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004


「カット! もう一回やり直し!」


「はい。すみません。」



これで通算20回目のやり直しだ。つくづく自分に才能が無いのが分かったよ(涙)

最初のベンチに座ってだけでも駄目出しされるとは思わなかったな……



「ちょっと休憩入りま~す!」



少し休憩するみたいだ。正直有難い。

ベンチに座って休憩していると、吉田さんがやって来た。



「千秋ちゃん。お疲れさん。」


「吉田さん……何度もご迷惑おかけして申し訳無いです。」


「気にする必要は無いよ。だって初めてなんでしょ?」


「はい。」


「初めてなら仕方がないさ。だけど、僕的には千秋ちゃん才能あると思ってるんだよね。」


「そうは思えないです。」


「そうかな? あの監督さんは千秋ちゃんだったから、あそこまで駄目出ししているけど、そうじゃなければもう終わっているレベルなんだよ。」



何を言ってるんだ? 何処からどう見てもど素人の演技じゃん。



「多分、決定的な何かを求めているんだろうね。」


「決定的な何か……それって何なのでしょうか。」


「気持ちかもね。」


「気持ち?」


「そう、気持ち。そうだなぁ……千秋ちゃん。この撮影の時だけで良いから、僕と恋人にならないか?」


「恋人!? むむむむ無理、無理です!!」



そもそも俺はノーマルだ。そういった気持ちは持ち合わせていない。



「僕じゃ役不足かな?」


「役不足以前と言うか、何と言うか……」


「もしかして好きな人が居るとか?」


「好きな人……」



正直ねーちゃん達のせいで女性に対して不信なところが有るから、正直好きな人は居ない。

ただ、俺も男だ。女の子に興味が全く無い訳では無い。ただリアルでは居ないだけだ。

某アニメのヒロインだったら大好きなのだが、あんな理想の女性は現実には居ないだろうしな。



「居るみたいだね。ちょっとだけ妬けちゃうが仕方ない。

 その好きな人を僕だと思ってやって見たらどうだい?」



なるほど、そう言った方法があるんだな。……ん? ふと思いついたことがある。

そのヒロインが今の俺で、吉田さんを俺に見立ててやってみるってのはどうだ?

妄想で何度も告白されていたからどういう行動を取るのかも習熟済みだ。うん、それなら行けそうな気がする。



「もう1度やってみたいと思います。」


「そっか。頑張ろうね。」


「はい。」



俺は気持ちを入れ替えて頑張ってみることにした。



・・・・



「はい、カーット!! 完璧だよ!」


「「「「「「お疲れ様でした~!!」」」」」」


「さすがは千秋君だ、俺の見立て以上の出来だったよ。ありがとう!」



俺は今、監督に背中をバシバシと叩かれている。正直ちょっと痛い……

あの後、気持ちを入れ替えてやって見たところ、何と1発でOKが貰えたのだった。



「どうやら僕のアドバイスが役に立ったみたいだね。」


「吉田さん。ありがとうございます!」


「正直、千秋ちゃんに気持ちを向けられているソイツが羨ましと思ったよ。僕じゃ無くて残念だ。」


「あ、あはははっ(汗)」



それは俺です。とはとてもじゃないが言えない。



「千秋ちゃんとはまた仕事がしたいな。良かったら、この世界に入らないかい?」


「あ、いえ、その。ご、ごめんなさい!」


「そうか、残念だけど、今の所は諦めておこう。

 一応僕の名刺を渡しておくから、その気になったら事務所に連絡してくれると嬉しいな。」


「は、はぁ。」


「それじゃ、また会えることを楽しみにしているよ。」



吉田さんはそう言うと、振り返って歩き出した。

それを見て俺は有ることを思い出した。



「あ、あの! 吉田さん!」


「ん? 何だい?」


「サイン……お願いしても良いですか? ウチの姉が大ファンでして。」


「もちろん。えっと何に書けば……そうだ!」



吉田さんはポケットからハンカチを取り出すと、それにサインを書いてくれた。



「お姉さんの名前は?」


「梓と千歳と沙月です。」


「四姉妹なんだね。了解。」



一瞬、四姉妹について異議を申し立てようと思ったが、碌なことにならなそうなので黙っておくことにした。



「はい。どうぞ。」


「あ、ありがとうございます。でも、ハンカチ頂いちゃっても良いんですか?」


「構わないよ。それじゃね。」



吉田さんはハンカチを俺にくれると、そのまま行ってしまった。流石はイケメンだな。一般人の俺とは違うぜ。

その後は、契約についての話が有った。

本来であればキチンとした契約をしなければならないのだが、今回はイレギュラーな対応だったため、単なるエキストラとしての位置づけでの対応にしてくれた。

現金と振込のどちらかを聞かれたが、振り込みにすると親に色々聞かれそうなので現金で頂くことにした。



「あ、あの、この服を貰っちゃっても良いんですか?」


「かまわないよ。大事にしてね。」


「は、はい。」



正直いらないんだが、断るのも悪い気がしたので貰っておくことにした。後で沙月ねーにでもあげることにしよう。……いや、余計なことはやめておくに限るな。うん。


帰り際、監督さんに声を掛けられた。



「君と出会うことが出来て、僕は幸運だったよ。また次の機会が有ったらお願いしたい。」


「いえ、遠慮します。」


「そう言うわずにね。はい、僕の名刺。何時でも連絡を待ってるから。」



そう言って強引に名刺を渡してきた。ゴネても面倒なので、とりあえず受け取っておく。後で捨てれば良いしな。



「さてと、思いかけず現金が手に入った。これで帰れる!」



俺はタクシーを拾い、自宅へと無事帰ることが出来たのだった。

ねーちゃん達? まだ帰って無かったし、どうでもいいや。


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