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第四十話 二体の死神

「ひ、ひぃ! ひぃいいい! たっ、助けてくれぇええっ!」


 ケルトが身体を引き摺りながら、必死にパッチワークから逃げようとする。

 その後を、パッチワークがゆっくりと追い掛けていた。


「い、一体ならまだどうにかなったのに……! 二体目はさすがにまずいんよ!」


 メアベルが杖を抱き締めながらそう口にする。


「……ルーチェ、ケルトに向いてるターゲットを取ってきてくれるか? メアベルは急いで奴を回復してやってくれ」


「手前にもう一体パッチワークがいるのに、助けに向かうなんて無理なんよ!」


 俺の言葉に、メアベルが先に反応した。


「それに、エルマさんかルーチェさんならいざ知らず、即行でパーティー裏切って逃げた奴のカバーのために無茶なんてウチはできないんよ! MP使って回復してやっても、頭数増えてターゲットが外れたらまた逃げようとするのは目に見えてるんよ! ウチだって気に喰わないから見殺しにしたいって言ってるわけじゃない。あの横取り強欲野郎が仲間蔑ろにして好き勝手やるのは別に構わないけど、それなら仲間から蔑ろにされる覚悟も持っとくべきなんよ」


 メアベルの言葉にケルトが真っ蒼になった。


「別に死ぬほどのことをしたってわけじゃないだろ」


 ケルトのやったことは、せいぜい大規模依頼(レイドクエスト)のルールの範疇で好き勝手やっていただけだ。

 マナー違反を咎められることはあっても、罪として裁かれるようなことをしたのかは別の話だ。

 足が速い狩人からしてみれば、わざわざ足の遅いクラスに合わせて一撃死しかねないスキルを振り回してくる魔物と戦いたくない、という気持ちも充分理解できる。


「それに、この状況……一人でも欠けると厳しくなる。確かにケルトがまた逃げないとも限らないが、そこはあいつの善意に賭けるしかないな」


 この中で一番レベルが高いのはケルトだ。

 最大戦力をこのまま失えば、一気に勝算が低くなる。


「四人いたら、パッチワーク二体相手にどうにかなるみたいな言い方……!」


「どうにかなる、俺が指揮する」


 ケルトは過剰に怖がっているように見えたが、それは恐らくこちらの世界ではパッチワークの情報共有が充全に行われていないからだ。

 追い掛け回され、凶悪なスキルで冒険者が殺されたことだけが伝わっているのだろう。

 一撃のダメージが重いのが怖い魔物ではあるが、決して現状の戦力で討伐できない相手ではない。


「う、うう……随分、簡単に言い切るんよ」


 俺の断言に気圧されたらしく、メアベルの言葉に勢いがなくなった。


「でもそもそも、先頭のパッチワークを抜けてあのケルトを助けに行くのは間に合わないんよ」


「エルマさん、スキルお願いします!」


 ルーチェは俺の考えがわかっているらしく、俺へとそう言った。


 ケルトを助けに向かうには、普通に走って先頭のパッチワークを抜けるのは時間が掛かり過ぎる。

 手遅れになるだろう。


 俺が盾を構えると、ルーチェが地面を蹴って宙へと跳んだ。


「〈シールドバッシュ〉!」


 俺は勢いよく盾を突き出す。

 ルーチェは盾を蹴って飛んだ。

 その勢いで〈曲芸走り〉を用いて壁を歩き、先頭に立つパッチワークの横を綺麗に抜ける。


 そのまま二体目の、ケルトの近くにいるパッチワークの背を刃で斬り付けた。

 二体目のパッチワークは、振り向きざまにルーチェへと剣を振るう。

 ルーチェは身を引き、辛うじて剣を躱した。


 これでひとまず、あのパッチワークの標的はルーチェへと移った。


「ほ、本当に助けに来やがったのか!? 馬鹿な、なんで……! お、俺はお前ら裏切って逃げたところだぞ!」


 ケルトは膝を手で押さえ、よろめきながら立ち上がる。


「エルマさんは優しい方ですけれど、現実を見ていないわけではないですからね。裏切るも何も、元々貴方が窮地で命を張ってパーティーのために戦ってくれるなんて期待していませんでしたよ。エルマさんは、そんなこととは関係なしに、困っている人がいたらまず手を差し伸べるんです。そういう人ですから」


