする。−−−では、健闘を祈る。」


そして、詠唱する。


        【空間転移術式(テレポート)


刹那、あたりが真っ白になる。ウラドは思わず目を覆い被さったが、すぐに、陽光の温かい光が差し込んだ。ウラドがゆっくりと目を開けると、そこには優しい木漏れ日だった。彼は困惑しつつも、頭では先の先によってここまで移されたのだろうと直感していた。そして背後を見る。そこには、まるで遺跡の一部のような石製の3m程の塔があった。ウラドはまるでチェスのクイーンのようだとも思った。だが、上部をよく見ると、冠ではなくドラゴンの恐ろしげな首であった。ティナは言う。


「あの、これは要するに、将棋と同じなんですよね?」


「し、しょうぎ?ですか?」


ミフェナが困惑しながら尋ねる。それに答えたのはセナだった。


「将棋とは、自分の(かしら)である『王』を守りながら、相手の王を奪う遊戯じゃ。」


「チェスのようなものか。確かに。言われればそれが腑に落ちるね。」


ウラドが言うと、ミフェナは大きく頷く。そして、彼女も杖を召喚した。木製とは思えないほど艶のある青の主軸に金の装飾のある杖だ。その杖の先で、彼女は塔に円を描いていく。ウラドは言う。


「なんだいそれ。」


「式です。防御結界は本来一時的なものですが、私は式を書き換えるのも好きなので、地面に永続的に展開するタイプのものも作ってみたんです。気休めになれば良いんですが。」


「術式に関しては、習いたてだから、まだ釈然としないな。」


「魔法はイメージという人もいますが、術式はそのイメージが軸になっていることが多いですね。まぁそのイメージを実現する為に制限があったりはします。」


「制限か−−−−」


「はい。派生元である錬金術は、イメージはほとんどなく、自然現象を人間の領域に落とし込んで魔法として扱っています。対して、術師はそこは共通点ですが、錬金術ではできないとされる理論をできる様にしたりする為に式に落とし込みます。なので、魔法の自由度としては、術式が上ですね!」


そう言い、彼女は手際良く指揮を書き込んでいく。その速さは、熟練のものだ。ウラドも今回は術式の勉強はそれなりにしてきたが、まさかここまで術式が発展しているとは夢にも思わなかった。ミフェナは円の中にあらかたの式を書き込んだのち、杖を円の淵に置き、詠唱する。


       【自動異物反応術式(ビーコン)


すると、ミフェナの魔力が円を伝って流れ込んでいった。一周した時、ミフェナは杖を離した。ウラドは驚愕した。本当に魔力が消えずに残っている。そして、この式、恐らくは敵が入った時に迎撃や共有をしてくれるのだろう。その時、トウカが痺れを切らしてように叫ぶ。


「もう行こうじゃ!!わしは戦いたいんじゃ!」


「まだです!!まずは作戦を考えましょう!」


「人間なんぞ容易く葬れるわ!!五月蠅いのぉ!この白猫は!!」


ミフェナは慌てながらもソワソワとウラドの横に立った。


「すまない。うちの阿呆が。」


セナはため息をつく。正直、そう言うのなら止めてもらいたい。


「良いよ。別に。」


ウラドは少し不快に思いながらもそう言い残すと、トウカの首根っこを思いっきり掴む。突然そんなことをされたトウカは子猫のように甲高い悲鳴をあげ、ワタワタと暴れる。そのような彼女にウラドは叱りつける。


「傲慢なドラゴンだ!いいか!?お前達の魔法は確かに強力だが、その魔法を解析していったのは人間でもある!!大人しくしなさい!!」


ドスッッッ!!!


「ふぎゃ!」


ウラドはトウカを地面に叩きつけるようにして正座させた。トウカは苛立ったように拳を振り上げる。その拳からは火が纏う。ドラゴンには自らの魔力のみである特定の属性を出すことができる。トウカの場合、火なので彼女は火龍にあたるのだろう。大振りな一撃、喰らえば顔の大半は抉れることになるだろう。だが、ウラドからしてみればこんな一撃では致命傷ではないし、対処はできる。彼は思いっきり杖を振り翳す。


目指すはホームラン。


ゴスッッッッ!!!


「ふぎゃー!!!」


ウラドは杖でトウカの脳天を叩き、また地面に正座させた。彼女は思わず頭を押さえながら首を垂れる。ウラドは殴った杖の部分を撫でながら言う。


「敵と味方の区別がつかない状態で、拳を振るんじゃない。今からどうやったら自分たちが勝てるのかを考える。」


ウラドはしゃがみ込み、トウカの手を握る。ドラゴン特有の柔らかそうに見えた硬い皮膚と、鋭い爪の感触がする。トウカは少し痛みで涙が出つつも、無邪気な子供のようにウラドを見る。ウラドもまた、真っ向からトウカを見て言う。


「僕達は、君の味方だ。味方を殴らない事。いいね?期待しているから。」


トウカはムウっと口を3の字にしていたが、頷いた。ティナはやっと収まったことに安堵しつつ、ウラドの父親のようなあの立ち振る舞いに、少し関心を示した。セナはトウカを立たせながら耳打ちする。


