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第二十三話 説得

「怒鳴って悪かったのう。最近、厄介な冒険者に目を付けられとる。また奴かと思ったんじゃ」


 鍛冶師ベルガは、言葉とは裏腹に悪びれる様子はない。


 ……機嫌を損ねれば、鍛冶をしてもらえなくなるという話だ。

 穏便に、下に出てミスリル剣の製造を頼もう。


「腕利きの鍛冶師だと聞いている。冒険者は荒くれ者が多い。評判を聞きつけた妙な奴が、無茶な仕事を押し付けようとすることもあるのだろうな。ご心労お察しする」


 どうにか機嫌を取って気に入られなければならない。

 相手の落ち度を責めるような真似はすべきではないだろう。

 フォローに回っておこう。


「なんじゃお前のその、適当に諂っておこうという薄っぺらい態度は。ほん、大方、儂の前評判でも聞いて、そうしようと決めておったのじゃろうな。気に喰わんわい」


 想定以上に偏屈な爺さんだった。

 俺は顔が引き攣るのを感じながらも、必死に笑顔を保つ。


「いいか、小僧。仕事の依頼に来たのじゃろうが、儂には気に喰わんものが二つある! 思い上がったガキと、おべっかばかりの軽薄者じゃ! 今の冒険者はこのどちらかしかおらん!」


 だんだんとベルガの声が大きくなってきた。


「おかしくなってきたのは、ラコリナが冒険者の都だのと大仰な呼び名がついてからじゃ! 力に溺れたガキと、都市の繁栄に寄生して甘い汁を啜ることしか頭にないような、未熟者ばかりになってしまったわい! 儂に依頼を持ち込んでくる者もな!」


「は、はあ……」


 ……なぜ俺は鍛冶屋に訪れて、たった一言社交辞令を口にしただけで説教を受けているのだろうか。

 ちらりとルーチェを見ると、眉根を寄せ、困った表情を浮かべていた。

 恐らく、俺も似たような表情をしていることだろう。


「ベルガさん、冒険者の方に付き纏われているんですか? 大丈夫ですか?」


 ルーチェがすっと話を変える。


「あんなガキ、どうってことはないわい! あの魔剣士め、態度が気に喰わんと説教してやったら、『金ならあるからとっとと黙って自分に見合う剣を用意しろ』などと宣いおって! 儂が金で動くなら、こんなところに住んでないことくらいすぐにわかるじゃろうが!」


 ……俺もいざとなったら、金でどうにか依頼しようと考えていた。

 話を聞いていなければ、同じ轍を踏むところだったかもしれない。


 しかし、魔剣士か。

 攻撃力と魔法力が高く、デメリット付きの高火力スキルで一気に短期決戦に持ち込むのが基本戦術となるクラスだ。

 打たれ弱いため〈夢の穴(ダンジョン)〉攻略にはやや不向きなはずだが、レベルはかなり上げやすい部類に入る。


「思い出しても腹立たしいわい! 怒鳴って追い出してやったら、ここがどうなっても知らないぞだのと、捨て台詞を吐いて行きよった。だがこのベルガ、脅しに屈するような男ではないわ!」


 ベルガが握り拳を作り、そう吠える。


 どうにも虫の居所が悪いらしい。

 ベルガの頑固っぷりも想像以上である。

 これは仕切り直した方がいいかもしれない。


「あの、俺達はこれで……」


「年寄りに長々と立ち話させるでないわ! 気が利かんのう……ついて来い!」


 おいとましようとしたところ、ベルガが鍛冶屋の奥に引っ込んでいった。

 俺とルーチェは状況が呑み込めず、しばし店の入り口でぽつんと突っ立っていた。


「ルーチェ、これは入っていいのか?」


「……あの人もしかして、話し相手が欲しくて寂しいだけなんじゃ」


「小僧共、聞こえておるぞ! 話だけでも聞いてやろうかと思ったが、その気もないならとっとと帰るがいい!」


 ベルガの怒声が聞こえる。


「い、いえ、すぐに向かいます!」


 俺とルーチェは慌ててベルガの後をついて、鍛冶屋の奥へと進んだ。


 ……中に入ってミスリルの話が始められるかと思ったのだが、ベルガの説教はまだ終わらなかった。


「今の若造共は、己の実力から目を背け、武器や環境に頼って下駄を履こうとする! まずは人が先なのだ! 持っただけで誰でも英雄になれるような武器など儂にも打てんし、そんなものがあってはならんのじゃ!」


「は、はぁ……」


 いつまで続くんだこの話は。

 ルーチェもぐっと口を閉じ、欠伸をしまいと堪えている。


「儂もこの都市で長く鍛冶をやってきたからわかるわい。お前達のような、防御型クラスや速度型クラスは、レベルが上げにくい。歳もまだ若すぎる。まだお前達は、儂の打つ武器を使い熟せるような域におらんわ! 金頼みで攻撃力を補おうとしたのだろうが、不相応な功を焦れば、命を落とすことになるぞ!」


