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ニアとレン

作者: しおだれはみさーもん

リハビリです。

私には、二歳年の離れた親友がいた。


名前はレン。


私たちは、いつも一緒にいた。


寝る時も、ご飯を食べる時も、お買い物に行く時も、お風呂に入る時でさえ、一緒にいた。


「もうニア。ほっぺにご飯粒がついてるよ?」


そう言って先にご飯を食べ終わっていた彼女は、私の頬に付いていたご飯粒を指で取るとそれを口に含み咀嚼する。


「ありがとうレン」


私は、レンにお礼を言った。


レンは、いつもしっかりしていて私のお世話をよくしてくれる。


時々抜けている所があるけれど、それでもレンは私の大好きな親友であり、お姉ちゃんの様な存在だった。


「そう言えばニア、今日マリナおばさんの所にお野菜を取りに行く日じゃない?大丈夫なの?」


「あ、忘れてた!」


私は慌てて残りのご飯を、胃袋に詰め込んでいく。


私とレンは、親がいない。


レンは、五歳の時に。


私は、私が産まれた時に両親が死んだと言う。


そんな私たちの親代わりになってくれたのが、マリナおばさん達カルサ村の人達だ。


カルサ村は、決して裕福とは言えない村だったけど、みんな協力し合いながら暮らしていて、この村の人達は私たちの両親の代わりで大好きな人達だ。


「ご馳走様!」


ご飯を食べ終わった私は、お気に入りの手提げ袋をクローゼットから引っ張り出し、レンが待つ玄関へ向かった。


「ほら、早くしないと置いて行っちゃうよ?」


「あ、待ってよレン!」


私たちは手を繋ぎ、家を出てマリナおばさんの家へと向かう。


マリナおばさんの家は、私達の家から八百m程北に行った所にある大きな畑が目印の農家だ。


マリナおばさんは、そこで主に農作物を作っていて、私たちもよく手伝いをしている。


「こんにちわー!おばさんいるー?」


私は、家の扉を開けるなり大きな声で叫んだ。


すると、奥の方からドタドタという音が聞こえてくる。


そして、その音は徐々に大きくなり、遂にはその主が現れた。


「やぁいらっしゃいニアちゃんにレンちゃん」


現れたのは、このカルサ村の村長さんであるマリナおばさんだ。


とても優しくて、美人で、大好きだけど怒るとすごく怖い人でもある。


「「こんにちわおばさん!」」


私たちは、挨拶をした。


「二人とも元気そうだね〜うんうんいい事だよ〜」


そう言いながらマリナおばさんは、ニコニコしながら私達に抱きついてきた。


正直ちょっと苦しい。


「あの、おばさんそろそろ離してくれないかな……苦しくて……」


「あらごめんなさい。つい嬉しくてね」


ようやく解放された私は、新鮮な空気を吸い込む。


やっぱり田舎だからか、空気が美味しい。


「今日採れたお野菜だよ。いっぱい食べて、たんと大きくなるんだよ」


マリナおばさんは、大きな籠の中からいくつかの野菜を取り出して私達に渡した。


「ありがとおばさん!」


「ありがとうございますおばさん」


私達はお礼を言うと、早速貰った野菜をお気に入りの手提げ袋に詰め込んでいく。


「さて、じゃあそろそろ帰ろうか?」


私は手提げ袋を肩にかけて、立ち上がった。


「えぇ!?もう帰るのかい?パイを焼いたから食べてから帰りなよ!」


マリナおばさんは、名残惜しそうな顔をしながら言う。


「えっ!ほんと!?食べる!レンも食べよ!」


「もう…仕方ないわね。おばさんご馳走になるね」


私たちは家に上がり席に着くと、マリナおばさんが台所へと向かい、パイを温め始めた。


「お待たせ〜」


しばらくすると、香ばしい匂いと共にマリナおばさんがやってきた。


「わぁ!おいしそう!」


目の前に置かれた皿には、こんがりとした焼き目のついたアップルパイが置かれていた。


私は思わず、生唾を飲み込んだ。


「ふふん。今回は自信作なのよね〜」


そう言ってマリナおばさんは、自分の分のアップルパイを手に取り一口齧った。


サクッといい音がする。


私とレンも同じようにアップルパイを一切れ手に取って、口に運んだ。


「んぅ〜!!おいしい!!」


口の中に広がる甘酸っぱさとリンゴの風味。


これぞまさに至福のひと時。


「ほんとだ!おばさんの作るお菓子は最高だね」


レンも満足してくれたみたいだ。


それから、私達は三切れほど食べた所でお腹一杯になったので、残りは明日の朝ごはんにする事にした。


「今日もありがとね二人とも」


「いえいえ。こっちこそいつもありがとうございます」


「また明日───」


ドォォォォォォン───!!


