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大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する  作者: 猫子
第四章 宵闇の狩人

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第十話 スカラベ討伐

「回復が追い付いていません!」

「混乱してる奴はとっとと下がれ!」

「下がれって言われても、今孤立したらオレアントが……!」


 天運のスカラベに引っ掻き回され、フラング率いる〈魔銀(ミスリル)の杖〉の一派は文字通り大混乱に陥っている。

 フラングは顔を真っ赤にして怒声を上げて懸命に命令を出しているが、その当人の指揮も焦りから支離滅裂なものになっていた。


「フラング様! あのスカラベからは一度距離を置いて、戦況を立て直しましょう! このままだと……!」


「立て直しだと? お前があのクソムシを仕留め損なったから、こんな事態に陥っているんだろうが!」 


 アイネがフラングを説得しようとするが、フラングは彼女を振り解いて突き飛ばした。


「ガキにレイドを荒らされ、レアモンスターに引っ掻き回されて撤退したとなれば、俺の面子は丸潰れだ! クランの実権をあの根暗から奪える好機だというのに……!」


 フラングが舌打ちを鳴らし、スカラベへと向き直る。


「今回のレイドで戦果を稼ぐ必要がある! 魔虫銀(インヴェダイト)の収集が難航している以上、レアドロップを狙う! とにかくあの虫を叩いてダメージを稼げ!」


 フラングが剣を掲げて叫ぶ。

 だが、部下達はスカラベに全く追い付けず、まき散らされた混乱魔法のせいでオレアントの横殴りを受け、完全に態勢が崩壊している。


「あんな調子だと死人が出るぞ……。ルーチェ、先行してヘイトを引き付けてやってくれ。攻撃には出なくていい。〈パニッカ〉だけは絶対に避けてくれ」


「わかりましたっ!」


 重騎士の俺では、あちらに辿り着く前に時間が掛かる。

 先にルーチェにオレアントのヘイトを分散してもらった方がいい。

 彼女の素早さと幸運力であれば、回避に専念すれば愚鈍なオレアントの攻撃は対処できるはずだ。

 

