第四話 錬金術師カリス
俺とルーチェは、鎧の素材となる金属を求めて、ラコリナ中の錬金術師を探していた。
クラス、錬金術師。
アイテムを合成して、多種多様なアイテムを造り出せるのが最大の強みである。
腕利きの錬金術師と顔見知りになっておけば、何かと今後の選択肢も増える。
欲しいアイテムを手に入れやすくなる上に、金策も進むといったものだ。
親交を深めれば、役に立つレアアイテムの錬金をこの先依頼できるかもしれない。
戦闘においても複数種類の魔石を掛け合わせて相手の弱点に合わせた攻撃を展開したり、ゴーレムを操ったりと、少々複雑で消費が激しいが決してお荷物というわけではない。
金策においても効率的な錬金を行えば、ルーチェのビルドである幸運ピエロに匹敵する。
もっともそれは〈マジックワールド〉での話だ。
まともなクラスの開拓が進んでいないこの世界では、ただの下位の補佐役に成り下がることも多いようだ。
錬金術師のクラスを活用できているのは、特別錬金術の探求に精を出している者や、貴族家で代々錬金術師のクラスを開拓してきた家系くらいなのではなかろうか。
ギルドや武具の店で腕利きの錬金術師について聞き込みを行った末、俺とルーチェは錬金工房〈小人の竈〉へと辿り着いた。
〈小人の竈〉は小さな店で、中には動物の木乃伊や怪しげな道具、妙な色のポーションがゴロゴロしている。
ルーチェはラーナを模した金属の置物と睨めっこをしていた。
「それでこんな錬金工房まで辿り着いたのかい。遥々お疲れのことだね、お二人さん」
店主である錬金術師のカリスは、俺達の経緯を聞いて口許を隠し、くすくすと上品に笑った。
歳は十六、十七辺りだろうか。
片眼鏡に小さな羽帽子をした、赤茶色のセミロングの髪をした少女だった。
落ち着いているからか、容姿の割に大人びた印象を受ける。
「残念だけど、僕はただのC級冒険者だよ。レベルも低いから、大した金属も作れない。本業は冒険者で、この工房は僕の研究を兼ねた趣味のようなものなのさ。ご期待に添えず申し訳ないよ」
カリスは大仰に首を振ってみせた。
「カリス、物は相談だが、素材を持ち込んだら鎧の素材を造ってくれたりは……」
「できない。僕はレベルが低いし、レシピの開拓も大して進んでいないしね。仮にそんな技量があれば、商人や貴族にとっくに仕えて、悠々自適に暮らしているともさ」
ばっさりと断られてしまった。
俺は大きく溜め息を吐いた。
「あのあのう、カリスさん、一流の錬金術師に心当たり、あったりしませんかあ? エルマさんの鎧を造ってあげられるような……! 本当に困ってるんですよお!」
ルーチェが潤んだ目でカリスへ尋ねる。
「う、う~ん……ラコリナの錬金術師はあんまり聞いたことがないなあ。……ああ、でも、これは噂なんだけどね、”冒険者クランの〈魔銀の笛〉は、凄腕の錬金術師を匿っている”……なんて話があるよ」
カリスがふと思い出したように、そう話してくれた。
クランとは、パーティーより大きな単位の冒険者の集まりのことである。
クランによってその目的は様々であるが、主に情報共有や、信用できるメンバー内で冒険者パーティーを効率的に回すために作られることが多い。
「ほう、〈魔銀の笛〉は俺も聞いたことがある。銀面卿のクランだな」
ラコリナの大手クランである。
ただ、何かと秘密主義なようで、あまりギルドで〈魔銀の笛〉のメンバーや活動の話を聞いた覚えもない。
ただ、そのクランマスターのことは知っている。
銀面卿と呼ばれる、魔銀の全身鎧の大男だ。
内情については不明点が多いが、クランマスターの目立つ外観は何かと噂になる。
「へえ、知っていたかい。まあ有名だもんね」
