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012


撮影の後は特に仕事が無い平穏な日々が1ヵ月ほど続いていた。

忘れていた訳では無いのだが、例の雑誌がいよいよ明日、発売される。

そして、俺の手元にはその雑誌が置いてあるのだが……



「表紙、千秋だね(笑)」


「言わないでくれええぇぇぇ~~~!!」



何とデカデカと表紙を飾っているのが俺だったのだ。明日、店頭にこれが並ぶのか? マジかよ……

俺は、恐る恐る雑誌を手に取り、中身を確認してみることにした。



「うわっ、マジか……」



そこには物凄く可愛い女の子が、秋の新作ファッションのコーナーと言う形で紹介されていた。

俺が見ても、俺とは全く見えない。だから、俺がそれを知らなかったらマジでホレているかもしれないくらいの出来だった。

そして最後のページには簡単なプロフィールが書かれていた。



「何々、新人の千秋です。15歳の女子高生をやってま~す♪ 好きなことは読書と、美味しい物を食べることと、ウィンドウショッピングとかも大好きで良くお洋服を見に出かけています。

 だから、私は秋ってとっても大好きなんですよね。読書の秋って言うし、美味しい果物は多いし、重ね着も出来るから色んなコーディネートも楽しめるし、最高です!

 でも、ちょっぴり寒さを感じる時は、重ね着をするよりも、あなたが側にいてくれると嬉しいな♪ なんてね。……って、なんじゃこりゃああぁぁぁぁ~~~!!!」



俺は一言もこんなセリフを言ったことは無い。なのに勝手に俺のイメージを作らされている。流石は芸能界。怖い、怖すぎるぜ!

ねーちゃん達は、ゲラゲラと笑い転げているが、まぁ、気持ちはよく分る。



「マジウケる! 千秋は私を笑い殺す気か!」


「俺が書いたんじゃねーよ!」


「だったら誰がこんなセリフを考えたのかな~? やっぱり木村プロデューサーさんなのかな?」


「あ、それ私。」


「沙月ねーちゃん! いつの間にと言うか、何てことしてくれたんだよ!」


「頑張った。」


「頑張ったじゃねーよ! だいたい読書って何だよ! 俺は漫画しか読まねーし、甘いものも得意じゃねーよ! 服なんてかーちゃんが買ってきたのを適当に着てるだけだぞ?」


「そう? 見た目のイメージにピッタリ合ってると思うけど?」


「そりゃ合ってるかもしれないけどさ、俺の立場ってものが有ってだな。」


「いいじゃん、これで千秋を大々的に売り出せるってことで。イメージ的もピッタリだしね。」


「千秋可愛いよ~」」


「もうどうにでもなれ~!」



ねーちゃん達に言っても無駄なので、俺は考えることを放棄することにした。

そして次の日になり、俺が学校へ行くと……



「千秋、改名しろ!」


「会った早々、何を言ってる! 意味が分からんぞ。」


「お前、無知だな。頭大丈夫か? 改名ってのは、名前を変えるってことだ。」


「そのくらい知ってるわ! 何で俺が改名しなくちゃならねーんだよ!」


「そりゃあ、お前と、千秋ちゃんが同じ名前ってのが許せないからだ!」


「そんな無茶苦茶な……」



案の定、大騒ぎになっていた。

あちこちで例の雑誌が開かれていたが、確か今日発売日だったよな? 何ですでに持っている人が何人も居るんだ?

一応分かってはいるが、聞いてみることにした。



「だいたい千秋ちゃんって誰だよ。」


「馬鹿っ! お前知らねーの? 半年前のCMで話題になった子で、今日発売の雑誌でモデルデビューした子なんだよ!」


「ふ~ん。」


「……もしかしてお前、まだ見てないのか? 見たらそんな態度なんか取れなくなるぞ?」



いえ、しっかりと見ましたよ。出来れば消して欲しいと願ったくらいだし。



「ほら、ちょっと来いよ!」


「いや、俺は良いよ!」


「良いから来い!」



俺は無理やり雑誌を見ている集団へと連れていかれるのだった。

そして見せられる自分の写真。何だよ、この羞恥プレイは……



「か、可愛い子、だ、ね。うん。可愛い……ね。」


「だろ? これで俺が言ってた意味が分かっただろうが。」


「いや、さすがにそれで名前を変えさせられるのはちょっと……」


「はぁ? お前の名前が千秋だと、この子の名前が叫べないだろうが!」


「そんなの知るか!」



そんなこんなで色々と有ったのだが、何とか改名することは逃れることが出来たのだった。


昼休みになり、教室のあの空気の中に居づらかった俺は、一人屋上のベンチで昼飯を食べていた。



「ふぅ……やっと落ち着けたな。」



プルルッ、プルルッ、プルルッ……



と思ったのもつかの間、スマホに着信が入った。沙月ねーちゃんだ。何だよこんな時間に連絡なんて。



「何?」


「例の恰好で私の所に来なさい。」


「無理!」



ピッ!



俺は電話を切った。これでよしと。



プルルッ、プルルッ、プルルッ……



また掛って来たよ。面倒だなぁ……



「だから無理って言ってるだろうが!」


「来ないと殺す!」


「ひぃ! ごめんなさい!! でも、俺一人では準備が出来ないんです!」



服とウィッグ程度なら何とかなりそうだが、化粧と例のシリコンは無理だ。



「梓ねぇは?」


「仕事。」


「じゃあ、千歳ねぇは?」


「大学。」


「ちっ! もういい!」



ツーツーツー……



「切りやがった……」



おそらく予想だが、学校で雑誌の子と知り合いだと自慢したんじゃないかと予想している。

そっちの都合で、俺を巻き込まないでくれ~!


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