013
何とか学校も終わり、自宅への帰り道で気が付いた。
あちこちの宣伝ボードや、電車内の吊り広告に俺の写真が有ったのだ。
学校に行くときには無かったから、おそらく本屋等が開く時間で張り替えたのだろう。
道行く人がその広告を眺めているのを見ると、謝りたい気持ちになるのは何でだろうな。
俺を見ている訳じゃないのに……いや、ある意味俺だが。直接見られている訳じゃないにも関わらず、何となく見られている気がして意心地が悪い。
世の中の芸能人は、写真だけでなく、プライベートの本人自体も見られているんだよな。ホント凄いと思うよ。
気楽に歩けなくなって、マスクとサングラスで変装している人の気持ちが、今ならよく分るぜ。
「ただいま~」
「おかえり。」
「あれ? 梓ねーちゃん、今日は早いね。」
「千秋に話が有ったからね。着替えたらリビングに来て頂戴。」
「へ~い。」
梓ねーちゃんは、先日、今まで働いていた仕事をアッサリと辞め、俺が所属している芸能事務所に入社して正式に俺のマネージャーとなったのだ。
千歳ねーちゃんと沙月ねーちゃんは、流石に学生だったために正式なマネージャーにはなれず、梓ねーちゃんの手伝いと言うポジションで落ち着いたのだった。
その梓ねーちゃんから話が有るってことは、おそらく仕事の話なんだろうな。面倒くさいな。
部屋に戻り、着替えてからリビングへと向かう。
「来たよ。」
「千秋、そこに座りなさい。」
「何で床?」
「文句ある?」
「……無いです。」
俺は言われた通りに床へと座ったんだが…… あれ? 確かマネージャーって担当、つまり俺のケアも含まれているハズだよね?
何で梓ねーちゃんはソファーで、俺は床なのだろう……解せん。
「で、話って何?」
「千秋の次の仕事が決まったわ。雑誌の広告の影響は大きかったみたいね。」
「ふ~ん。で、何の仕事なんだ?」
「アイドルよ!」
「はぁ? 何でまたアイドルなんかをやるんだよ!」
「役者、モデル、アイドルと一通りやらせてみたいってのが、向こうの考えみたいなのよ。
今のところその2つは成功しているし、アイドルも出来るとなると、マルチタレントとして売り出せるってことなんじゃない?」
「そうは言ってもなぁ、俺学校以外で歌ったことって無いんだよね。正直自信無いぞ。」
「ふふふっ、そうだろうと思ってたわ。そろそろ千歳と沙月も帰って来るだろうし、そしたらカラオケ行くわよ!」
「拒否権は?」
「有ると思ってるの?」
「ごもっともです……でも、普通、歌の練習とかって、専門の人にやって貰うんじゃないの?」
「そっちももちろんやるわよ? 今日はただ千秋の歌を個人的に聞きたいってのと、ストレス解消が目的よ。」
「そうですか。」
相変わらずねーちゃん達に振り回されるのは、弟としての宿命なのだろうか。
しばらくして千歳ねーちゃんと、沙月ねーちゃんが帰って来たので、俺は強制的にドナドナされてカラオケに行くのだった。