第四話 死神狩り
「ケケケケケッ!」
グリムリーパーが大鎌の一撃を放つ。
クリティカル狙いの〈竜殺刈り〉だ。
俺は確実に躱した後、素早く接近して剣を振るう。
だが、奴のスキルである〈霊体透過〉で透かされた。
グリムリーパーはそのまま俺から離れ、ルーチェの方へと向かおうとする。
「させるか……〈影踏み〉!」
だんっと、グリムリーパーの影を踏んだ。
道化師クラスのルーチェは、HPと防御力に難がある。
彼女がクリティカル率と攻撃力の高いグリムリーパー相手に、正面から戦うような形になることは避けたいのだ。
それに、こうしてグリムリーパーの可動域が限定されれば、ルーチェは弱点である死角を取り放題になるし、確実に敵の一撃を避けながら有利な間合いで戦い続けることができる。
「ケケケケェッ!」
グリムリーパーは反転し、俺へと大鎌を振り回す。
捕らえられた以上、速攻で俺を倒す方を選んだらしい。
俺は大鎌のひと振り目を〈パリィ〉で受け流し、ふた振り目を大盾で防いだ。
「焦っているな……グリムリーパー。まるで威力が乗っていないぞ」
俺の挑発に、仮面に描かれた顔が歪む。
グリムリーパーは大きく大鎌を引いた。
〈竜殺刈り〉で盾ごと叩き潰すつもりらしい。
「てやぁっ!」
当然、死角を取っていたルーチェはその隙を逃さない。
素早くグリムリーパーに連撃を叩き込んだ。
「オガァッ……!」
既に弱っていたグリムリーパーは、これがとどめになった。
霊体が千切れ、小さくなっていく。
仮面や鎌が地面へと落とされる。
【経験値を2609取得しました。】
【レベルが71から72へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
レベルアップしたようだ。
俺はふぅ……と、安堵の息を吐いた。
「やっぱり〈霊体透過〉主軸で動かれると、苦しいですね……。レベル下でも、魔術師クラスの方を雇ってみてもよかったかもしれません」
ルーチェがそう口にする。
確かに〈霊体透過〉が透過できるのは物理攻撃だけだ。
魔法攻撃は避けられない。
「ただ、グリムリーパーは動きが速いし、当たり判定も小さいからな……。魔法頼みはそれはそれで苦しい。魔法だけで倒し切るとなると、かなりMPも使うことになる」
「なるほど……じゃあこうやって削っていくしかないんですね……」
「とはいえ、ルーチェも、グリムリーパー狩りがなかなか慣れてきただろ? なにせ……これで、三体目だからな」
「……まぁ、はい。間合いもなんとなくわかってきたので、クリティカルのリスクをケアしながらも、結構物怖じせずに攻められるようになったといいますか……」
……そう、これでグリムリーパーは三体目だった。
二体目も一体目同様、ドロップしたアイテムは〈魂刈りの鎌〉であった。
かなり高額なので武器ドロップもありがたい。
……ありがたくはあるのだが、いい加減お目当ての方のアイテムが欲しい。
塔の中を駆け回ってグリムリーパーを探すのも楽ではないのだ。
それなりに時間も経っているため、なかなか疲弊が溜まってきていた。
「そろそろ〈技能の書〉が落ちてくれると嬉しいんだが……」
グリムリーパーの仮面が、音を立てて割れる。
俺達の見ている前で砂へと変わった。
そうしてその横で、依然として変わらずに残り続ける、一本の〈魂刈りの鎌〉の姿があった。
「……駄目だったみたいだな」
まぁ……なんとなくだが、そうなるんじゃなかろうかという気はしていた。
ルーチェは覚束ない足取りで〈魂刈りの鎌〉へと近づき……その場に崩れ落ちた。
「どうして……どうして外れの方ばっかりが溜まっていくんですかぁ~!」
「落ち着けルーチェ、その外れは千五百万ゴルド換算だからな……?」
もっとも……本来レアアイテムの〈魂刈りの鎌〉を三本も一気に店に渡せば、その価値は一気に暴落しそうな気もするが。
元々、鎌使いはさして多くはないのだ。
しかし、ルーチェの〈豪運〉の力ならば、いい加減〈技能の書〉が落ちてくれてもいいはずなんだが……。
欲しいものほど何故か手に入りにくい。
これが物欲センサーという奴だろうか?
「まぁ、〈豪運〉込みでも三連ドロップは間違いなく恵まれている方ではあるんだが……なんだかな……」
厄介な魔物に目を付けられず……かつ上手くグリムリーパーを見つけられて……運がよければ、あと三体狩れるかもしれない、といったところか。
その後は、MP的にも純粋な疲労的にも、さすがに〈幻獣の塔〉から撤退せざるを得ない。
だが、近くの村まで撤退して休眠を挟めば、さすがにもうこの〈幻夢の穴〉は消滅してしまうはずだ。
「うう……せっかく〈死神の凶手〉を手に入れるチャンスでしたのに」
「……いや、まだまだチャンスはある。ただ、MPを節約して戦っていく必要がありそうだな」
項垂れるルーチェへと、俺はそう口にした。
「グリムリーパー以外と戦わないのは、入る前にも言った通りだ。ただ……今後、戦闘回避のためにも極力、スキルを使わない方法を模索していかないと……」
かといって、それで戦闘が長引けば余計に悪手になりかねないのだが。
と……そのときだった。
遠くから、ドンッ、ドンッと、重みのある足音が響いてくる。
「ゲッゲッ、ゲゴッ」
黄金の……でっぷりと肥えたラーナが、遠くの通路から歩いてくるところだった。
黄金のラーナが立ち止まり、大きく頬を膨らませる。
「ウ……ヴェ、ヴェー……ゲゴッ」
俺は自然と、音を立てないようにピタリと動きを止め、黄金のラーナに視線を奪われていた。
あの色に、あの体格……間違いない。
豪商ラーナだ。
出没する魔物はランダムなのだが……まさかこの〈幻獣の塔〉に、奴まで含まれているとは思っていなかった。
「ルーチェ、奴を狩るぞ! 刺激しないように近づいて、機会を探る……!」
「言ってること、さっきと変わってません……!?」
俺の様子に、ルーチェが苦笑いをした。