表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する  作者: 猫子
第二章 悪夢の怪馬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/146

第四十八話 屍将のドロップアイテム

 〈嘆きの墓所〉の主……ナイトボーン改め、スカルロードを倒した。


 通路が大きく揺れ、床や壁に亀裂が走る。

 この〈夢の穴(ダンジョン)〉の崩壊が始まったのだ。


 俺はスカルロードの魔石を拾い上げる。

 こんな状況だが、回収を忘れるわけには行かない。


「【Lv:85】の魔石なんて初めて見たぜ……いくらになるんだか」


 ケルトが歩み寄って来る。


「そうだな……だいたい、一千万ゴルドには届かないくらいか?」


 魔石の値段はレベルで決まる。

 綺麗に比例しているわけではないが、だいたい何レベルでいくつなのかは覚えている。


「いっ、一千万……!?」


 驚きのあまり、ケルトの声が裏返っていた。


「こいつだけで一人頭二百五十万ゴルドって……パッチワークの魔石も二つあるのに。大規模依頼(レイドクエスト)の報酬が霞んじまうな。お前にしろルーチェにしろ、大金掴んで平然としやがって」


「えへへへ……」


 ルーチェが誤魔化すように笑う。

 正直、一千万ゴルド程度のドロップは、俺達は慣れているのだ。

 本当にルーチェ様様である。


「あっ……」


 崩れてほとんど粉になっていくスカルロードの死体を傍らに、盾が残っていることに気が付いた。

 いや、そのままではなく、少しばかり小さくなっている。

 削った骨を組んで作られ、中央に頭蓋骨の添えられた、不気味なデザインをしていた。


――――――――――――――――――――

〈屍将の盾〉《推奨装備Lv:85》

【防御力:+88】

【市場価値:五千五百万ゴルド】

 屍の将軍の盾。

 強い怨念を帯びており、生半可な攻撃を通さない。

――――――――――――――――――――


 拾い上げて確認し、思わず「おっ」と声が出た。

 ヒルデから巻き上げ……正当な決闘の対価としていただいた金額を、僅かに上回っている。

 何なら上手く捌けば、これ一つで〈燻り狂う牙〉の〈技能の書(スキルブック)〉でさえ買えてしまう。


「〈夢の主〉はドロップしやすいにしろ、あっさりと出してくれやがるな……。さすが〈豪運〉持ちがいるだけはある」


「強引にトドメ刺しておけばよかったって思ってるんよ?」


 ケルトの言葉に、メアベルが皮肉を刺す。


「あの化け物相手にんなもん狙ってたら、俺は今頃ここに立ってねぇよ……」


 ケルトが気まずげに下唇を噛んでいた。


「だが、パッチワークのドロップも持ってったんだ。エルマには、酒くらいは奢ってもらわねぇとな」


「今確認したが、五千万ゴルドだった」


「ごごごっ、五千万ゴルドォ!?」


 冗談めかして笑っていたケルトも、顔の色を変えていた。


「そっ、その悪趣味な盾っ! そんなにするんですか!?」


 高額ドロップには慣れていたはずのルーチェも大慌てしている。


「できれば売りたくはないがな。さすがにレベル上過ぎて少し重いが……それでもこの防御力は魅力的だ。これで〈狂鬼の盾〉も卒業できる」


 何せあちらは【防御力:+25】である。

 いい加減に性能不足でせいぜい攻撃を受け流すのが限度だったが、これなら正面から受け止めてもダメージを大幅に軽減できるはずだ。


 この世界では、レベルが足りない武器は重く感じ、扱い難くなる。

 だが、それでもこの性能は魅力的だ。

 一応ルーチェに相談はするが、できればこんなアイテム、絶対に手放したくないというのが本音だ。


「しかし、さすがに俺ばかり申し訳ないな。ラストアタックを取ったとはいえ……。いくらか分配しようか?」


「そういうの込みで回復役には手当てが出てるんよ。それにウチなんて、スカルロードとの戦いではMP不足でほぼ手助けもできなかったのに、レベルが四つも上がってしまったし……むしろ申し訳ないくらいなんよ。あの狩人さんには、恵んであげる義理なんてないし」


