002
「いえ、結構です。」
もう男とバレても構うものか、これ以上ここに居ると面倒なことになりそうなため、俺は拒否することにした。
だが、男性は力強く俺の両肩を掴んだまま、熱のこもった声で話しかけてきた。
「君は俺がずっと探していた人物だ。是非ともお願いしたい。」
「だから嫌ですって。」
何なんだこの男性は、周りの人も何だ何だと興味本位にこっちに注目していた。マジ勘弁して欲しい。
そこに1人のスタッフらしき人物がこちらへとやってきた。
「監督、少しお話が……ってその女性は?」
「見てくれ、この子は俺が求めていた子だ。俺はこの子でCMを撮るぞ! いや、この子じゃなければ撮らん!」
「分かりました。丁度良かったです。準備します。」
「任せたぞ!」
「はい。」
「いや、待って、お…私はやるなんて一言も……」
「向こうにスタイリストとメイクアップアーティストがいるので来てください。」
「ちょっとおおぉぉぉ~!!」
誰も俺の言葉を聞いてくれず、無理やり連れて行かれるのだった。
連れてこられたのはプレハブの小屋だ。
「まずはこれに着替えて!」
「えっと。」
「時間が無いの! さっさと着替える!」
「はいぃ!」
勢いと言うか、年上の女性に言われると逆らえない。これもねーちゃん達の影響だろうか……
俺は服を脱ぐことにした。
「ふむ、胸はDね。形も良いし、十分十分。
あ、下着はそのままで良いからね。」
そーいや、シリコンで作られてたんだっけ。忘れてたよ。
服を着替えた後は、メイクをされることになった。
「うわっ、肌、チョー綺麗~! しかもメイクも完璧? これならちょっとした修正で済みそうやね。」
「あ、あの。」
「はみ出ちゃうからじゃベらない!」
「・・・・」
「ここチーク入れて! リップはラブローンの48番。」
「はい! チーフ!」
「ここに軽くカールを入れて、髪、少し切るけど良いかな?」
「あ、えっと、その……」
「大丈夫、悪いようにはしないから、ココとココ3mmカットね。整えて!」
「はい!」
俺の有無を聞かずにどんどん変化していく。まぁ、ウィッグだから別に切っても支障が無いから良いんだけどさ。
それにしてもウィッグって気が付かないものなんかね? それともねーちゃん特殊メイクの技術が凄いとか?
「終わりっと!」
「うわぁ~」
鏡の前には美少女が居た。いや、俺だけどさ。
ねーちゃん達にやられたときも凄いとは思ったが、流石はプロだ。さらに凄いことになっていた。
そして俺は現場へと連れて行かれるのだった。
「うわっ、可愛い!」
「誰、あの子!」
「チョー綺麗!」
「俺、ファンになった……」
俺が現場へと到着すると、あこちから見られているのが分かった。
「監督、準備出来ました。」
「うんうん、予想以上だよ。これで成功間違いなしだ!」
先ほど俺を捕まえた男性の所へ連れて行かれ、その監督さんがウンウンと頷いていた。
「この子が例の子なのかい?」
そこに『吉田 翔』がやってきた。ち、近い!
「そうだ。この子が君のパートナになる子だ。」
「そうか。宜しくね。」
そう言って『吉田 翔』が手を出してきたんだが、どうすれば良いんだ?
俺が迷っていると、吉田さんは俺の手を取って握手した。大きな手だな。くそっ、同じ男なのにこんなに差が有るのかよ!
っと、それよりも言っておかないと。
「あの、私、やるとは一言も言って無いんですけど。」
「まぁまぁ、君なら大丈夫だ。」
「だ~か~ら~!」
「僕と一緒は嫌かい?」
「嫌とかそう言った以前の問題であって!」
「僕は君とやりたい!」
吉田さんが、真っすぐな目で俺を見た。くそっ! イケメンは何をやってもイケメンだな。羨ましいぜ!
「台詞は殆ど無いから大丈夫だ。僕を信じてやってみないか?」
「えっと。」
「そうそう、忘れていたよ。今回の出演料だけど、正式な契約じゃないからこのくらいになるよ。もちろんニコニコ現金一括払いだ。」
俺が迷っていると、監督さんが1枚の紙を俺に渡してきた。それは契約書で100万円の文字ががが……
「やります!」
「君ならそう言ってくれると信じていたよ。宜しく頼む。」
「あっ……」
思わず金額に眼がくらんで言ってしまった。馬鹿だよ俺……もうなる様になれだ!