 ただ、その言葉は確かに正しかった。

 ベルガの目には、重騎士と道化師が攻撃力不足を装備で強引に補おうとしているのだろうと映っていたらしい。


 しかし、装備でステータスを補おうにも、どうせ本職のクラスには同じ役割では遠く及ばない。

 無理をして命を落とすだけだと考え、鍛冶屋の奥にまで呼んで説教をかましてやろうと考えていたようだ。


 その考え自体は間違っていない。

 一流の鍛冶師として多くの冒険者を見てきたということだけはある。


「少しこちらからも話させてくれ」


「なんじゃと? 儂は忠告してやっておるのだぞ! それを遮って……」


「まず俺は、依頼の話も聞いてもらってはいない。それからまず、あなたの信念として受けられないのかどうかを判断してもらいたい」


「フン、だが、聞いたところで儂の考えが変わるとは思えんがな」


 俺は〈魔法袋〉から〈ミスリルのインゴット〉を取り出し、机の上へと置いた。


「な、なな、なんじゃと、これは……! まさか、ミスリルか!? 儂は鍛冶師として長いが、ミスリルを目にしたのはこれが二度目じゃ……」


 ベルガがごくりと息を呑む。


「これで剣を打ってもらいたい」


「ミスリルの剣を……儂が……! か、鍛冶師として、これは挑まねば……! い、いや! 力なき者に不相応な武器を渡すような真似は、儂の信念に反する! 引き受けんぞ!」


 ベルガがぷいっとミスリルから顔を背ける。

 だが、明らかに表情に未練があった。


「爺さん、これは俺とルーチェが、ミスリルゴーレムを倒して手に入れたものだ」


「な……なんじゃと!? 嘘を吐くでないわ! ミスリルゴーレムは、B級冒険者でも手を焼くような恐ろしい魔物であるぞ! お前達のようなひよっこがどうにかできるわけが……!」


 俺は薄い、金属のプレートを取り出した。

 冒険者証である。

 丁度、ギルド長のハレインから直々にB級冒険者として認めてもらったところだ。


「俺とルーチェはB級冒険者だ」


「そんな馬鹿なことが……」


 ベルガが冒険者証を受け取り、顔を近づけて確認する。


「むぐ……まさか、最下級鎧を装備したB級冒険者がやってくるとは」


 ……やはり〈鉄の鎧〉は舐められる原因になるようだ。

 鍛冶師のベルガからしてみれば尚更か。

 ミスリル剣に合わせて、とっとと黒鋼鎧を造ってもらいたい。


「ま、まあ、実力の方は多少はあるようじゃな。儂の話を真面目に聞くだけの落ち着きもあるようじゃ。ギ、ギリギリ……合格といったところかの。ギリギリな」


 俺はほっと息を吐いた。

 一時はどうなることやらと思ったが、無事に依頼することができそうだ。


「そうだエルマさん! ミスリル剣を造ってもらうついでに、〈破壊の刻印石(ルーン)〉を埋め込んでもらっては?」


「そうだな……ミスリルの武器なら、この先長く使える。攻撃力も高いから、埋め込んでもらって損はないか」


 俺は頷き、〈破壊の刻印石(ルーン)〉を取り出してベルガへと渡した。


――――――――――――――――――――

〈破壊の刻印石(ルーン)

【市場価値:二千万ゴルド】

 破壊を齎す刻印石(ルーン)

 埋め込んだ武器の攻撃力上昇値を【30%】上昇させる。

――――――――――――――――――――


 一つの武器に一つまで埋め込める刻印石(ルーン)

 クライからドロップしたアイテムである。


「こ、こんなレアアイテムまで持っておったのか……。思いもよらぬ、大仕事になってしまったわい」


 ベルガが〈破壊の刻印石(ルーン)〉を恐々と手に取って顔を近づけ、そう漏らした。


 その後、黒鋼の装備を手渡して鎧の製造も無事に依頼することができた。

 ベルガはぽつりと『よかった……この先も〈鉄の鎧〉で戦うつもりではなかったのだな』と漏らしていた。


 ミスリルを用いた剣に、黒鋼の鎧の製造、そして刻印石(ルーン)の埋め込み。

 三つ合わせて四百万ゴルドで引き受けてもらえることになった。


 武器の鍛冶にはなかなか金が掛かる。

 材料は渡した金属だけではなく、ベルガが鍛冶屋に置いている細かい素材アイテムも用いることになるため、その分の金額も乗るのだ。

挿絵(By みてみん)

【他作品情報】

 『王国の最終兵器、劣等生として騎士学院へ』第一巻、七月七日に発売いたします!

 活動報告にて、キャララフや挿絵を公開しております!

(2021/6/29)

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなくだけど、ベルガの話に出てきた魔剣士に剣とか持ってかれそうな気がしてきた。
[一言] あとこの世界の装備には推奨レベルがあってそのレベルに届いてないと使ってる時に重く感じたりステータスが下がったりするから低レベルの初心者が推奨レベルが高い高性能武具を使ってもろくに扱えないって…
[一言] ↓ 弱い装備使ってさっさと死ねってことじゃなくて、実力以上のものを使って自分自身の実力を過信して死ぬことがないように「強い装備を欲しがるな」ってことでは?
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