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新装版 傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
【__小鳥の束の間の平穏__忍び寄る闇__】
98/133

Episode97・(Ren Side)





「______川嶋さん?」





 

 看護師は驚いた様に告げた。

看護師は驚き双眸を丸くした後に、ナースコールを押した。


 「川嶋廉さん。意識が戻られました!!」









「………奇跡的だ、私が分かりますか?」




 医者の言葉に微かに頷く。

けれども胸の鈍い痛みが、生きている実感を感じた。




 狂喜乱舞した舞子の諌める為に

彼女の狂気を受け入れた事も、全て覚えている。


 全てを悟りを開いた刹那、

被害者の意識が回復したと、世間に知れる事となれば

容赦ないのマスメディアのメディアスクラムが目を霞んだ。




 一通りの精密検査を受けてから、連絡を受けた和歌が訪れた。






 急用の仕事の話が終わった後に、

従兄の意識が回復したと病院から連絡を受け、迷わず駆け付けた。



 息を切らして駆け付け

従兄を見た刹那に鳩が豆鉄砲を食らった面持ちを浮かべ、

何処か信じられないという表情を浮かべ茫然自失と固まっている。




「………廉」


「………」




廉は、不器用に微笑んで左手を微かにひらひらとさせた。

刹那げな青年の表情に、和歌は目を伏せて影を落とす。




「…………大丈夫。記憶喪失じゃないし」


「…………」






 全てを聞いた。




 あれから2ヶ月もの間、意識不明だった事。

集中治療室<ICU>に運ばれ生死の境を彷徨い、一時期は危篤状態が続いた事。


廉は、完全に心臓を狙われたと思っていたが、


 外れていたのは

舞子が意識的に反らしたのか、狂気の感情に染められた故に

見境が付かなかった為に急所を外したのかは分からない。




(きっと、狂気に取り憑かれているあの人には選別は出来ない。


………たまたまだ)






川嶋舞子は再び逮捕され、

その“川嶋舞子”という女に世間は、スポットを当てた。


地主の名家の令嬢が元恋人とその家族を焼き殺し、

出所後は(やが)てその刃を息子に向けた。








 前代未聞のセンセーショナルの熱は止まない。


 無期懲役の仮出所を終えた女が、

通り魔となり息子である男性を刺した___。

男性は意識不明の重体だったが、意識を取り戻した。


 マスメディアの過熱とメディアスクラムは止まない。




 川嶋舞子の実家である川嶋家の自宅にも

マスメディアは問答無用で押し掛け、張り込んでいる。


 張本人である、舞子はずっと黙秘を貫いているらしい。






(殺人者の息子、という事が明らかになるのは、時間の問題だろうな)




 刹那的に廉は、悟った。


舞子が通り魔として選んだ標的は息子。

同姓である以上、もう自分自身の身を、素性を、隠せやしない。



 きっと素性は明らかになっているだろうから、

これからの生活も変わっていく事だろう。


 和歌は敢えて解っているから触れないだけで

だから、此方に向けている視線も何処か気不味そうなのだ。






















 くすんだ雲。低気圧による、冷気の風当たり。

西口はあまり人目に当たらない静観な住宅街側にある。

そのせいか、病院の裏口である事も同然の様に見えるだろう。




 誰も知らない園庭が伺えた。

揺り籠の様な絵本の夢物語に現れる様な、お花畑を絵に描いた様な場所。

 



 裏口だからなのか、あまり人目に触れないからなのか。

何処か物寂しく影のある雰囲気を醸し出している。


 不意に前を向くと、黒の軽自動車が止まっていた。

よく見ると和歌はひらひらと此方に向かって手を振り、

車のウィンドウガラスが、静かに降りる。


 「(早く、乗って)」


 口パクで、そう此方に伝える。


 運転席には杏子がいた。

けれども杏子の違和感を、廉は瞬間的に悟ってしまった。


 杏子は神妙な神妙な面持ちを浮かべたまま、何処か憂き

素早く乗り込んだ廉を乗せたのを確認すると、車は路地を迂回する。


  マスメディアから目を逸らす為だ。


 後頭部座席から微かに伺えた杏子の顔色は変わらない。

廉には気遣いを見せ言葉をかけているものの、


 対して和歌はその空間から外れたいかの様に窓の車窓を眺めている。

それはまるで深窓の令嬢の様な佇まいだ。




 辛辣な触れがたい空気。

それは意図せずとも、幼き頃から人の感情を

読み取る癖が働いてしまった彼ならまるで呼吸をする様に解る。


大人の顔色、その醸し出す空気と距離感。




(______何故だ?)






 別け隔てのない、無条件に労り合う母親と娘。

けれども今は和歌が何処かで母親の顔色を伺っている。

 マイナーな空気と距離感。触れてしまえば、逆鱗に触れる様な温度差。

 母娘の会話は成り立つ事はない。


 何かしらあったのだろう。廉は

そう思いながらその空気に馴染んだふりをした。

時折に杏子から注がれる言葉へ相槌を打ち、言葉を返す。




 その微細な変化を飲み込んで、(やが)て 気付く。








 嗚呼。




(やっぱり、何処かで疎ましく思われているんだ。僕は)






 マスメディアが取り囲む家には帰れないから

廉は退院すると同時に水瀬家に身を寄せた。


 自分自身が暮らしていた頃のマンションとは違う。




 当たり前かの様に

当然の様にある、自身の空間。

衣食住の安全も保証されていて、

自身が引き取られ育っていたあの頃と何も変わらない。




 ただ舞子の蒔いた種により、生きづらくなったのは確実だ。




“死に至らせる事で、自分自身のモノにする毒女”




 何処かで耳にした、舞子のあだ名。


 確かにそうだ。

彼女は、死を持って元恋人を自身のモノにした。




(でも、息子は違う)




 自分自身の砦になれなかったから。

自分自身の意のモノになれない、と思い逆上と共に狂気を抱いた。


 もう要らない子供だったのだろう。




 でも致し方ないのだ。

アパートには、連日マスメディアが張り込んでいる。

 そして“川嶋 廉”という男の素性は間もなくして

“川嶋舞子”という名の母親に暴かれた。


…………息子の、将来を潰す形で。








 そんな中である思いが心を掠めた。




(…………僕は?)




 不意に気付いた思い。




 元恋人と長年に渡り不倫関係だったのなら、

自身と水瀬颯真との血縁関係も元から無いのではではないか。


___本当は水瀬家とは関係のない人間なのかも知れない。

きっとこの思いは虚無ではないと、直感的に思う。




(………だったら)










 慎ましやかに助け合う母娘の作り出す空間に、

逃げる様に居候し、踏み込むのは気が引けてしまう。


 これからどうしようか。

また何事もなかった様に暮らす事は出来るか。


 薄幸と嘲笑の微笑みを浮かべながら、

それすらも罪なのだと思いながら、自傷の症状が疼いた。



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