「懲りたなら大人しくするのじゃぞ、阿呆。」


「セナ、すぐに『阿呆』とか言わない。」


「−−−−阿呆なのには変わらんじゃろうが。まぁいいや。」


やっとひと段落し、5人は塔の麓に座って話し込む。


「ひとまずだ。一つは陥落させないといけない以上防戦は出来ない。」


「それに、5チームということは、必ず1チームは不合格になります。そうならないように、皆血眼で塔を目指すでしょう。」


「そうなれば、三つ巴もありうるのか。」


「そうなるな。それに、場合によっては死人も出るのか。」


「ウラドさん−−−私、一度も人なんて殺したことないです−−−−気持ちの整理が」


怯えて涙目になりながら話すミフェナに対し、ティナは肩に手を添えて優しく諭す。


「いえ、本来はそういったルールはありません。なので、私達は拘束するぐらいで良いはずです。これはあくまで試験監督が放置しているのみです」


「だとしたら、ギャリケーは本当に性格が悪いやつじゃ。」


セナが吐き捨てる。ウラドも同感だった。この試験監督は1級と言う肩書きに対して相当な信念のようなものがあるらしい。死ぬものは不適格者、と言うわけなのだろう。ウラドは不快感を滲ませつつも言う。


「まずは塔を守る者と、攻めに行く者で手分けしよう。」


ミフェナが言う。


「私は、防御結界の操作が得意です。ここに残ります。」


トウカが自慢げに言う。


「ワシらは双龍じゃ。一緒にいる事で力を発揮するんじゃ、一緒ならどっちでも良いぞ!」


セナもそれに頷いた。ティナが言う。


「私が攻めに行きます。」


ティナは少し控えめに言う。ウラドはそれに不快感はなく、むしろ納得でもあった。ウラドは言う。


「では僕は守りに入る。双子は攻めに。いいかい?なるべく遠くは行かないこと。」


3人は頷き、立ち上がっては直ぐに走り去った。茂みに入り彼らの影見えなくなるが、2人は魔力を探知していた。ミフェナは心配そうに杖を抱き締めながらウラドを見る。彼の眼差しは信頼と、今後の緊張感で強張っていた。


「正直、ティナさんが合格できるかは心配です。獣人は良い扱いを受けていません。それに、魔法が使えるとはあまり−−−−」


「あの子ならできるよ。−−−−できる。僕のこと何度か助けてくれたしね。」


「そうですか。」


随分と、この男性は彼女に絶大な信頼をあいているのだろうなと、ミフェナは考えた。


さて、3人は茂みの中、姿勢を低くして先へ進んでいた。ティナは地図を見る。塔があるのは東西南北一ヶ所ずつと、中心だ。印を見ながら、ティナは言う。


「私達の塔は南ですね。となれば中心を狙うのが良いでしょうか?」


「いやダメじゃ。中心は攻められやすいのは相手も承知、故に守りは堅かろう。」


「となると兄者、わしらはワザと遠いとっから潰すことになるのぉ。面倒じゃ。」


トウカは疲れたように地べたに座る。ティナは杖を短剣状に変形させる。その様をマジマジと双竜は眺める。ティナは森の先を見据える。この先には一応塔がある。頭は蠅だ。


「–––––?!」


「敵だ!!」


刹那、セナが2人を持ち上げ、向こうに投げ飛ばした。2人は空を舞い、茂みの中に墜落する。その時、今まで自分達がいた場所に、巨岩が墜落してきた。土埃と石が飛び散る中、ティナはしっかりと前を見据える。敵の目は逸らしてはいけない。スラムでの癖が、ここでも健在であった。埃の向こうには確かに人影がいた。浮いている。人間の技とは思えない。だが確かに人間の影だ。トウカが叫ぶ。


「敵じゃな!!どこまで殺して良いんじゃ?!」


「殺しはダメです!!できるだけ致命傷は避けてください!!!」


ティナが叫んだ時、土埃の中から針のようなものが飛んできた。ティナの目には遅く感じる。首を逸らして避けると、脇腹を突くように人が飛び出してきた。黒髪の短髪編み込みの少女だ。彼女の黒い目は、全てを飲み込むような黒さだった。彼女は気だるげに言う。


「獣人––––ねぇ。」


ティナは瞬間的に彼女に振り落とす。少女はスイスハルバードの鋒でそれを流し、そのまま距離を詰める。最早一寸の差もない。彼女の目、あれは、人すらも踏み躙れる者の目だ。トウカは拳に火を纏わせ、少女へ飛ぶ。彼女はまだ姿勢が整っていない。殺せるだろう。だが、彼女の憎たらしい笑みを見て、ティナは違和感を感じた。ふとその時、天空から気配を感じた。それを察知したのはセナだった。セナは彼女の背後に周り上を見る。確かにいる。男だ。赤髪の男は見下すように我々を観察している。黒の布の様なもので口まで覆い隠した不審な格好だ。彼は上腕程の長さの杖先をこちら向けている。互いに睨み合う。セナが言う。


「恐らく中心の蠅どもであろう。どういった作戦かは定かでないがの。」


「簡単じゃ!!兄者!!『やられる前にやれ』じゃ!!」


「確かに、その方が合点がいきます。そうなれば、陥落させる他ないでしょう。彼らが中を飛んでいるのは何故なのでしょうか?」


錬金術でも、そんなものはなかった。術式由来のものだろうか?


「だがさっさとやるぞ。人数からして、奴らも手を打っているであろう。」


セナの声一つで、3人は散り散りになった。今、この場において、蠅と龍の攻防戦が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