027
建物を出た俺は、駅へと向かって歩いている。
「こんなことなら、舞ちゃんと一緒に帰るんだった。」
今更言っても遅いけどな。とぼとぼと歩いていると、前の方で何か揉めているのが見えた。
君子も言ってたことだし、近づかない方が良いか? でも、駅に向かう道はここしか無いんだよなぁ……
俺はなるべく避けるようにして通り過ぎようとした。
「男2人で女の子を無理やり……って、舞ちゃん!?」
どうやら舞ちゃんは悪質なナンパに会ってしまったみたいだった。
「離してよ!」
「ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃんか~」
「そーそー、俺たちがじっくりと手ほどきしてやるからよ~」
あまりにも悪質だったので、このままだと舞ちゃんが危ない!! 俺は方向転換して間に割り込むことにした。
「舞ちゃん、大丈夫?」
「千秋ちゃん!?」
「何だお前……おっ?」
「ひゅ~♪」
最初、割り込んできた俺に対して怒りを見せたが、それが見た目だけとは言え美少女だったため、喜んでいた。
「この子も良いじゃん♪」
「すげー可愛い! この子も一緒に楽しもうぜ~♪」
頭の先からつま先までジロジロと見られる間隔にゾワゾワとした。特に胸の部分を見られた時の恐怖は途轍もなかった。
「ひっ!」
思わず声が出てしまったのは仕方がないことだと思うが、俺の背中で震えている舞ちゃんに気が付いた俺は勇気を振り絞った。
「誰か~!! 警察をお願いします~~~!!!」
俺は大声で助けを叫んでみた。
「おい! 黙れ!」
男が俺の口を塞ごうと手を伸ばしてきたが、俺はその手を叩いて防ぐ。
「そこの人! 警察をお願いします!!」
「お、俺?」
たまたま通りかかった通行人を指さしてお願いしてみた。
「てめぇ! 分かってるよな? 呼んだら殺すぞ!!」
「ひぃ!」
絡んでいる男性ににらまれたると、関わりあいたくないのか、そそくさと逃げていった。
チッ! 使えないヤツだな!!
「これで邪魔者は居なくなっ……」
その時、パトカーのサイレンの音が近づいてきた。
「やべぇ、サツだ。」
「くそっ! に、逃げるぞ!」
その音を聞いた2人が慌てて逃げ出した。
「た、助かったぁ~」
「うん。」
「っと、そうだ! 舞ちゃん、怪我とかは大丈夫? あいつらに何かされなかった?」
「千秋ちゃんが来てくれたから何もなかったよ。ありがとう!」
「いえいえ、助けられてよかったよ。」
そこでふと気が付いた。あれ? そう言えばパトカーのサイレンの音が消えている?
と言うか、さっきの音からすると、もう此処に到着していても良いハズなんだが……
「千秋ちゃん、さっきのはコレだよ。」
舞ちゃんがそう言って、先ほどのパトカーのサイレンの音をスマホから再生してくれた。
「なるほど、さっきのはこれだったんだね。」
「よーく聞くと違うってバレちゃうんだけどね。」
「確かに。」
慌てていたからバレなかっただけで、落ち着いて聞けば違和感に気が付きそうだ。
「じゃあ、さっさとこの場を離れないとね。あいつ等も気が付いたら戻ってくるかもしれないしさ。」
「あ、そうだね。」
俺と舞ちゃんはその場からそそくさと離れて、人通りの多い道へと移動するのだった。
大通りまで出てこれたので、ようやく一息つけるようになった。
「ここまで来れば大丈夫かな。」
「たぶんね。」
「舞ちゃん。いくら近道だと言っても、暗がりで人通りの少ない道を通ったら駄目だからね!」
「は~い。って、千秋ちゃんも通ってるじゃない。」
「俺は男だか……」
「わー! わー! わー!」
舞ちゃんが、慌てて俺の口を塞ぐ。
「千秋ちゃん、こんな場所でそれを言ったら駄目!」
そりゃそうか。俺はコクコクとうなずくと、舞ちゃんは口から手を放してくれた。
「ごめん。」
「いえ、どこで聞いている人が居るかもしれないんだから、気を付けなさいよね。
それに今は千秋ちゃんでしょ? 見た目はか弱い美少女なんだから、ああいった輩には気を付けないとダメだからね?」
「ごもっともです。」
そうだった。俺は今女の子の格好をしているんだったっけ。
忘れていた訳じゃないけど、認識が甘かったな。気を付けよう。
「お互い気を付けようね。」
「だね。」
それから俺たちは、少し遠回りでも、人通りの多い安全な道を通って帰ることにした。
すれ違いざまに何人かの人に見られたりもしたが、無事に駅に到着することが出来た。
「じゃあ私はこっちだから。」
「うん。またね。」
「ばいばい。」
駅に着いたので別れることにした。
電車に乗り、ぼーっと外を見ながらさっきのことを思い出していた。
これからも、こういった事が起こる可能性が有りえるってことだ。舞ちゃんは可愛いし、俺も見た目はそうだ。
今も同じ電車に乗っている男性陣にジロジロと見られているしな。
「はぁ~」
思わずため息をついてしまった。
ホント、世の中の女性ってのは大変だよな。これからは女性をジロジロと見るのは、止めることにしようと心に誓うのだった。