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彷徨える貴方  作者: 黒井基治
第二章 北の大陸【アイデース大陸編】
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第22話 狩人 〜ウラド〜

さて、血生臭い崩壊の中、ウラドは、殺意と純粋な眼差しを持つ魔人を凝視していた。

崩壊する建物を背に、奴は確かにウラドらを見ていた。逆光で黒い輪郭しか見えない。だが、せせら笑っているのは、なんと無く見て取れた。辺りには傷を負い、跪く聖道師らがいた。青年は猟銃を魔人に向ける。すると、魔人は彼の殺意を感じ取り、左手で、青年目掛けて撫で斬りにする素振りを見せた。青年は猟銃を構えたまま膠着した。何のつもりなのか。


「逃げなさい!!」


神父が叫んだ。その叫びを聞き、反射的に、青年の前に立ち塞がり防護結界を展開した。


ドゴヅッッッッッッッ


何が起きたのか、全く理解できなかった。見えない何かが、ウラド達を突き飛ばしたのだ。防護結界はガラスのように割れ、突き飛ばされた二人は瓦礫に埋まる。結界がなければ、二人とも圧死していた気がする程の分厚い壁のように思えた。魔人の式を分析しようにも、猛攻が見えない以上、どうしようもできない。ウラドは背後で倒れる青年に一瞥する。生きてはいるが、流石に気絶しているのか。


魔人はこちらに少し歩いてくる。聖導師が必死にあちこちへ指示を出しながら足止めをしてくれるも、奴は虫ケラのように彼らを屠り、すかさず、手を振り見えない槍を振り翳した。


ブヴゥゥゥゥゥッッッッ!!ガギィィィン!


刹那、二人の瓦礫の前に、ノイズがかった壁のやうなものが展開された。ウラドは咳き込みながら起き上がる。唖然とする彼らの背後には、古びたドアがあった。サムラッチの赤いドア。


ギィ––––


「助けに来たよ。ウラド。」


二人は振り返る。そこには、端末を持って優雅に歩き寄る男がいた。やけに金色の目が奇妙に輝く。ウラドは理解できない様子でベリアールを凝視する。


「何故来た?」


「金の指輪から、ティナの魔力が探知できなくなった。だから来たんだよ。早々にコイツを葬らないと。」


「魔法の分析は任せた。僕達が時間を稼ぐ。」


ウラドがそう言うと、魔人は立ち止まる。少し拍子抜けしたような、丸い目をしたが、何故だか身動きをしない。他の聖導師は、荒い息を吐きながら、互いを見つめ合う。その視線はやがては神父の方へ注がれる。彼は躊躇うように俯く。


「待って頂きたい。」


不意に、魔人が口を開いた。金の髪が棚引く中、彼は淡々とした上品な声で話し出す。


「私はただ、そこにいる人間を殺すように言われて来たのです。」


そう言い、奴は指差す。その先には猟銃を構える青年だった。彼は困惑で思わず銃が落ちる。魔導士一同、唖然と彼を見る。だが、ベリアールだけは冷静だった。魔人は指を下ろす。


「頼まれたのです。彼の被害者から。『裏切り者を討ち取ってくれ』と。私は、彼が殺せれば良いんです。貴方方とは争いたくはない。」


「ど、どうゆう事です?」


向こうにいる修道士が思わず尋ねる。すると、青年は口を閉ざし、代わりにベリアールが答える。


「国境沿いで、聖導師へと反対勢力との紛争は激化しつつある。魔人に頼み込んだのは、そいつらだよ。」


「つまり−−−−君は、その勢力にいたのか。」


ウラドは青年を見る。俯きつつも、少し虚になったその目は上がり、魔人の方だけを見て、先ほどとは程遠い、淡々とした口振りで言う。


「あぁ。俺は、聖導師を殺してきた人間の一人だ。だが、事情があって、抜けて来た。恐らくは口封じと見せしめで俺は殺されるだろうな。」


青年は諦め切ったかのように光の宿らない眼をする。ウラドは気づいた。あの時の猟銃、あれが何故、態々狩りのために錬金術の式を銃なんかに付与したのか。彼は聖導師を狩るために父親の理論を理解しようとしたのか、と。彼の中で、その答えは錬金術師としての冒涜だとは思えなかった。元来、錬金術はそのために用いられてきたのだから。だがウラドは迷いに満ちる聖導師とは打って変わって何の感情も湧かない。


「魔人のいう事は事実だろうけど、だからといって、おめおめ手渡すつもりはない。」


「なぜです?」


魔人は目を丸くする。すると、ベリアールが納得したように頷きながら言う。


「お粗末な嘘だね。彼一人が標的なら、街を破壊する必要はなかった筈。それに、『お仲間』もいるよね。君たち魔人は、自分の魔法を実験して、更に向上させるための舞台が欲しかった。そこに、人間達の提案が降ってきた。それに乗っかっただけなんだね?国境の奴らは、この街にいる聖導師を殺せて、裏切り者も殺せる。対して君達も魔法を試す為の舞台がある。これほど好条件な話はないだろう。」


