未來 九 来訪者
啓之助が紅時の部屋に入る。
晴が一通りの赤子の御世話を覚えた様で、腕に抱き締めていた。
「啓叔父さん。何故農家にいらっしゃるのですか……。」
晴は瞳を大きく見開き驚きを隠せなかった。
流石に女性である紅時が、肌を隠す様にして掛け蒲団で目眩ましをした。
「夫が居る身です。御帰り下さい。」
紅時の困惑した顔を見て時子が気付いた。
啓之助の表情を見ても満更ではない様子。
「はああ……、其う云う事ね。正月にすら帰って来ない啓之助が帰郷して来た理由。紅時さんに会いに来たのね……。」
「啓叔父さんには妻も子供もいる。何で出産したばかりの紅時さんに会いに来るのですか。」
「旦那が居ないからよ。隙を見付けて会いに来たのよ。全く、間男等恥ずかしくないのかしら……。啓之助は人妻に手を出す趣味は、母親から見ても無かったはずよ。」
「秋さんよりも私の方が紅時さんと年齢は近いですし……。話し易いのですよ。」
「啓之助。鏡で自分の顔を見なさい。悪どい表情をしているから……。」
時子が一抹の不安を抱えながら、啓之助にも赤子を抱かせた。
自分の子供が産まれた時よりも、其れは其れは嬉しそうである。
「啓叔父さん。紅時さんと赤子の御世話は僕がやるから大丈夫だよ。」
白けた視線を向ける晴。
「秋が帰るのに時間が掛かる。少しでも人手がいるだろ……。」
「自分の子供の御産にすら居なかった啓之助が助けに成るとは思わないわ。噂になるから雨が上がる前に帰りなさい。」
「嫌だね。秋が居ない何て時期はもう二度と無いだろう。紅時さんとじっくり話せる時間など無かったからね。話せば私の良さは解るだろう。」
「帰りなさい。……なら土間梁にある綱を外しなさいよ。其れ位してから帰りなさい。」
啓之助が動かないで嫌な顔をした。御産の為に必要な縄は腹の子供の父親が付けるのが習わしだ。しかし関係のない啓之助にやらせ様とした。
「何故私が……。」
「秋さんが居ないなら、其れ位出来るでしょうが……。」
「晴がやればいい……。」
赤子の顔が歪みと直ぐに晴が啓之助から抱き上げた。其の子は又、眠りに落ちていった。
「赤子の世話をさせるのよ。啓之助より上手いわ。だから、力仕事をしなさい。紅時さんの側には晴と赤子が居るから、其れ処ではないでしょうけど……。」
啓之助が不適な笑いを見せた。
「其れでも構わない。二人で話せる何て初めてだからね。」
啓之助が立ち上がり着物の裾を間繰り上げた。どうやら土間の縄を外すらしい。
其の姿を見て紅時が表情を元に戻した。
安堵に近い顔立ちになっている。
「大丈夫。紅時さん……。僕も成るべく側に居るからね……。」
晴が微笑んだ。
紅時は晴の頭を撫でながら口角が上がった。
「有難う。晴には助けて貰ってばかりだね。」と男の子の様に話した。
晴子は又顔を赤らめたが、時子だけが険しい表情を崩さなかった。
「紅時さん。何か隠し事をしていない……。」
「大丈夫です。時期が来たら話します。時子さん。」
紅時は辛そうに溜息を吐き、横になった。
「晴に御願いして。少し寝ますね。」
紅時は横になって目を瞑った。まだ回復していないのだろう。
「雨が上がったら襁褓を洗いに行きます。流石に二人では回らなかったのですね……。」
晴が洗い物の束を見つけて、指差した。
「汚れた物も入ってるから、宜しくね。」
「川は近くにありますよね……。」
「あるわ。雨が上がったら、婆に案内させるわ。紅時さんと啓之助を二人っきりにしたくないの……。」
「解ります。婆に洗い物の遣り方も教わるから安心して下さいな。」
女物の着物を纏った晴は女中の様に立派に仕事をしていた。
時子は啓之助に力仕事を頼み続けて根を上げて帰そうと考えた。
だが啓之助の紅時に対する執着が思ってるよりも強い事を知る事となる。
飛び飛び投稿で申し訳ありません。
物語のラストまで、後少しです。楽しんで読んで貰えたら幸いです。海まで御付き添い下さい。




