未来 一 (過去 四十四 寝台車)
時は過去へと戻る。
明継と紅が修一と節を連れて、倫敦に向けて電車に乗っていた。同時に明継の母と甥の晴も同じ電車に乗っていた。
その最終日の夜の出来事である。
「息子と話をしたいけど流石に狭いから……。紅ちゃんと寝てもよいかしら。」
次は紅に話し掛けた。
紅は明継の顔を見ると、直ぐに返事をした。
「大丈夫です。先生。」
「では、寝てしまいましょう。」
紅が1段目の蒲団の奥に潜り込んだ。
明継に手を振り、母が寝台に入るとカーテンが閉められた。二人共話をしている。
寝入る感じはしなかったが、明継は諦めて二段目に登り、バックを頭の横に置いた。晴のバックも乗せる。
隣のベットの仕切りのカーテンを閉めると、二人の声が良く聞こえた。二段目の短い布を引っ張った。
明継は長い眠りに付いた。
「紅ちゃん……。」
明継の母が、紅の髪の毛を撫でながら呟いた。
「他人の髪の毛を撫でる癖は秋継の癖では無かったのね……。ずっと、明継が自然にやってると思ってたのよ。でも違うのね……。」
紅が不思議な顔をした。質問の意味が解っていない様だった。
「紅ちゃんの癖だったのね……。」
母は悲しそうに微笑んだ。紅は何も答えなかった。不思議そうに見詰めるだけだった。
「節は貴方から秋継を奪うわ……。」
「どう云う意味ですか……。」
「其の侭よ。秋継の子供を産むの。」
「其れは未来の話ですか。其れとも、もう先生と節さんは、恋仲なのですか……。」
「ずっと未来の話。貴方達が倫敦に行って、二人共に亡くなった後の話。」
「死んだ後の話ですか……。もしや、あの悪夢の続き先生が捕まってしまう悪夢の後の話ですか……。」
紅が困惑している。母がまた紅の頭を撫で始めた。
「今の世界ではないわ。紅ちゃんの悪夢の記憶は、もう終わったのよ。新しい未来が出来て居るのよ。」
「其の世界では先生と節さんが夫婦に為るのですね。其れでは、此れからの世界では、どうなるのですか……。」
母が口を継ぐんだ。
「節を許して上げて……。彼女は伊藤君を愛して居たのよ。」
「云われなくても解ってます。節さんは先生を特別と思っています。でも、口先だけは私に遠慮しているようです。」
「感覚が鋭い子供は大変ね……。其れでも明継を選ぶの?」
紅は少し考えてから、頭を降った。
「未来に何が起きようとも、私は先生の側に居ます。出ていけと云われたら諦めます。」
「秋継は紅ちゃんの性格を良く解ってたのね……。だから、節が子供を産んでも紅くんの態度が変わらなかったのね。」
「多分、私なら焼きもちは焼くと思います。自分に出来ない事を節さんがしたのならば……。」
「だから、あの時自分が女だったら良いのにと云ったのね……。」
紅が思い出そうとしている。
記憶にないと訝しそうにしている。
「でも、私は男です。無い物ねだりだと思います。先生と家族には為れません。諦めているのですよ。子供だけは……。」
「たがら、節の妊娠にいち早く気付いたのかしらね……。」
「未来の話ですか……。私はどんな状態でも、先生と一緒に居ます。今は男で産まれて来て後悔はありません。」
母が微笑んだ。
「だから、貴方は来世でも男の子なのね。自分の信念を曲げなかった訳ね。紅ちゃんは凄いわ。」
母は又紅の頭を撫でていた。
愛おしむ様に、抱き抱える様に紅を見詰めた。
「もう、おやすみなさい。」
母が云うと、紅は目を瞑った。
ゆっくりと眠りの底に落ちていく。
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