そう言い、ベリアールは確信を持ったように笑った。そして、驚愕に顔を歪める聖導師に対して言葉を投げる。


「どのみち、僕とウラドは魔人を殺す。君達も、ここは一先ず協力しないかい?」


彼らは未だ決断できずに硬直する。理解できなくはない。目の前に、もしかしたら仇がいるとでもなれば、協力なんて言語道断であるし、そもそも錬金術師と聖導師が協力したともなれば、今後の教会の立場がどうなるのかはわからない。だが、そんな場合ではないと言うのは誰でも分かるはずだ。その優柔不断さ、愚かさを見て、ベリアールは嘲笑う。その横で、ウラドは立ち上がり、神父達を見る。疑心に塗れた顔だった。


「選り好みするな!全員死ぬぞ!」


激怒、とまではいわないが、冷静さのこもった怒号で言う。その一言に神父は唇を噛みながらも、ウラドとベリアールを真っ直ぐ見て、頷いた。魔人とベリアールはそれを見て大きく口を開け、ニタリと笑った。ウラドは杖を握り締める。この場にいるのは、錬金術師と猟師、術師が1人、聖導師が5人、そして、敵が1人いた。


      【串刺しにする魔法(トュルゴヴィシュテ)

地面が針山のように刺々しく隆起する。魔人はそれを、サッと横撫でに破壊する。聖導師が祈りの詠唱をすると、魔人の頭上から、硫黄の雨のような火を降らす。ベリアールは端末を奴に向け魔法弾を放つ。


ズドォォォォォン!!!


やつの魔法を弾くたびに、あちこちの建物が崩壊し、土埃が舞う。魔導士は皆、魔人の猛攻をあちこち飛び回りながら回避する。壁を蹴ったり、防護結界を展開しながら、土を隆起させたりもした。聖導師が金色に光る光の矢を放った時、魔人は弾き返しきれず、矢が飛び散る。体制が崩れたタイミングで、錬金術師が辺りの火を集めて杖で球体のように丸め、奴目掛けて発射する。より空気を纏い、鋭くなった炎は、瞬く間に青くなる。魔人はその炎を両手で眼前で受け止め、天へ弾き返した。その炎は、天の雲すらも風穴を開け、雲は天で平べったくなった。そしてそのまま手を振り下ろす。


バギッッゴゴゴゴ!!!


「ヴッッ!!!」


皆の頭に何か、重いものが押し潰すような感覚に陥る。皆して平伏し、圧を耐える。ウラドは杖すらも振れなかったが、何とか、防護結界を展開した。すると、一瞬、その重さから解放されたが、息を吐く間も無く、防護結界はガラスのように割れてしまった。間一髪で交わす。あの場にいた瓦礫は更に細かく潰れていた。それを見て、ベリアールはハッと、目を開く。


「ウラド、閃かないかい?」


ウラドは困惑した様子でベリアールを見る。彼の目は感動と関心を持って魔人を見ていた。その眼差しでベリアールは続ける。


「あの重さ、瓦礫すら潰せるものだ。でも、僕らには見えない。一体、あれは何だろうか?」


「早く言え!何なんだ!?」


「––––『空気』だよ。奴は大気を操れる。」


『空気』その一言を聞いて、ウラドは確かに閃いた。空気、と言うことは大気圧を用いた魔法ということか。そんなことを考えている時、魔人の猛攻を裁きながら、側の修道士が叫ぶ。


「ですが、空は延々と続きます!我々に勝ち目はないのでは!?」


その言葉をいち早く返したのは、やはりベリアールだった。


「いや、延々ではない。だって、そうだったら、積乱雲はどうして平たくなるんだい?」


「と言うことは、使える空気圧には『限界がある』!だが、空に匹敵するものは何だ?」


ウラドが少し俯いた時、側にいた修道士が聖典をパラパラと一瞥せずに開きながら話す。


「神が世界を造られた時、空と共に造られたのは––『海』です!!」


その一言を聞き、青年は猟銃で奴を撃ちながら叫ぶ。


「この近辺にある水辺は1つだ!」


ウラドと青年は一致した答えを浮かばせていた。故に、ウラドは自信に溢れた目ではっきりと言う。


「湖か!」


「そこまで奴を誘導しよう!」


ベリアールの一声で、皆は一斉に、振り返ることなく走り出した。崩壊して道が塞がる中、瓦礫を飛び越え、時には魔力で罠を張って土を隆起させたりもした。このある種の鬼ごっこを楽しんでいるのは、魔人とベリアールだけだった。石門を出ると、一気に光は消え失せ、暗闇が目に飛び込んでくる。雪の踏みつける鈍い音が重なり、森の枝枝の高い音が響く。青年がマフラーに手を突っ込み、何か首紐を取り出した。それをピーッと吹く。何事かと思ったが、遠くから響く吠え声から、ウラドは相棒が来たと察した。


「湖まで誘導するぞ!下手に近づくなよ!」


青年がそう指示すると、猟犬達は一声あげて散り散りになる。ウラド達はあのヴァルーヴァルの誘導ルートを辿る。魔力に聡い魔神に逃げ隠れができない以上、湖までの光をたどる他ないのだ。彼らの背後からは、バキバキと木々を切り倒す音がする。その大きな足音に慄きながら、皆は森を出た。眼前には目の大半を占める凍った湖と、その中心で死に絶える鹿のような獣だった。



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