 俺は盾を上空へと構える。

 ルーチェは素早く跳び上がり、俺の盾の目前へと移動した。


「〈シールドバッシュ〉!」


 いつもの方法でルーチェを撃ち上げる。

 彼女はオレアントの群れを軽々飛び越え、戦場の中心へと降り立った。


 すぐに複数のオレアントから猛攻を受けるが、ルーチェは奴らの巨躯を足場にして戦場を跳び交い、注意を引き付けつつ確実に攻撃を躱していく。


「チイ、邪魔な蟻共め……! 誰でもいいからあのクソムシをぶっ殺せ!」


 フラングはスカラベを追おうとするが、オレアントに阻まれ敵わずにいるようだった。

 俺はその横を抜けて、激戦区へと向かう。


「ああ、俺達に任せろ!」


「ま、待て! 誰でもいいとは言ったが、貴様らは引っ込んでろ! アレは俺達の獲物だ!」


 フラングはオレアントの爪と鍔迫り合いをしながら、俺へと顔を向けて唾を飛ばす。


 天運のスカラベは素早いが、動き自体は単調だ。

 戦場の外周ラインか、もしくは戦場の中央を縦断するような動きを好む。

 障害物に衝突すれば、すぐさま逆方向へ進む。

 そして最悪なことに、戦場を荒らすだけ荒らして、満足すればすぐその場から去っていく。


 今の戦場の輪郭や岩塊などの障害物、オレアントやフラング達の位置を考慮すれば、あのスカラベが向かう先の予測を立てることは難しくない。

 俺は〈パリィ〉と〈ディザーム〉でオレアントの猛攻を受け流しつつ、スカラベが到達するであろう丘の上へと突き進む。


「ルーチェ! 大岩の前……スカラベを挟んだ、俺の反対側に立ってくれ!」


「はいっ!」


 俺の大声に、ルーチェが反応してすぐに動いた。

 ルーチェもオレアントを上手く往なしつつ、俺が指示したポイントへと向かってくれる。


「でも、アタシ、あんな速さの魔物に〈竜殺突き〉なんて合わせられますかね……?」


 ルーチェが不安げにぽつりと漏らす。


 俺の計算通り、俺が到達したポイントへとスカラベが一直線に襲来して来る。


 スカラベの目が怪しい光を帯び、次の瞬間、橙の光が飛んでくる。

 天運のスカラベのお得意技の〈パニッカ〉だ。

 アレを受けるとかなり面倒なことになる。


「無論、来ると分かっていれば対策済みだ!」


 俺が背後へ跳ぶと、奴の〈パニッカ〉の魔弾が足許で爆ぜた。

 これがスカラベの移動ルートの中でも、奴を丘の上で迎え撃つと決めた理由だ。


 素早さのない俺が奴の魔法を確実に躱すには、高低差のある場所に陣取るのが一番だ。

 軌道が読めなくても撃たれた瞬間に背後へ跳べば、ほぼ確実に射線を外すことができる。


 俺はどっしりと腰を落とし、スカラベの突進を盾で受け止める。


「〈シールドバッシュ〉!」


 ルーチェのいる方角目掛けて、スカラベを力の限り押し出した。

 俺も衝撃に負けて大きく後退させられたが、スカラベも跳ね飛ばされた後、即座に方向転換して俺へと背を見せる。


「残念だったな。お前の影は既に踏んでいる」


 俺の足許から、スカラベの影が真っすぐに伸びている。

 〈影踏み〉のスキルだ。


 ただ、影の綱引きでは、ステータスの関係で俺がスカラベに引きずられる。

 俺は即座に剣を地面に突き立てた。


 杭のように地面に打ち込んだ剣が俺をその場に留めようとするが、スカラベはお構いなしに逆方向へと突き進み、影越しに俺を引っ張っていく。

 地面の削れる音が響く。


 その勢いは見事なものだが、当然、スカラベは俺を引き摺っている分、速度を大幅に落とすことになる。


 そしてスカラベが突き進んでいく先には、ルーチェがナイフを構えて待機している。


「この速度なら当てられます!」


「ジジッ……!」


 スカラベが鳴き声を上げる。

 何かを察したように、素早く直角に方向転換を行おうとする。

 だが、判断が遅かった。


「〈竜殺突き〉!」


「ジイッ!?」


 刺突を受けた黄金の体表に穴が開き、全身に亀裂が走る。

 〈奈落の凶刃〉のクリティカルダメージ倍増効果が炸裂。

 広がる髑髏の光と共に、スカラベの身体が派手な音を立てて粉々になった。


【経験値を7624取得しました。】

【レベルが81から82へと上がりました。】

【スキルポイントを1取得しました。】


 かなり割のいい経験値だ。

 無事に討伐できてよかった。

 あのままフラングの無茶な指揮の中、スカラベを走り回らせていれば、数名は死者が出ていただろう。

 それにどうやら無事にドロップアイテムも出たようであった。


 スカラベの残骸の中、青金の輝きを帯びたコインが落ちる。


――――――――――――――――――――

〈ヘルメスのコイン〉《推奨装備Lv:77》

【攻撃力:+7】

【市場価値:五千五百万ゴルド】

 遺失文明で用いられていたコイン。青金の輝きを帯びる。

 表に掘られた青年は、幸運と富を司る天使だとされている。

 稀に受けた相手がスタン状態になることがある。

――――――――――――――――――――


 出た……〈ヘルメスのコイン〉!

 あれ一枚で今回のレイドに来ただけの元は取れるくらいだ。


「あの虫、くたばったのか。よかった……これで戦況を整えられる。一時はどうなるかと思ったぜ」


 〈魔銀(ミスリル)の杖〉の冒険者の一人が、安堵の声を漏らす。

 ただ、連中の頭目であるフラングは、殺気立った顔付きでルーチェを睨んでいた。


「小娘が……手柄を横取りしやがったな」


 フラングの動向には気を配っておいた方がよさそうだ。


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― 新着の感想 ―
掘られた青年!掘られた青年!
小物だなぁ こんなのがギルドの実権握ったら崩壊しか見えない
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