「何故そこに凄腕の錬金術師がいると?」
「僕も錬金術師の端くれ。この街の道具屋にアイテムを卸すこともあるし、仲良くしてもらってるんだけどね、複数の店で同じ稀少なアイテムが大量入荷することがあるそうだ。どこかのクランが錬金術師を抱え込んでやってるんじゃないかって、度々商人間で話題になるみたい」
カリスはまつ毛の長い大きな目を、ぱちりと瞬かせた。
「その候補の筆頭が銀面卿率いる〈魔銀の笛〉だよ。同格のクランと比較しても明らかに金回りがいい。装備も潤沢に整っている。恐らくクランの中枢に一流の錬金術師がいるのだろうね」
「なるほど……」
クランの秘密主義とも関係しているのかもしれない。
一流の錬金術師となれば貴族から引き抜きに遭う可能性もある。
そうでなくとも、クランぐるみでレアアイテムの量産ができると発覚すれば、店との取引の際に足許を見られる。
錬金術師の存在を隠しておいた方が何かと都合がいいはずだ。
その錬金術師と直接交渉したいところだが、クランぐるみで隠しているのならば難しそうだ。
探し回れば下っ端は捕まえられるかもしれないが、ある程度上の人間を捕まえなければ何も知らないことも考えられる。
銀面卿も格好こそ派手で目立っているが、神出鬼没でほとんど現れないという。
ギルドに現れるのは年に数回程度だと耳にした。
彼を捕まえるのもかなり厳しいだろう。
「提案しておいてなんだけど、あのクランの尻尾を追うのは難しいと思うよ。下手に探ったらクランの敵として、逆に狙われる立場になるかもしれない」
カリスが頭を抱えている俺を見て苦笑した。
彼女の言葉の通りだ。
〈魔銀の笛〉は下っ端の冒険者を捕まえるのも難しい。
それなりの重鎮を捕まえて、クランの秘密である錬金術師の所在を穏便に割らせる必要がある。
なかなかハードルが高い。
「うう……エルマさんの鎧がほしいだけなのに。鎧の素材のために錬金術師を当たることになって、錬金術師と接触するためにクランを探ることになるなんて」
ルーチェががっくりと肩を落とす。
「狙ったアイテムを手に入れるためには苦労は付き物だ。これまでとんとん拍子で来すぎていたくらいだ。それに、連中と接触する方法、心当たりがある。上手くいけば交渉の足掛かりにもなるだろう」
「心当たり……ですかぁ?」
ルーチェが目を丸くする。
「クランの方針は錬金術を用いた金稼ぎにある。となれば、高価な素材アイテムをクランぐるみで回収したいはずだ」
そして高レベルの魔物を相手取るアイテム探索であれば、必ずクランの主戦力がそこへ向けられるだろう。
上手く行けばクランマスターである銀面卿とも接触ができるはずだ。
「ギルドで情報を集めていれば、〈魔銀の笛〉が次に現れる場所を絞り込める。その狩場へ先回りする」
そしてアイテム探索であれば、クランよりも幸運ピエロであるルーチェのいる俺達のパーティーの方が効率がいい。
連中の狙いのアイテムを先にその場で搔き集められる。
そこに交渉の余地が生まれるはずだ。
「う、う~ん……そう上手く行くかなあ。お客さん、あまり危険なことはしないようにね。そもそも上級錬金術師が欲しがる素材アイテムの先読みなんて、口で言うほど簡単なことじゃないと思うけれど……」
「その点は抜かりありませんよぉ! なにせ、エルマさんがいるんですから!」
ルーチェが得意げな表情でカリスへと返す。
俺は〈夢の穴〉の名称を聞けば、出没モンスターからドロップアイテム、その各々のドロップ率くらいはすぐに出てくる。
錬金術師の欲しがりそうなアイテムくらいはすぐに予想が立てられる。
「う、う~ん……そうかい?」
カリスが不思議そうに目を瞬かせた。




