現代 十五 はにかむ
明け方まで話をした時継と律之が部屋を帰ってから、ダイニングに二人は残った。
秋継は仕事だったので、紅が朝食を作って居た。節も手伝っている。
ダイニングには秋継と晴がテレビを見ていた。
「叔父さん。紅を見る目がいやらしいよ……。」
「自覚はしてる……。」
秋継が肯定をしたので晴が怒り出した。
「過去の夢なんか見るからだよ。何で叔父さんだけ紅との記憶を共有してるの?他の人と違う記憶があって、結び付きが強いみたいではない。僕だって紅の前世に関わってるのに、紅の記憶には出てこない。叔父さんだけ狡いよ。」
「俺だって思い出したくも無かったよ。殺された過去何て……。」
「それだけ紅との繋がりが深いって分からないの?時間の共有が一番恋愛には不可欠、何だよ。もうスタートラインから、僕だけ出遅れているよ。」
晴の明白な嫉妬に、秋継が苦笑いをした。
紅も秋継を特別と認識しただろう。
「晴が焼きもちを焼く事は余り良くないと思うけど……。」
「当たり前でしょ。紅には、既に告白してるけど返事待ちだよ。叔父さんが邪魔してるの分からないの?恋敵に塩を送る奴なんていないよ。それとも、僕なんて眼中にないって事かよ?」
晴は不機嫌に頬杖を付いた。
「嫌、紅の気持ちが大事だと思うよ。」
「完全に叔父さんに持ってかれたよ。もう、見る目が違うもの!元から紅は叔父さんに惹かれてた。でも、一緒に住んでも問題ない位の好意だったのに……。完全に負けた。目覚めて叔父さんが抱き付こうとしたら、嬉しそうな顔をしたんだよ。僕には見せない表情で!」
秋継が複雑な顔をしている。過去の記憶のない彼なら嬉しそうな顔をするが今は出来なかった。
曲がりなりに節が居るのだ。
節には持たなかった感情がある。今迄に生きてきた間に抱いた事のない感情だった。
「ゴメン……。」
「謝らないでよ。過去の記憶に勝てないじゃないの!一番心配してるのは節さんだよ。彼女の為に身を引いてよ。紅を譲る位は、平気でしょ?僕だって、紅は大切なんだから!」
秋継が即答出来ないでいる。晴は気持ちに敏感だった。叔父の性格を良く知っていた。
「前世で啓之助も居たんでしょ?僕が彼なら殺せなくて苦しんだに決まってる。紅に惹かれてたんだよ。だから、紅が死ぬ最後まで側に居たんだよ。」
泣き出しそうな晴を見てから、秋継が話題を変えた。
「半田の役割の中に部下で啓之助と修一が属してた。父上の継一も中心に居た。軍事に強いのは、母上の節のお陰だったんだ……。未来を知ってたから……。」
「叔父さんは狡いよ。話が反れてる。でも、第二次世界大戦では、日本は負けないし、問題はないよ。」
「明治の人の寿命なら、そこまで生きられないよ。当主を継いだ長男が、母上の節から情報を聞いていて、未来がどうなっていたか知っていたなら別だけどね。」
晴が不気味な顔をした。
「前世が母親、叔父さん的に彼女の気持ちはどうよ?倫理的に嫌だけどね。前世が母親な人と付き合うのは……。僕はね。」
「過去の母上は、理想的な母だったよ。今思えば近代の考えだったね。四人も子供が居たのに、平等に愛情を注いでた。」
「違うよ。夜の生活は?母親だよ?」
節の顔を思い出す。年を取ったら顔は似ているかも知れないが、性格が全く違った。
動揺せず落ち着く母上には似ていない。
「確かに、全然抵抗がないとは言えないな……。でも、過去で育ての親だとは聞いてる。」
「過去で節さんと血が繋がってないの?」
「幼少期に父上から聞いたら間違えないだろう。母親は別にいるよ。」
「過去でも人間関係がゴタゴタしてるんたね……。」
「昔は、問題はあるのか?過去より紅の方が問題があるだろ……。男だぞ?」
「それを叔父さんが言うの?過去で体の関係になってたでしょ?三年も同居してたのに!嘘でしょ?」
秋継が考え込んだ。沈黙の間に顔を赤らめた。
「体の関係にはなってない……。」
晴が呆れた。年を取った叔父が初恋の相手の話をしている様だった。
「節さんが可愛そうだから、そんな顔をしないで上げて!紅にも見せないでよ。諦められなくなるでしょ。叔父さんの事……。」
「そんなに顔に出てるのか?」
晴がゆっくり頷く。
「特に紅の事になると表情が緩む。でも、叔父さんが紅に手を出してないのに驚きだよ。節さんの前、現段階で彼女が案外居たのに……。」
「それは寄って来るから……。」
「自分から好きになった事ないの?」
「晴もそうだろ?」
二人は沈黙した。




