006
お店の中は貸し切りのためガラガラで、何人かのスタッフらしき人がちらほら居るだけだった。
そして、窓から離れた奥の関に『吉田 翔』が座っているのが見えた。
「きゃあぁぁ~~! 吉田様よ!!」
「あぁ、もう死んでも良い……」
「本物? あれって本物なの!?」
ウチのねーちゃん達が騒ぎ出した。すいません、すいません。ウチのねーちゃん達がご迷惑をおかけしています。
そして、ねーちゃん達の大声で吉田さんがこちらに気が付いたみたいだ。
顔を上げて俺を見つけると、ニッコリと笑いかけた。
「千秋ちゃん、撮影ぶりだね。元気にしてたかい?」
「あ、はい。あの時はお世話になりました。」
「それはこちらの台詞だよ。それで、君のお姉さんたちは大丈夫なのかな?」
「はい?」
吉田さんに言われた気が付いた。いつの間にか随分と静かになっていたなって。
振り返ってみると、3人とも気絶しており床に倒れていた。
どうやら吉田さんの生笑顔をまともに見たことでテンションが上がりまくって、そのまま失神したみたいだ。
「だ、大丈夫ですか。お客様!」
「興奮して気絶しただけみたいなので、申し訳ありませんが、その辺に寝かせておいて貰えないでしょうか?」
「は、はい。」
お店の店員がそれを見て声を掛けてきてくれたので、対応をお願いすることにした。
まぁ、少ししたら目を覚ますだろう。
「千秋ちゃん、こっちにおいで。」
吉田さんが先ほど座っていたテーブルへと俺を案内してくれた。とりあえず向かいの席に座ることにした。
「ご注文はいかがいたしましょうか?」
「えっと、ちょ、ちょっと待ってください。」
こういったお店に入ったことが無かった俺は、慌ててメニューを手に取って確認してみる。
「た、高い!?」
お店でのジュースなんてものは、ファミレスのドリンクバーしか注文したことがない。
それに比べて、このオレンジジュースが1杯だけなのに500円って高くね? いや、これが普通なのか?
俺が悩んでいると、吉田さんが救いの手を差し出してきてくれた。
「ここは僕が出すから、好きなのを頼むと良いよ。」
そういってニッコリと笑ってくれた。おぉ! 流石は大人だ。太っ腹だな!
「何でも良いんですか?」
「もちろんだとも。」
「えっと、じゃあ、このイチゴの乗ったパフェを頼んでもいいですか?」
何と、これ1つで1500円もするのだ。
こういった機会じゃないと絶対食べることは無いだろうと言えるため、お願いしてみることにした。
「じゃあ、このパフェを1つ。あとコーヒーのお代わりを頼むよ。」
「かしこまりました。」
注文を受けた店員が離れていった。
「さて、今日千秋ちゃんを呼んだ理由なんだけどね。」
「は、はい。」
「もう一度、千秋ちゃんと話をしてみたかっただけなんだよ。」
「そうなんですか?」
「ああ。正直に言うと、名刺を渡したにも係わらず連絡が無かったから、半分諦めていたんた。だから、千秋ちゃんのお姉さんにはホント感謝しているんだ。」
「はぁ。」
俺的にはあれで終わって欲しかったんだけどな。まさか再び女装をさせられるとは思わなかったぜ。
「これは運命だと思ったよ。だから僕は言わせて貰うよ。
千秋ちゃん、僕と一緒に役者をやってみないか?」
「むむむむ無理です!!」
「そうかな? 僕はあの時、千秋ちゃんに才能を感じたんだ。だから、千秋ちゃん。君は女優になるべきだ。」
「だから、そもそも女優ってのが無理で、おr…むぐっ!」
「俺は男だ!」と言おうとした瞬間、突然後ろから口をふさがれてしまった。
誰がそんなことをと確認すると、犯人は梓ねーちゃんだった。さっきまで寝てたよね? いつの間に起きたんだ?
「梓ねーちゃん?」
「千秋、この話は受けるべきよ! なんだったら、私がマネージャーになってあげる!」
「梓姉ぇズルイ! 私がマネージャーをやるんだから!」
「年齢が近い私がやるべき!」
「「あんたは高校生でしょうが!!」」
「はははっ、楽しい姉妹みたいだね。ほら、お姉さんたちも協力してくれるみたいだし、どうだい? やって見ないかい?」
「お話自体は有難いのですが、おこ「「「やります!!」」」」
「決まりだね。」
「いや、おr…むぐっ!」
「ここからは私が代わりに対応させていただきます。千歳、沙月、分かってるわよね。」
「もちろん~」
「当然。」
梓ねーちゃんが顎をクイッっとすると、俺はその場から引きづられて行くのだった。
「もがっ! もがもががもがっもがが!!(ちょっとまて! 俺はやるとは一言も言って無い!!)」
俺の声は届かず、お店をでて家に帰らせられるのだった。
残った梓ねーちゃんが、勝手に話を進めてしまい、事務所と契約してしまうのだった。何てこった。
そして、マネージャーの件は、姉妹で交代で対応することに決まったらしい。もうどうにでもなれ~!!