 メアベルがまたばっさりとケルトを刺した。

 す、少しくらいは労ってやってもいいと思うんだが……。


 周囲が白い光に包まれて、壁や床が消えていく。

 そろそろ外に飛ばされる時間だ。


「また分配のためにギルドで集まることにはなるけど、外に出たら、ひとまずこのパーティーはここまでなんよ。色々あったけど、お二人さんと組めてよかったんよ」


 最後の最後までケルトを刺していく。

 ケルトも立場上何も言えず、苦々しげな表情を浮かべていた。


「冗談なんよ。ケルトさんとも組めてよかった。もしも他の人だったら、きっと今頃スカルロードも倒し切れてなかったんよ」


 メアベルがくすりと笑い、そう口にする。


「けっ、心にもねぇことを、腹黒僧侶が」


 ケルトは顔を逸らし、頭を掻きながらそう口にした。


 和やかな空気だが……大きな懸念点があった。


 〈夢の主〉であるスカルロードを討伐し、〈嘆きの墓所〉は無事に消滅している。

 〈夢の穴(ダンジョン)〉の異変の連続の正体も見えてきた。


 だが……この事件を悪意的に仕組んだ人間が、まだ近くにいるはずなのだ。


 俺達の身体も薄れていく。

 気が付けば……俺達は、〈嘆きの墓所〉の入り口のあった、朽ちた墓場の跡に立っていた。


「どういうことだ……?」

「おいおい、先行して〈夢の主〉を倒しやがった奴がいるのかよ!? ルール違反だろ!」


 状況を全く掴めていない冒険者がいるようだ。


「た……助かったのか? とんでもねぇ化け物が出てきて……全滅寸前まで追い込まれていたんだが。ア、アレを倒した奴がいるのか?」


 血塗れの大男が、びくびくとした様子で話す。

 直接スカルロードとぶつかったらしい。


 俺は周囲を見回す。

 六人……いなくなっている。

 二十人だった冒険者が、十四人しかいない。


 〈夢の穴(ダンジョン)〉の中で死んだ者は、外へと出て来られない。

 遺体も〈夢の穴(ダンジョン)〉と共に消滅する。


 だが、この場に増えた人間はいない。

 〈王の彷徨(ワンダリング)〉を引き起こした人間がいれば、この場にいるはずだと考えていた。

 レイドメンバーの中に紛れ込んでいるのか、スカルロード討伐前に外へ逃げてしまったのか、途中で命を落としたのか……。

 

「有り得ない……あの進化個体を、倒せた冒険者がいるのか……? そんな、一体誰が……」


 カロスは狼狽えるように周囲を見回していた。


「俺のパーティーが倒した」


 俺はカロスの背へと近づき、声を掛けた。

 周囲の冒険者からどよめきが上がった。

 カロスも驚いたらしく、目を見張って俺を見つめていた。


「君達が……! いや、君が、か! エルマ、君には特別なものがあるような気がしていたんだ。でも……まさか、私がどうにもできなかった魔物を、君が倒してしまうとは」


 俺一人でやったような言い方はとんでもない買い被りだ。

 他の三人が一人でも欠けていれば、手も足も出なかった。


「カロスもスカルロードと対峙していたのか」


「ああ……姿が見えてすぐ、他の三人ではどうにもならない相手だと踏んで、私一人で向かったんだ。ただ、恥ずかしながら、まるで敵わなくてね。逃げて他の冒険者に状況を伝えるべく動いていたんだが……急に〈嘆きの墓所〉が消えて、本当に驚いていたよ」


 俺はちらりとヒルデへ目を向ける。


「師匠……本当に無事でよかった。オレ、師匠が死んだら、どうすればって……!」


「ヒルデは大袈裟だ……と言いたいけれど、今回ばかりは危ないところだった。本当にありがとう、エルマ。私の命は……いや、ここにいる全員の命は、君が救ったも同然だ」


 カロスが俺の手を握る。


「今度またゆっくりと礼をさせてもらいたい。それに……君に、とても関心が湧いた」


 カロスはそこまで言って、俺に顔を近づけ、声を潜めた。


「……今回の件ではっきりした。〈夢の穴(ダンジョン)〉災害は人為的に引き起こされたもので……ハウルロッド侯爵家が……最低でも、ギルドが関与している」


 カロスはそれだけ伝えると、俺の傍から離れていった。

 ……これは、都市に戻ってから、またこの件について相談させてほしい、というメッセージだろう。

 カロスも俺と同じ結論に到達していたらしい。


 俺は改めて残ったメンバーを一瞥する。

 ……〈王の彷徨(ワンダリング)〉を悪意的に起こした人間が、この中に紛れ込んでいる可能性がある。

 全体に喚起しようかと考えたが、俺は口を閉ざした。


 相手のクラス、レベル……HPやMPの状態もわからないのだ。

 対して、この場に残っている大半の冒険者は既に疲弊している。

 この場で〈哀哭するトラペゾヘドロン〉の話を持ち出し、犯人捜しを行うのは危険すぎる。

【他作品情報】

 『暴食妃の剣』コミック第四巻、九月二十五日に発売いたします!

 なんと二十万部突破したそうです!

 巻末に書き下ろし小説『戦少女の休日』が付いています!

(2021/9/25)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
↑の評価欄【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けると執筆の励みになります!





同作者の他小説、及びコミカライズ作品もよろしくお願いいたします!
コミカライズは各WEB漫画配信サイトにて、最初の数話と最新話は無料公開されております!
i203225

i203225

i203225

i203225

i203225
― 新着の感想 ―
[気になる点] 未知のものに突っ込まない魔剣士が率先して囮になるし、事前調査したグループだし、レベルで上回っているのならばやりようはいくらでもあるだろうし、なにより“あんだけ取り乱したギルマス”が最低…
[気になる点] ラストアタッカーがドロップ総取りは、ギルドが冒険者同士の不和を引き起こし易いように広めた匂いがするな。
[一言] そういえばA級冒険者ってだいたいレベル90前後以上が目安なのよな?それでレベル85のスカルロードに全く叶わなくてね??おっ?おっ?おっ?ますます怪しいなこいつ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