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第三十八話 行き止まり

「なんつー回り諄い道だ……ギルドは何考えてやがるんだよ」


 ケルトが地図を睨んで舌を鳴らす。


 今回の目的は〈夢の穴(ダンジョン)〉の調査だ。

 そのためにわざわざ班で分かれて動いている。


 念入りなのは、何か不審な点がないか虱潰しに探すためと、魔物の間引きのためだろう。

 〈夢の穴(ダンジョン)〉の主が討伐された際、通常であれば中の魔物は〈夢の穴(ダンジョン)〉と共に消える。

 だが、内部の魔物の数が増えすぎていた場合、一部がそのまま外に出てきて近辺を荒らし始めるのだ。


 この〈嘆きの墓所〉は魔物溜まり(モンスタープール)が発生し、既にかなりの数の魔物が外に漏れ出している。

 間引きせずに〈夢の主〉を討伐すれば、後々厄介なことになりかねない。


「……にしても、妙な道筋だな」


 俺はケルトの背から、地図を覗いた。

 妙に特定の箇所の付近をぐるぐるしているかと思えば、他の場所はあっさりと越えていたりする。


 地図を渡されたときは調査目的と冒険者のスタミナを考慮した結果だろうと考えていたのだが、実際探索した感想としては、基準が今一つわからない。


 おまけに地図もあまり正確ではなかったようだ。

 今回の大規模依頼(レイドクエスト)のために急いで作らせたもののようなので、仕方なくはあるのだが。


 ケルトが地図に大量に書き込みを行って修正している。

 乱暴な性格に見えて、案外マメなのかもしれない。


「チッ、魔物溜まり(モンスタープール)の起きた高レベル〈夢の穴(ダンジョン)〉で、不正確な地図を頼りに行ったり来たりしろとはギルドも無茶を言いやがる。こんな動き方してたら、遭難や魔物の挟み撃ちに遭うリスクが跳ね上がるんだぞ」


 ケルトがぶつくさと文句を続ける。


 ケルトの言いたいことはわかる。

 まぁ、B級冒険者を大量動員している大規模依頼(レイドクエスト)が、楽なわけがないといえばそれまでの話なのだが。


「厄介な魔物にぶつかっても面白くない。おい、ルートを無視して最短で合流地点に向かうぞ。魔物狩りなら、合流地点の近辺でやった方が安全だ」


 ケルトが俺達を振り返った。


「……ケルト、依頼内容を無視するのか? それでは調査も間引きも果たせない」


「頭の固いガキだな、どうせわかりゃしねぇよ。後に被害が出ても、間引きが甘かったんだなで終わる話だ。安全で堅実な手を取って何が悪い? お前はちょっとばかり腕が立つようだが、俺の方が経験もレベルも上なんだよ。黙って従ってろ。それとも、試してみるか?」


「なっ……」


 こんな〈夢の穴(ダンジョン)〉の中で、決闘でも挑もうというのか。

 ケルトはメアベルを引き込めず、場の主導権も握れなかったことに苛立ちを覚えているようだった。

 ただ、それでも、こんなところでの決闘など百害あって一利なしだ。


「クク、冗談に決まってんだろ。つまらない脅しにビビりやがって。所詮ガキはガキだな。ただよ、あんまり生意気だと、その限りじゃなくなるかもしれねぇな」


 さすがに本気ではなかったようだが、強引に主導権を取り戻しに来た。

 必要以上に不機嫌に見えたのも、自分の意見を通すための演技だろう。

 本当にやりにくい。


「……ギルドに義理立てしたい気持ちはわかるけど、ある程度は折れてあげるしかないんよ」


 メアベルが声を潜めて俺に耳打ちした。

 ケルトも一流冒険者として立ち回って来た自負があるので、歳下の新人相手に出し抜かれている気がして面白くなかったのだろう。

 付け上がらせるのも厄介だが、確かにメアベルの言うようにある程度ガス抜きはしておいた方がいいのかもしれない。


 〈夢の穴(ダンジョン)〉の地図に不正確な点が多かったのは事実なのだ。

 魔物の挟み撃ちのリスクを避けるために一部ルートを変更したというのは、確かに筋の通った話でもある。

 ……本音は、少しでも安全に楽に利益を得たいというだけなのだろうが。


「わかった、ケルト。ルートの選定は任せる。ただ、あまり大幅に近道するような真似は止めてくれよ」


「最初から素直にそう言ってりゃいいんだよ。なに、少しばかり、複雑で面倒そうな道を避けるだけだ」


 ケルトが底意地悪い笑みを浮かべ、地図を睨んでから通路の先へと視線を移す。


「よし、そっちを真っ直ぐだ。重騎士、勿論、お前が先を行け」


 文句を言っても仕方がない。

 俺は溜め息を吐き、ケルトの指示通りに先へと進むことにした。

 

 確かに多少道筋が変わっても、それで厄介なことになるとは思っていなかったのだが……すぐに、おかしなことが起きた。


「……重騎士、今度はそっちを左だ」


 ケルトの不機嫌そうな声が、俺の背に投げかけられる。


「おかしくないか? さっきは右だと言っただろう。遠回りが嫌だったんじゃないのか?」


 右へ左へ、じぐざぐとふらふらしている。

 最短ルートで行きたいと言っていたのはなんだったのか。


「俺のミスじゃねえ! 示されてたルート以外の道筋の間違いが酷いんだよ! 重騎士、とにかく、そっちを左だ!」


「……ケルト、一度担当ルートの道筋に戻った方がいいんじゃないのか? 集合場所は決まっているのに、こんなところで迷いでもしたら、他の冒険者にも迷惑が掛かる」


「俺が方向音痴だと言いたいのかお前は! とにかく、そっちの通路を左だ! 向きが合ってるんだから、大きなズレにはなってねぇよ!」


 ケルトは俺に怒鳴ってから、頭をガシガシと掻いて地図を睨みつけていた。


「ギルドめ、雑な地図掴ませやがって。こんなことなら、不確かなところは最初から空白にしておけよ。報告したのはどこのどいつだ」


 ケルトの指示に従い、左の通路へと四人で進む。

 しばらく進んだ末、そこは袋小路の行き止まりだと判明した。


 俺は奥の壁に手を触れる。

 壁には人の頭蓋骨が、びっしりと等間隔に埋め込んで納骨されていた。


 ゲーム時代でも〈嘆きの墓所〉の有名な光景であった。

 別にこれが謎の異変と関わっているわけではないだろう。


「ひ、ひぃっ! アタシ、しばらく夢に出ちゃいそうです……」


 ルーチェが気弱にそう口にする横で、メアベルは興味深げに骨の壁を観察していた。

 やはりメアベルの逞しさは筋金入りのようだ。


「俺は骨の壁より、先輩冒険者の言う通りに動いたら行き止まりに入り込んだことの方が怖いんだがな。魔物が来る前に引き返して抜けた方がいい」


 俺はケルトを睨みながらそう口にした。

 当のケルトは、気まずさからか無言のまま、眉間に皺を寄せて地図にメモ書きを書き殴っている。


 ……まぁ、これはケルトが悪いというより、さすがにギルド側の不手際だ。

 どこかに雑な仕事をした人間がいたらしい。


 冒険者の証言の組み合わせなので多少の誤りは仕方ないが、どうにも今回はそのミスが目立つ。

 ルートが複雑なのが気に掛かっていたが、信用ならない冒険者からの報告の部分を避けた結果だったのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい 面白いんですけどルーチュの優しさが不愉快になってきました。
[気になる点] 諄い こんなの読めないよ
[良い点] はよ……続きはよ!
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