突然轟音が響き渡る。


何かが空から落ちてきたような音。


その音を聞いた瞬間に、私とレンの顔つきが変わった。


「なに?今の?」


私は、窓の外を見る。


外では何人かの人が走り回っていた。


何かあったのか?


「ねぇ、おばさん何があったの?」


「まさか……。あんた達は早くここから離れなさい!」


「でも……」


「いいから行きなさい!」


マリナおばさんは私の言葉を遮るように叫ぶ。


「分かった……行くよニア」


「う、うん」


私とレンはマリナおばさんに別れを告げると、家を出てすぐに走った。


途中、何人もの大人達とすれ違ったけどみんな忙しなく動き回っている。


「レン、一体どうなってるのかな?」


「分からないけど、ただ事じゃないのは確かだね」


ドォォォォォォン───!!!


二回目の大きな音が、後方から鳴り響く。


その音がなった場所は──


先程ニアとレンがいた場所で──


そこには巨大な黒い物体が立っていた。


「あそこって……マリナおばさんの家じゃ!?」


「そんな……」


「急ごう!」


私とレンは再び駆け出した。


そして、辿り着いた先に広がっていた光景を見て、私達は言葉を失った。


そこには何もなかった。


家々も、畑も、人も、全てが無くなっていたのだ。


「嘘……でしょ……?」


「どうしてこんな事に……」


あまりの惨状に呆然としていると、その巨大な物体は黒い巨人の姿へと変化し、右手にはマリナおばさんが握りしめられていた。


「マ……リナおば……さん……?」


「うそ……」


私は、フラつく足で何とか立ち上がり、巨人の方へ歩き出す。


「ニア!危ないよ!」


レンの声が聞こえる。


それでも私は、歩みを止めずに進み続ける。


「離して……お願いだから……!」


私は泣きながら懇願するが、当然のように無視される。


そして、遂に私は巨人の足元まで来てしまった。


「おばさんを返して……」


私は、涙を拭いながら言う。


「何で……戻っ……て来ちまった……んだい」


「「マリナおばさん!!」」


私とレンは、同時にマリナおばさんの名前を呼んだ。


すると、マリナおばさんは微笑みを浮かべて、優しく諭すように──


「あたしはもう見ての通りこいつに捕まって逃げる事が出来ない。だから、あんた達はあたしに構わず逃げるんだ」


「嫌だよ!私おばさんを置いてなんて行けない!」


「そうだよ!そんな事出来ないよ!」


「「お母さん!!」」


私達は、涙を流してマリナおばさんの言葉を否定する。


「……。お願いだから……逃げておくれ。あんた達にまで死なれたら困るんだよ。だから言う事を聞いておくれ……」


マリナおばさんは、大粒の涙を流しながら私達にそう言った。


「……行くよニア」


レンは私を無理やり引っ張っていく。


「ちょ!ちょっと待ってよレン!おばさんを助けなきゃ!」


「……」


レンは何も答えない。


そのまま私は、引き摺られるようにしてその場を離れていく。


「イヤァア!おばさん!おばさん!」


私は必死に抵抗するが、力の差がありすぎて振り払うことが出来ない。


「ありがとう……。二人共元気でいるんだよ」


マリナおばさんは、私達の後ろ姿を見ながらそう呟くと、目を閉じた。


「イヤアァァァッッ!!!」


私の脳裏に今までマリナおばさんと過ごした日々が、フラッシュバックして泡のように消えていく。


涙が止まらない。


それはレンも同じで、涙を流しながら私を引きずっていく。


そして、マリナおばさんも同じだったみたいで。


「あっ……ニア、レンいかないで───」


プチッ。


マリナおばさんの体は握り潰され、赤い液体となって大地へと染み込んでいった。


「うわぁああ!」


「う……ああ……」


それから、どれくらい走っただろうか。


私とレンは体力の限界を迎え、道端に倒れ込んだ。


「ハァ……ハァ……。ここまで……来れば大丈夫かな……」


「どうして!!どうしてマリナおばさんを助けなかったの!私達二人なら」


私は、怒りに任せてレンに問い詰めるが、レンは黙ったまま何も言わない。


「ねぇ……なんで?なんでよぉ……」


「……」


「何か言ってよ!レン!」


私とレンは見つめ合う。


レンの瞳からは、一筋の涙が流れ出ていた。


「ごめんね……ニア……ごめんね。私に力があればマリナおばさんを……」


私はその一言を聞くと、その場で崩れ落ちた。


「あぁ……うぅ……ひぐっ……」


私は、私達は、泣くことしか出来なかった。


目の前で起きた出来事を受け入れられず、現実逃避するかのようにただひたすら泣き続けた。


今日、私達は故郷を、大切な村の人達を、そして家族を失った。


これから私達は、どうすればいいのだろう。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

リハビリで書いていたのですが書きながら感情輸入しちゃって泣いてしまいました…。

悲しみを背負った女の子って美しいですよね

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