 ルーチェはそこまで言って、ケルトを睨みつける。


「でも……アタシはエルマさんほど優しくも、信念があるわけでもありませんから。もしも次に逃げ出して迷惑を掛けるようなら、アタシがケルトさんの背にこの毒のナイフを投げますからね」


 ……彼女も大分、ケルトの行動は頭に来ているようだった。


「だ、だが、〈三つ腕の死神〉とは、とにかく戦うべきじゃねぇ! こういう異様に強いレアな魔物は、どこの〈夢の穴(ダンジョン)〉にもいやがるんだよ! それも……こんな、二体も出てきたら、全員生還なんてできるわけがない!」


 〈三つ腕の死神〉はパッチワークのことだろう。

 この世界の冒険者は、パッチワークのことをそう呼んで恐れているようだ。


「アイツの言う通り……このレベルの魔物を、今のパーティーで二体同時に相手取るのは実際無理なんよ。エルマさんは何か策があるん?」


 メアベルが訝しむように俺へと尋ねる。

 俺は頷き、前へと駆けた。


 先頭に立つパッチワークへと、〈ミスリルの剣〉で斬り掛かる。

 パッチワークは自身の剣で受け止め、刃の競り合いになった。


「一体は俺が引き受ける。メアベルはケルトを治癒して、三人でもう一体の方の対処に当たってくれ」


「え、ええ!? 一人で相手をするって……そんなの、できるわけがないんよ!」


「重騎士は敵を引き付けるのが仕事だからな。不安なら、三人で向こうの奴を倒し終えたら、こっちの加勢に移ってくれ」


「でも……」


「早く行ってくれ! 防御力のないルーチェに、手負いのケルトを庇いながら戦ってもらう方がずっと酷だぞ!」


「わ、わかったんよ! すぐ片付けてこっちに回って来るんよ!」


 メアベルは俺に頭を下げると、俺の横を抜けてルーチェ達の方へと加勢に向かう。


 その瞬間、パッチワークは俺の刃を勢いよく弾き、メアベルの背へと飛び掛かろうとした。

 だが、パッチワークの動きが空中でがくんと、何かに引かれるように止まる。

 俺の〈影踏み〉のスキルだ。


「お前の相手は俺だ!」


 隙を晒したパッチワークへと斬り掛かるが、これも剣で防がれてしまった。


 二本目の刃が俺へと向かってくる。

 それを俺が屈んで避けたのと同時に、三本目の刃が別の角度から叩き込まれてきた。

 俺は競り合っている刃を弾いてその反動で下がり、辛うじてそれを回避する。


 パッチワークは、継ぎ接ぎされた三本の腕で剣を振るう。

 だが、それだけではない。


 パッチワークを中心に魔法陣が展開された。

 俺はそれを視認した瞬間、半ば反射的に大きく背後へと跳んだ。


 紫の光の斬撃が目前を走る。

 パッチワークの魔法スキル〈デスソード〉だ。


 近距離攻撃専用の魔法スキルである分、発動が速く、威力がとんでもなく高い。

 パッチワークは三本腕だが、〈デスソード〉を合わせると剣を四本持っているともいえる。

 三連撃でこちらの体勢を崩した後に、すかさず〈デスソード〉の追撃を放ってくる。

 パッチワークが恐れられている最大の理由である。

挿絵(By みてみん)

【別作品情報】

 『不死者の弟子』第四巻、八月二十五日に発売いたします!

(2021/08/22)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんでみんなゲーム感覚が抜けないことにしようとするんだろう? 貴族としての感覚とお人好しさは描写されてるしイレギュラーが起きて死にそうになっているときも想定はしているっぽかったし
[良い点] 魔物溜まりの性質を考えると、仲間のフォローが利く距離で躓いたケルトは運が良かったまである。ケルト、ルーチェ、メアベルの三人でパッチワークを倒す戦法とは!?
[一言] ここ2話でケルトに一気にヘイト向かせようとしてるけど、なんか唐突なんだよな ベテランで独断型とはいえ見捨てるなんてやるのが不自然
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