015
カラオケの出来事から2日後、今日から歌のレッスンが始まる。
学校が終わってからのレッスンなのは正直助かった。
放課後になり、急いで帰ると、すでにねーちゃん達はスタンバイ済みだった。
特に特殊メイク担当の千歳ねーちゃんは、やる気満々だ。
「はい、千秋ちゃん、脱いでね♪」
「はい……でも、パンツ、パンツだけは自分で履かせて下さい! お願いします!!」
「もう、しょうがないなぁ~」
どうやら今回は、俺の最後の尊厳だけは守ることが出来そうだ。
「でもさ、私達と言うか、千歳ねぇがいつも居るとは限らないじゃん。
千秋一人でも出来るようにしないとマズいんじゃない?」
「そうねぇ~、千秋ちゃんやってみよっか。」
「拒否権は?」
「無いわよ~」
「ですよね~」
俺は自分の胸を特殊メイクで作るのだった。今なら胸を盛っている女性の気持ちが……って、わかるか~!!
「ん、まぁまぁかな? 流石は千秋ちゃんは器用だよね~
プロが直接見たらバレバレだろうけど、服の上からなら分からないレベルかな? 後は練習あるのみだね!」
「千秋、次は化粧よ。こっちは私の方が専門分野で得意だからシッカリ学ぶのよ!」
「へいへい。」
次は沙月ねーちゃんの番らしい。あー面倒くさいな。何で女性は化粧なんてするんだろうな。
確かに見た目は綺麗になるけど、偽物じゃ意味無くね? 24時間365日ずっと化粧したままにするのか? 無理だろ?
バレた時のショックを考えると、完璧な化粧って必要無いと思うのは、俺が男だからだろうか。
「とは言っても、俺の場合は変装の意味合いも有るから、完璧を覚えないと死ぬ。」
「ほら、ブツクサ言って無いで、しっかりやる!」
「へ~い。」
「それにしても、沙月ねーちゃんって、こんなに色んな種類の化粧を持っているんだな。」
「はぁ? これは千秋のよ。この前のモデル料で買ったんだ。もちろん私も少し使わせて貰ってるけどね。」
「おい! 初耳だぞ!」
言われてみれば、モデル料を貰ってなかったな。幾らもらったんだろう……
「ちなみに幾ら使ったの?」
「確か……ケースや鏡等の道具も全部そこそこ良い物で揃えたから……10万円くらいかな?」
「モデル料は?」
「10万円。」
「全部やん! 俺、1円も貰って無いぞ!」
「初期投資と言うか、必要経費よ!」
「あーうん。」
そう言われると反論のしようが無いな。モデル料はあきらめることにしよう。
「いつも思うが、女性って怖いよな。」
完成した顔を鏡で確認して出た一言がこれだった。
何となく俺の面影が有る以外は、全くの別人だったからだ。
「何言ってるのよ、これは最低レベルの技術よ。だからこの位は当然出来ないと駄目だからね。」
「マジか……」
特殊メイクに化粧と、ホント覚えるのが多くて大変だ。
後はウィッグを被ってセットすれば美少女の完成だ。そして自分で美少女と言ってショックを受けるのだった。
「千秋、これに着替えたら出かけるよ。」
「へいへい。」
「その恰好をしたら、男性言葉は止めなさい。」
「は~い。」
俺が用意された服に着替えると、ようやく準備が完了した。
そして、歌のレッスンをするために、家を出るのだった。




