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【完結】倫敦《ロンドン》  時折《トキオリ》、春 〜君を辿って〜   作者: 木村空流樹
第三章

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未来 十二 昔語り 1

 時は紅時(べにとき)と初めて合った(コロ)へと流れて行く。


 ()れは、動乱の世の何時頃(イツゴロ)か。


 安政の時代、長崎に海軍伝習所が出来、都に構部所が出来、フランスの援助により横須賀に造船所が作られ一気に開港が進んだ時でもあった。


 まだ将軍がいらっしゃり、藩の参勤交代のため藩の家臣の伊藤家の奥方が江戸に居なくてはいけない時期だった。


 伊藤家の奥方は長子秋継(あきつぐ)を都で産み、育てた。()の時の乳母が婆である。


 稚児(チゴ)として三歳年上の林 修一(はやし しゅういち)も居た。


 秋継が六歳の時父が崩御した。母も心労で後を追う様にして都で亡くなり、藩主の計らいで、御国まで帰り家督を継がなくては成らなかった。


 薩英戦争が始まり、落ち着いた翌年。秋継が家督を継ぐ為に御国に戻った。彼らが戻ったのは冬が始まったばかりだった。


 御国では、薩摩藩の島津久光殿の前を横切った英人の殺傷事件で話題が持ちきりとなり、対外国との争いの火種がじりじりと(クスブ)っていた。


 秋継は今しかないと屋敷に戻る前に修一に持ちかけた。


「願いがある。」


 秋継は長子として殿に使える為の武士道を身に付けていた。


 揺れる(カゴ)から声がする。


 側にいた家来の修一だけに聞こえる声。


如何致(イカガイタ)しましたか……。」


「御前にしか頼めない。身分を偽ってくれ。」


 突拍子もない発言に修一が意味を判断し()ぐねている。


「修一が伊藤の家督を継げ。私は領民になりしたい事がある。」


 半場(アキ)れている修一に、追い討ちを掛ける。


「私は祝言を挙げたくない。」


 くっきりとした文字が浮かぶ発言に溜息を長く吐く修一。


「御国に帰ったら、元服と祝言を一緒に挙げ、殿に仕える為に時間を切り詰めなくては為らないのに……。」


「江戸の下女も下男も(イトマ)を与えた。産まれて間もない私しか、御国の人は知らない。では今しかない。情勢は都ではなく、御国で起こっている。殿も都に戻らず、体勢を整えている今なら私達が変わっても解りはしない……。」


「それがしは困ります。」


「御前にしか頼めない。私はしたい事がある。今の身分では何も出来ない。」


 修一が(アキラ)めて聞いた。


「したい事とは……。」


「探したい人が居る。何処に居て何をしているかも解らない。だが居る。必ず探すと決めていた……。」


 修一も考えながら歩みを進める。


「明継……。過去の記憶があるのか……。」


「何の話だ。私が祝言を挙げるのは、あのこ、でなくては為らない。だから探すのだ。」


(こう)を覚えてるのか……。」


「名前も知らない。(タダ)探さなければ後悔するのだけは解っている。」


 修一が悩む様な仕草をしてから、直ぐに向き直った。


 歩みは止めず秋継の顔を見た。嘘のない目をしている。修一は覚悟を決めた。


()れから話す言葉は本当だ。信じてくれるなら、協力をする。しかし俺も始めての時代だから上手く行くとは考えていない。」


「聞こう。宿までに話が終わるか……。身分を変える等危険過ぎて宿屋の前に話を終えたい。」


 修一は明継が処刑される未来を答えた。長い話を彼は黙って聞いていた。何度も繰り返し殺される未来を秋継は苦々しく聞いていた。


 特に主要となる登場人物には気を付けて聞いていた。誰がおり、今の時代と違う所を聞いていた。


 そして初めて修一達が、安政の時代に居る事も話すと秋継も納得した。


「私も繰り返しの中にいるのだな。なら何故に記憶がない……。」


()れは解らない。」


(こう)と云う少年は、まだ出会っていないな……。なら探すしか有るまい。なら尚更(ナオサラ)武士の身分では動けないな……。」


 三人は宿屋に着いた。

 籠から秋継が降りると婆が少し遅れてやって来た。彼女だけは、御国に連れて帰るつもりだった。


「婆に話したい事が有るのだが良いか。」


 宿屋に入り飯を食べてから、婆に話た。

 家督を降りる事と修一を身代わりにする事。紅を探す事を端的に答えた。


 婆は呆気に取られていたが、秋継が本気でいるのが解ったのか話を最後まで聞いた。


 最後まで聞くと、婆は(ホガ)らかに答えた。


「町外れに抜擢(バッテキ)な村があります。貧しい農村ですが私が生まれた村なので、風習や作付け等は教えられますが………。修一に家督を継がせるのはどうでしょうか……。流行り病で秋継様が亡くなった事にしては如何(イカガ)ですか。」


(イナ)。伊藤家は残す。存続はさせるが、私の子供に家督を継がせれば問題あるまい。()の間の繋ぎで(カマ)わない……。」


「それがしが継がなくても、宜しく()りませんか。確かに小さい時から秋継様と私塾や武術は習いましたが、貫禄(カンロク)は在りません。(ダマセル)せるか自信が在りません。」


「私の我儘ですまない。伊藤家は残さなければならない。私の代で終わらせたくない。ならば修一に助けて貰いたい。此から動乱の時代が来る。既に殿も御国で対策を縫っている……。幼い私に家督を継がせたら、又奥方の参勤交代の話し相手になるだろう……。なら三年間は御国に戻り、情勢が動くのを待つ。身体を崩した幼い私に殿も求めないだろう。」


 ()の時の秋継の答えは、直ぐに時代に翻弄(ホンロウ)される事となる。


 元治元年には長洲藩と奇兵隊幕府と対長洲討伐が行われ、嫌々修一が田所時子(たどころときこ)と夫婦になり、数年の歳月子どもを経て続けに産み、時子の助言により難を逃れながら大政奉還まで、御取り潰しもなく家は残った。


 伊藤家の三男を産むまで黙っていた時子が持参した資金で、財を成すには時間が掛からなかった。


 未来を知っている時子と過去を繰り返していた修一ならではの意見で、危なきには従わず交渉ごとは伊藤家の家臣を使い、年若き家督を継いだ修一、改め継一が何とか持ちこたえさせた。


 婆は時子の産後を支えたが、最初から秋継の側に使えていた。


 戸籍が整理され秋継は林 秋(はやしあき)と名前を提出し、農村で婆と食べるだけに困らない技術と土着の風習に従った。



 時子からの諜報(チョウホウ)で紅が年齢差で産まれて来るのと、外見的特徴と左指の(アザ)を聞いた秋が、時間の猶予を持って行動していたからだった。


 紅は身分の高い人物に産まれてくるとも予想していた。だが秋継は士族であるよりも、彼を探す事を優先させた。






 時が流れ、明治に入り秋が二十代になった時に時間が動き出した。

 継一が京吉原で禿(カムロ)をしている紅を見掛けたのである。

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