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大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する  作者: 猫子
第二章 悪夢の怪馬

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第四十七話 六十秒の死闘

「総攻撃するぞ! ここから一分が勝負だ!」


 俺は声を張り上げる。

 スカルロードが三種のデバフで攻撃力と速度が落ちている今が最大にして最後のチャンスだ。


「オオオオオオオオオッ!」


 スカルロードが剣を振るう。

 俺は〈パリィ〉で受け流し、反撃を狙う。

 だが、呆気なく返す刃に防がれた。


 力ではこちらが圧しているが、速さが圧倒的に足りない……!

 ルーチェの連撃は盾で確実に防ぎ、ケルトの攻撃は身体を反らして躱している。


 不意を突けなければ、ケルトの矢は決定打どころかまともなダメージにもなりはしない。

 骨の身体には刺突より衝撃だ。

 弱点のコアは、少し角度が変われば胸骨に防がれる。


 デバフの重ね掛けでステータスを落とした上で三人で総攻撃しているのに、全く崩れる気配がない。


「クソッ! 馬の下半身を射てもビクともしねぇ!」


 ケルトが苛立ちの声を上げる。


 レベルの地力が違い過ぎる……。

 ここまでやって、まるで隙を見せないとは。

 むしろ圧されているのは俺達の方だった。


「オアァッ!」


「きゃあっ!」


 スカルロードは盾でルーチェを殴り飛ばした後、俺目掛けて鋭い刃の一撃を放ってきた。

 これは〈パリィ〉では往なせない!

 俺は素早く〈狂鬼の盾〉を投げて剣にぶつけ、辛うじて凶刃から逃れた。


 まだ、まだ〈ライフシールド〉を潰されるわけにはいかない……!

