019
「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
「よし、いったん休憩しようか。」
「「はい。」」
どうやら休憩に入るみたいだ。ダンスレッスンで結構疲れていたから丁度良かった。
俺と舞ちゃんは、タオルとペットボトルの水を受け取ると、壁際に背を向けて座り込んだ。
「疲れたね~」
「そうですね。」
「千秋ちゃんって、見た目以上に体力あるみたいで羨ましいです。」
「そ、そっかな?」
そりゃあ、男性と女性では基礎体力が違うからね。
舞ちゃんが、ジッと俺の顔や体を見ている。特に胸の部分をしっかりと見ていた。
「えっと、な、何かついてる……のかな?」
「いえ、大丈夫です。何も付いてませんよ。
やっぱり気のせいだったのかな……(ボソッ)」
最期のところをボソッっと話したみたいだけど、近くに居たためしっかりと聞こえてしまった。
「気のせい?」
「あ、聞えちゃった? ごめんね。
挨拶した時にも言ったけど、千秋ちゃんと同じ名前の男の子の話をしたじゃない。」
「う、うん。」
「その男の子と千秋ちゃんは、雰囲気が凄くソックリだったんだよね。でも、見た目が全然違かったから、勘違いだったのかなって。」
「そ、そうなんだ。」
よっしゃ~! そのまま勘違いしておいてくれ!
後はこのまま勘違いを加速させていけば、より安心だ。なら!
「実はその男の子って、舞ちゃんの好きな子だったりとか?」
「ちちちち、違っ、違うからね! 確かに整った顔してたし、カッコイイよりは可愛い感じだったけど、かなり好みの顔……いや、やっぱり今の無し!」
「う、うん。」
えっ? 俺って舞ちゃんの好みだったの? なら、男として会ったらワンチャンもあり得るとか!?
「う~! 恥ずかしいなぁ~もう!
こうなったら、私の好みを知ったんだから、千秋ちゃんの好みも教えてよ!」
「私!? 私は……特に無いかな?」
「私だけ教えるのってズルイ! 良いから教えなさいよ!」
「とは言ってもなぁ~ 舞ちゃんみたいな子が好きじゃダメ?」
「駄目に決まってるでしょうが! 私は、その…そっちの気は無いわよ!」
「お、私も同姓の趣味は無いです。」
一瞬、俺って言いそうになっちゃった。危なかった。
「なら良いです。」
「まぁ、舞ちゃんは、ファン第1号になっても良いって言うくらいには可愛いとは思うけどね~」
「えっ?」
舞ちゃんが突然驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「ファン第1号……」
マズイ! 正体がバレそうなことを思わず言っちゃったよ!
「ふぁ、ファン第1号がどうしたのかな?」
「同じこと言われた。」
「へ、へぇ、そうなんだ。ぐ、偶然って有るんだね。」
「カラオケ。」
「!? か、カラオケがどうしたの?」
「……何でも無い。」
一瞬、カラオケの言葉に反応してしまった。これはバレたか?
「そろそろ休憩を終わりにするぞ。」
「あ、はい。」
「はい。」
バレたかもしれない不安を感じつつ、レッスンは続くのだった。