未来 二 ターニングポイント (過去 四十五 寝られない人)
電車のデッキと呼ばれる接合部に、節と明継の母が立っている。
二人の会話は分からないが、真剣な面持ちで話をしている。
少し漏れ聞こえて来る。
「やはり……。なら、法則の話をします。覚えて……、時間は一定方向ではない。其し……、意思を継ぐ者がいます。共通点は……。全て明継を中心に回ります。だから、節さんは明継の側で最善な方向を向かなければ、ならない。今は、記憶するだけでいい。次は、貴方の番……。」
節が焦って、話の続きをしょうとしているが、明継の母は、微笑むだけだった。
のらりくらりと交わされる節。
二人は会話を終えた様で、あった。
節が体を翻し、二等車両に向かってくる。
修一が、扉の裏に立っている。
節の為に通路を開けた。
「盗み聞き何て良い趣味ね……。」
「明継の母ちゃんは何て云っていた。」
節は、答える訳でもなく通りすぎる。
「自分で聞けば……。」
節は晴の眠っている席へと向かった。
人の気配が消えない。明継の母は、節が居なくなっても、まだ、其の場に居た。
修一がデッキの扉を開いて、明継の母が待っている様に佇む。
「待っていましたよ。修一さん。聞きたい事が御有りなのね。」
風の吹く中修一が近付いた。
「奥様は、全てを御存知ですか……。」
「何故そう思うのかしら……。」
「奥様は、未来の記憶を持ってらっしゃる……。」
「令和の記憶ね。今の年号が明治、大正、昭和、平成、令和と続くわ。まるで、三度目が激動する明治に戻って来るとは思わなかったけれども仕方ないわ。何かの運命なのでしょう……。」
修一の顔から躊躇いが溢れている。
「俺はこの内容を誰かに話すのは初めてです。奥様は、未来の生まれ変わりでしょうか……。」
「記憶があるから多分そうね。今の節との話していた内容は覚えてる。明治の過去だもの。過去の逃亡した記憶にもあるわ。」
修一が躊躇っている。
深夜の夜風が体温を削って行く。だが修一は問うのを辞めなかった。
「私の過去の記憶と違います。私は明継が処刑される未来しか知りません。私は同じ明治時代にしか生まれ変わりません。死んで目を覚ますと赤子に戻って仕舞います。其して、明継と節に初等科で出会います。」
節が物思いに耽っている。令和の時代を懐かしんでいる様だった。
「今が唯一、明継が生き残っている世界なの。令和で秋継がけっこんして、娘が産まれる未来を得た。」
「女性と……。」
「祝言よ。娘の春を産んだわ。」
「明継が紅以外を選ぶ等、有り得ません。私が見た過去の記憶では、全て紅を選びます。」
修一は云い切った。信じられないと表情を露にしている。
「どの様な過去でも、明継は紅を選んだ。必ず死ぬ運命でも其れだけは、違えなかった。れいわと云う時代では紅はどう為るのですか……。」
節は憂いの顔色に為った。
「秋継の妻は若くして死ぬわ……。こうつう事故だったのだから、仕方が無いのよ。生きてる間だは秋継が紅に邪な心すら湧かなかった。だから彼女は愛されていた。彼女は其れを知っていたわ。」
「意味が分からない。俺だけ明治に取り残されてしまう。又、同じ明継が投獄されるのを見るのか……。其れとも俺もれいわにいけるのか……。だが、今の明継はれいわに生まれ変わる。未来が変わっているなら、明継達を本当に倫敦に逃がせられるのかもしれない。なら、俺も見てみたい。海外を広い海を……。」
母は切ない表情の侭佇んでいる。
修一の背中を押す様に微笑んだ。
「付いて行きなさい。明継達と共に倫敦に行きなさい。旅券は旦那様が持たせてくれたでしょ?」
「継一様が紅の分と一緒に俺のも作って下さいました。此は付いて行けと云う命令でしょうか……。」
節が虚空を仰いだ。微笑んでいるのが解る。
「旦那様も心配なのね。自分の息子の将来がね。修一さんに御願いしたかったのだわ。」
「俺は倫敦に行く未来を知りません。なら、此の目で処刑されず明継が生き残る未来を見てみたい。」
「知らないのが未来なのよ。此れから、私と晴は九州に戻ります。田所さんは、佐波様に結果を報告する必要があります。林さんは、倫敦に着いて行ってくれないかしら……。其れと明継達が亡くなったら、遺骨を日本に連れて帰って来て欲しいの……。伊藤家のお墓には入れないで海に蒔いて上げて……。旦那様に報告して置きます。だから、安心して行動して下さい。後の処理は私達でやりますから……。」
修一が目を細めた。
「貴方は驚か無いのですね。明継が処刑される未来を知っている様だ……。」
「私は投獄された過去を知りません。厳密に云うと紅が覚えているのよ。」
「紅が覚えている……。其の様な素振りは見せていないのに……。当の明継は明治を繰り返している事すら知らない……。」
「令和の私達も、結論は出なかったのよ。」
明継の母と修一は顔を見合わせた侭、佇んで居た。
電車は夜の中を進んで行く。
速度を緩めず、強い風を巻き起こしながら、畑と少しの民間を通り過ぎて行く。
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