 スカルロードのスキルも見ていないし、まるで隙も見つけられていないのだ。

 だが、こうしている間に時間は刻一刻と過ぎている。


 真っ先に効果が切れるのは〈ディザーム〉だ。

 ただでさえ圧されているのに、このスキルの攻撃力減少効果が切れたらまず打ち合いで競り負ける。


 俺は地面を蹴り、距離を保ったままスカルロードの側面部へと回り込むように跳ぶ。


 スカルロードは俺の攻勢が止まったのを隙と見たのか、高く剣を掲げた。

 剣先に雷の光が宿る。


 これは……見覚えがある。

 スキル、〈雷地衝〉だ。


「まずい、全員離れて宙に逃れろ!」


 俺は大声で叫んだ。


 次の瞬間、スカルロードが剣を地面に突き立てる。

 雷がスカルロードの周囲を覆い尽くすように地面を駆け、爆発が巻き起こった。


 俺はすぐ至近距離であったため、避ける余地がなかった。

 爆風に弾き飛ばされ、すぐ後ろの壁に叩きつけられる。


「うぐっ……!」


 俺を覆う魔力の鎧に罅が入り、消滅する。

 生命線……〈ライフシールド〉が途切れた。


 ルーチェは〈曲芸歩術〉で壁を走って天井に向かったが、爆風から逃げきれずに吹き飛ばされた。

 距離は取れていたため致死ダメージではないはずだが……すぐに再起できるとは思えない。

 メアベルは位置としては安全圏だが、彼女のMPでは現状できることがない。


 ケルトは接近戦を挑んでいた俺やルーチェより距離を取れていたこともあり、壁にナイフを突き立て、そこに足を掛けて宙へ跳ぶことで逃れていた。


「ここまで生き延びてきた年長者、舐めるんじゃねえぞクソ骸骨……!」


 次の瞬間、宙に浮いた無防備なケルトを、スカルロードの刃が叩き落とした。

 ケルトが血塗れになって地面を転がる。


「ケルトォッ!」


 格上の〈夢の主〉の攻撃の直撃だ。

 〈ディザーム〉一発で多少威力が落ちているとはいえ、紙装甲の狩人が耐えられるものではない。


「オオオオオオッ!」


 即座にスカルロードが俺へと迫って来る。


「ぐっ!」


 剣の一撃を〈パリィ〉で受け流す。

 強引に隙を狙って懐へ潜り込もうとしたが、速度の差と、そしてリーチの差が苦しい。

 近づく間もなく二振り目の刃が放たれた。


 再び〈パリィ〉を試みるも、受け流し切れないと判断し、俺は地面を蹴り、転がって強引に刃から逃れた。

 俺のすぐ後ろで、スカルロードの一撃が床を砕く。


「奴の攻撃力が元に戻った!」


 〈ディザーム〉の最大の弱点は効果持続時間である。

 勝ち筋を作るために用いたが、元々〈夢の主〉相手には頼りない効果だった。


 今でさえ限界だったのに、スカルロードに力が戻った。

 速度不利を力と技術で補い強引に〈パリィ〉していたが、ここから先はそれも通用しない。

 そして〈ディザーム〉が切れたということは、じきに速度減少と毒効果付与も限界が来る。


 体勢を立て直せていない俺へと、スカルロードが大振りの一撃をお見舞いしに来る。

 スカルロードは、明らかにこの攻撃で、目障りな俺を殺し切るつもりのようだった。

 完全に意識が俺に向いている。


「今だケルトォッ!」


「くたばれクソ骸骨がぁぁぁっ!」


 スカルロードのコア……胸部奥の球状の魔力の塊に矢が突き刺さる。

 スカルロードの動きがガクンと止まった。

 上体を強引に起こしたケルトが、至近距離より射抜いたのだ。


「すぐ背後でぶっ倒れてる俺を意識から外すとは、余裕ぶっこいてくれたもんだな……!」


 そう、スカルロードの意識は俺に完全に向いていた。

 通常であれば、スカルロードが至近距離の敵から意識を逸らすなど有り得ない。

 ケルトのスキル〈擬死〉の効果だ。

 スカルロードの攻撃を受けたケルトが、〈擬死〉を用いて奴の意識の外へと逃れたのだ。


 俺は交戦前、メアベルにケルトのHPを最大近くまで回復してもらった。


 そしてその上で、一撃目の被ダメージを三割抑える〈プロテクト〉を掛けていたのだ。

 〈プロテクト〉の効果持続はせいぜい三分だが、元々スカルロードを倒すには不意打ちで仕掛けた状態異常が残っている間に仕留めきる必要があった。


 無論、危うい賭けだった。

 〈擬死〉の条件を満たすため、〈プロテクト〉を消耗しないため、ケルトの受ける最初の攻撃は致死ダメージでなくてはならなかった。

 あの距離の〈雷地衝〉の爆風を受けていれば、中途半端に〈プロテクト〉だけ消滅して作戦が台無しになっていた。


 ケルトとしても、俺の計算が少しでもズレていれば、スカルロードの一撃で致死ダメージでは済まず、そのままHPが全損していたのだ。

 俺としては元々ゲーム時代から重騎士であるためHP管理には自信があったが、スカルロードは初遭遇の敵。

 恐怖と不信感があれば本人のパフォーマンスも狂いが生じる。

 そんな中、ケルトは完璧に役割を熟してくれた。


「終わりだ、スカルロード!」


 俺は地面を蹴り、大振りを構えた姿勢のまま硬直するスカルロードの懐へと飛び込む。

 胸骨目掛けて、全力の一撃を放った。

 〈死線の暴竜〉と〈不惜身命〉の超火力が、罅の入っていたスカルロードの骨を砕き、その奥の球状のコアをぶった斬った。


「オオ……オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 コアは脈動しながら小さくなった後、爆ぜてスカルロードの胸部を吹き飛ばす。

 スカルロードの頭部や肩の骨が辺りに散らばり、馬の下半身がその場に倒れた。


【経験値を9057取得しました。】

【レベルが66から71へと上がりました。】

【スキルポイントを5取得しました。】


 スカルロードの残骸から煙が昇り、蒸発するように消えていく。


 本当に、勝ったのだ……。

 ここで敗れていれば、今回の大規模依頼(レイドクエスト)の参加者の大半が……いや、下手をすれば、都市にも大被害が及びかねない状態であった。


 スカルロードはそれだけ危険な相手だ。

 今回は状況もかなり危うかった。

 最悪の〈夢の穴(ダンジョン)〉災害……〈夢壊(ゾーク)〉の条件を満たしかけていたのだ。

 そうなれば、冒険者の都ラコリナが傾く事態になっていてもおかしくはなかった。


「ほ、本当に勝ったんよ! あんな格上の相手に……! ウ、ウチ、まだ信じられないんよ……」


 メアベルがへなへなと力が抜けたようにその場に崩れ落ち、感嘆の声を漏らした。

 ケルトはもう余力が残っていないらしく、天井を見上げたまま安堵の笑みを浮かべていた。


「ケルトもよくやってくれた。柄にもない、危険な役を押し付けて悪かったな。あそこで〈雷地衝〉を躱してくれなかったら勝ち筋が途切れていた」


「本当によ……もう二度とこんなギリギリの戦いはやりたかないけどよ……」


 ケルトが目許を手で押さえる。

 死闘から解放された安堵か、勝利の喜びか。僅かに涙に濡れていた。


「なんでだろうな、チクショウ。悪くねぇ気分だ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一分以内の攻防故、戦略が濃密かつ一つのピース零れも許さない油断のならない状況下で、よく頑張って勝ち筋拾ったな。 [気になる点] カロスがシロだとするなら、ギルドか、ギルドが知らないうちに片…
[一言] ケルトも男だったんだな。
[一言] >「本当によ……もう二度とこんなギリギリの戦いはやりたかないけどよ……」 主人公達毎回やってるよな 他の2人は強敵を引き付ける主人公に巻き込まれてるw まあ、誰かが暗躍してるせいなんだろう…
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