現代 十八 家の電話
紅と晴は、秋継のダイニングに居た。
秋継と節の居る部屋から聞こえる囁き声を打ち消すかの様に、テレビの音量を上げていた。
「二人はどうすると思う……。」
晴が聞いて来た。
「先生なら産ませて上げるよ……。」
「紅はそれで満足かい?……いや、駄目になれば良いなんて思ってないよ。幸せになって欲しいよ。でも、紅の立場から言うと微妙かな……と思って……。」
「過去の記憶があるだけだよ。先生は今を生きてる人だよ……。私の為に、命を犠牲にはしないよ。先生の性格は分かるもん。」
「僕は嬉しいよ。二人が結婚すれば紅は一人だもん。叔父さんに気兼ねしなくて良いもん。」
紅は黙って下を向いた。
「ごめん。不謹慎だったね。何でも自分の事しか考えてないから……、ごめんね。」
紅は衝撃を受けた顔をしてはいなかった。どちかかと言えば嬉しそうだった。
「晴の所為ではないよ。只もう待たなくていいんだなと思って……。幸せにってくれてるなら待たなくて言いと思ってさ……。」
「紅は優し過ぎるよ。」
紅は微笑んだ。
「大丈夫だよ。先生が生きてるだけで嬉しいよ。その上先生の子供が見られる何て、幸せだよ。」
晴が不安そうにしている。
紅が嘘を述べているとは考えられない。
「上手く言えないけど、紅がそれで良いなら何も言わない。でも僕が居る事を忘れないで……。」
紅は微笑んだ。
紅が携帯をの通話ボタンを押した。相手側のスマホが鳴る。着信音で直ぐにスピーカーにした。
「どうした?紅。俺、寝てたんだけど……。」
寝起きのガラガラとした喉が聞こえてくる。スマホから律之の声が聴こえる。
「節さんがおめでたなんだよ。」
晴がスマホに近付いて、喋る。
沈黙がスマホからする。
「妊娠したって事……?」
スマホから律之の声が不思議がっている。
「病院には行ってないから100%ではないけど、十中八九当たってる。節さんのお腹に叔父さんの子供がいる。」
「先生なら間違いなく結婚すると思う。性格的に逃げないよ。」
スマホから声がする。
「伊藤殿ならそうするだろうな……。時継に連絡していい?仕事中だから返信はないだろうけど……。」
紅と晴が顔を見合わせた。
秋継に聞いた方が良いだろうが彼らが部屋から出て来る気配はない。
「叔父さんと親戚だから自分でするんじゃない?」
「報告は自分でさせた方が良くない?」
「時継なら大丈夫だろ?」
中学生の他愛ない会話をしながら三人は微笑んでいた。
話の話題はコロコロと変わった。
何時もの話題をしていた。
携帯から律之の声がする。
「ごめん。家の電話が鳴ってる待ってて。」
家の電話の独特な着信音がする。
「行ってきて。」
晴が相槌を打っと律之の声が遠退く。
「律之の家の家電が鳴るなんて珍しいね。」
紅が首を傾げた。
「殆んど、今は携帯なのにね?」
晴も訝しい顔をしている。
「ごめん。待たせた。」
律之の声が変わった。
「おかえり。どうした?」
晴が能天気な声を出す。
「紅。落ち着いて聞いて……。紅の叔母さんが事故に合ってたんだって……。意識がなかったから連絡も出来なくて、今母さん達が病院に行ってる。命に別状もなくて障害も残らないって、俺が電話番するから、伊藤殿の家に居て連絡を待ってて欲しいみたい。」
紅が席から立ち上がった。
「今直ぐ行くよ。母さんの側に行く。」
スマホから律之が慌てて言う。
「車でないと行けない程遠いんだ。到着して母さんが世話をするって、退院まで数日掛かるし直ぐには無理だよ。」
「でも会いたい。」
「看護師の母さんが行ったんだから安心して……。状況判断逐一報告するから?今は、晴の側にいて伊藤殿の側にいて……。」
「状況判断が分からないから、動かない方が良いよ。紅が行ったって、何も出来ないし命に別状はないから少し待とう……。」
晴が紅の手を握った。
「でも……。」
「大丈夫だ。」
握る手に力を込めた。
紅が泣きそうな顔をしている。
「母さんに捨てられて居なかった……。」
「連絡を寄越せなかったのは意識が無かった所為だね。これからリハビリとかあるから、律之の叔母さんに任せた方が良いよ。」
紅が安堵の表情を浮かべている。
「抱き締めて良い?」
晴が紅に聞いた。紅は首だけ頷いた。
肩に手を回し抱き締めてくれる。優しい体温が伝わる。
紅は晴に拒絶反応を示さなかった。
「晴。有難う。助けてくれて……。」
「何もしてないよ。僕は紅の事しか考えないよ……。」
晴の言葉に(秋継とは違う。)と、安易に言っていた。
「俺も居るよ。」
スマホのスピーカーから律之の声がする。
また、他愛もない会話をし出した。
中学生ならではの、主語がコロコロと変わる内容だった。
三人は、楽しそうに会話を進めた。
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