現代 十七 吉報
節が秋継の部屋を出てきたのが、昼を大分回った所だった。
クラクラする頭を支えながら台所へ向かった。
ダイニングには、紅と晴が座っていた。スマホを手にしながらゲームをしている。
「先生は仕事に行きましたよ。」
節は紅の言葉に頷いた。
「分かったわ。」
節の異変にいち早く気が付いたのは紅だった。
「節さん。顔色が悪すぎない?」
晴は手元から目を逸らさず画面をタップしている。
「昨日なも、ご飯食べてないからその所為でない?」
「ちょっと、気になるから見て来る……。」
台所のシンクに凭れ掛かりながら水を飲んでいる節。
「気分はどうです?何か具合が悪そうに見えたので……。」
口を布巾で拭きながら、節は溜息を付いた。
「良くないわ……。体が重いし微熱もあるみたい。でも、大丈夫。直ぐに良くなるわ。」
炊飯ジャーから米を炊き上がったアラームが、鳴った。節は顔を歪めて、布巾で鼻と口を塞ぐ。
炊きたての米の臭いが、胃を押さえ付けた。蹲る節に紅は背中を摩った。
「無理はしないで下さい。体調が悪いのは何時からですか?」
節は問い掛けに反応できない。
「一週間位かしら……。」
「長いですね。」
少し考え込んでから紅が、意を決して言った。
「節さん……。言いにくいのですが……、生理は何時きましたか?」
節が紅を驚いて見る。紅は真剣な顔をして言葉を続けた。
「おめでたじゃないですか……?」
「えっ?」
節は記憶を巡らせた。回らない頭で考える。
紅は直ぐに節の表情が変わったのを、確信に変えた。
「パンを焼きます。ベットに戻って下さい。」
節を支えると紅は秋継の部屋に向かった。晴がダイニングテーブルで伸びている。紅の緊張した顔を見て後に着いて行った。
節はまたベットに戻った。
「晴。悪いんだけど妊娠検査薬を買ってきて……。」
「はあ?」
「節さん。おめでたかもしれないよ。」
「紅。何を言っているの?」
「症状があるんだよ。赤ちゃんが出来た時の、初期の状態だと思う。」
「僕は嫌だよ。そんなの恥ずかしくて買えないよ。」
「じゅあ。節さんの側にいてくれる?」
晴が頭を抱えて考えてから、諦めて溜息を付いた。
「分かった……。レシート持ってくる。」
晴は財布を持って薬局に向かった。
姿を見送ると、紅は軽めの昼食を作りに台所に向かった。
秋継が仕事から帰ってきたのは定時を過ぎた辺りだった。
「ただいま。紅。」
ダイニングに紅と晴が強張った表情で座っている。テーブルの上には、から箱が置いてある。
何時もなら紅が夕飯を作っているのに、テーブルには何も乗ってない。
不信に思い秋継が近付く。
「どうした……。二人とも?」
秋継がから箱に目をやると、妊娠検査薬だと気が付く。
「どういう事?」
「節さんに聞いて……。部屋で待ってる。」
鞄を椅子に置き秋継が節の側に行く。
紅と晴は、ゆっくりテレビを付けた。
2人の会話が為るべく聞こえない様にするためだった。
秋継が部屋に入ると節は目を開いた。
「おかえり。」
ベットの横に秋継が座ると節が安心した顔をした。
「妊娠検査薬の結果はどうだった?」
秋継が節の髪を撫でる。
節は無言でキットを前に出した。秋継が受けとると、中心の丸い穴に赤い線が入っていった。
「陽性?陰性?どっち……。」
節が躊躇っている。
「答えて……。」
秋継が優しく節の頭を撫でた。彼は緊張した顔付きで節を覗き込んだ。
「赤ちゃんが出来てた……。」
秋継の顔が強ばった。困惑しているのは伝わる。言葉を直ぐには出せない。
妊娠検査薬を見てから、それを握った。
「結婚しょう……。」
秋継は呟く様に囁いた。
節は口元を押さえると、涙を溜めて秋継に抱き付いた。
「本当に良いの?」
紅の事を意味しているのが分かる。
秋継は微笑みなかがら、節を抱き返した。
「折角、宿った命だ……。大切に育てよう……。」
節が秋継の肩に顔を埋めて泣いていた。
彼の腕に力が籠る。
「生まれる前に籍を入れよう。俺ん家に引っ越しておいで式は出来ないけど……。ごめんな。」
「そんな事どうでも良いわ。秋継が側に居るなら……。」
「幸せになろうな……。」
節は何度も頷いた。
秋継は抱き締めながら、節の頭を撫でていた。
これから忙しくなるぞと考えながら、秋継は紅をどうしようかと悩んでいた。
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