010
「はぁ、やっぱり吉田様ってカッコいいわ~」
「うんうん。生吉田様最高~」
「ねぇねぇ、私達もこれからは翔さんって呼んだ方が良いのかな?」
「良いんじゃない? これから長い付き合いになるだしね。」
「だよね~」
「まぁ、私がお嫁さんになるんだし、問題無いわよね。」
「はぁ? 沙月、何言ってるのよ。お嫁さんになるのは私よ?」
「千歳、夢は寝て観る物よ? それに吉田様に一番合うのは私だし。」
ねーちゃん達がギャーギャー言い合っている。女3人集まれば姦しいとはよくも言ったものだ。
「ねーちゃん達、他の人の目も有ることだし、そろそろ止めようよ。」
「そ、そうね。」
「わかった。」
「気を付けるわ。」
何とか落ち着いたところで、エレベータで3階まで降りる。
エレベータを降りて、案内図で撮影スタジオの場所を確認し、そちらへと向かうと、カメラを持った男性が待っていた。
「貴方が噂の千秋ちゃんね?」
「はい。」
噂? どんな噂だろう。
そんなことを考えていたら、男性カメラマンが俺の顔を覗き込んでいた。
「あら、あなたって噂以上のすっごく良い素材してるじゃない。とっても可愛いわぁ~」
「は、はぁ。」
この話し方ってオネエの人なのか? 初めて見たよ。
「私は、カメラマンのキャサリンよ。宜しくね。」
「斉藤 千秋です。宜しくお願いします。」
「じゃあ、今から写真を撮るんだけどぉ、まずはあちらで準備してきてね~」
撮影スタジオには写真を撮るだけでなく、化粧や髪型をセットするスタッフや、そのほかにも色々な機材を取扱っている人が待機していた。
「は~い、じゃあこっちに来てね~」
女性スタッフの人に連れられて椅子に座る。
「じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃいますか!」
「お願いします。」
俺は女性スタッフにより化粧を直されている。
「一応言っておくけど、あの人の名前キャサリンじゃないからね?」
「それは、まぁ、何となくそんな気はしてました。」
「あははっ、でね、本当の名前は~『キャサリンよ!』……後で本人に聞いてね。」
「あ、はい。」
どうやら本人的には知られたくは無いみたいだ。別に俺的にも知りたいとは思わないからキャサリンで良いか。
「さすがは若い子は肌が綺麗よね~と言うより、化粧自体あまりしてないでしょ?」
「はい。でも、そういうのって分かるもんなんですか?」
最近は男性でも化粧をする人が増えているとは聞くけど、俺の周りには流石に居ないから縁が無かったしな。
「だって、化粧のノリが全然違うからね~
ちょっと、口を窄めて~……はい、良いわよ。」
「そう言うことだと、化粧をしている人ってノリが悪くなるんですか?」
「んー全部がそうとは言えないんだけどね。キチンとケアしている子の肌は綺麗よ?
ただ、やっぱりしてない人に比べると、クレンジングとかの影響で、どうしても肌は若干荒れちゃうかな?」
「そうなんですね。」
「そそっ、だから若い時は、化粧なんかはしないで、乳液と化粧水だけにしておいた方が良いんだよ~」
「勉強になります。」
まぁ、俺には関係ない話だけどな。
「ちょっと目をつぶってね~……はい、これで完成っと。」
「ありがとうございます。」
流石はプロだ。ねーちゃんと比べると手際の良さが違うな。
鏡の中の俺は、さっきに比べて1~2割増しで可愛くなってる気がする。
「じゃあ、向こうにスタイリストさんが居るから、着替えてね。」
「はい。」
スタイリストさんの所へ行くと、衣装は事前に決まっていたらしく、すでに用意されていた。
「はい、これに着替えてね。」
「分かりました。」
更衣室が用意されており、そこで着替えることにした。
「はぁ、何やってるんだろ。」
最近、女性の服に着慣れてきた気がするんだが、気のせいだろうか……
くるっと鏡の前で一回りして衣装に乱れが無いことを確認してから、更衣室を出るのだった。