現代 十三 目覚め
紅が目を開くと心配そうな晴の顔があった。
カーテン越しから夜の気配がする。
「大分眠ってた?」
紅は上半身を持ち上げ、隣で寝ている秋継を見た。
苦悶した表情で寝て額には脂汗をかいている。
「先生も寝てるの?」
晴が心配そうに覗き込んだ。
「紅が寝入った時から、叔父さんも寝てる。紅が眠りに入ってから、二人とも起きて来なかったよ。」
節も心配そうに秋継の額の汗を拭っている。
「先生も起こさなくて良いの?」
「嫌、起こさないで置こう……。」
「何で……?」
「律之が言うには、叔父さんも同じ夢を見てるみたいだって言ってた。僕達もそう思うよ。多分紅の名前ばかり、叔父さんも呼んでたもん……。」
節が複雑そうな顔をしている。晴も苦虫を噛んだ表情だった。
「で、どんな夢だった……?」
晴が言葉に出して聞くと、秋継が布団から飛び退く様に起き上がった。
悲鳴に近い溜息を漏らしながら、紅を確認した。安堵の表情が零れる。
「紅。無事だったか……。」
秋継が紅に抱き付こうとしたのが分かって、晴が紅の前に割って入った。
「節さん。お茶持ってきてくれますか?」
晴が節に声を掛けた。
節は無言の侭、立ち上がって台所へ行った。
「叔父さんも寝ぼけてるの?」
秋継が呆然としている。
「啓之助……。」
紅が慌てて晴の顔を見た。夢に出てきた啓之助に似ていた。紅も困惑した顔をしている。
「お前は誰だ……。」
秋継が聞くと、晴が馬鹿にした視線まで啓之助に似ている。
「叔父さんも、甥の顔を忘れたの?伊藤 晴だよ。父は常継。叔父さんの兄だよ。」
秋継が辺りを見回した。自分の手を見てから、顔や顎を触った。
「夢か……?何てリアリティーのある夢だったんだ。最後、絞首刑になるまで見たから、本当に怖かった……。」
「やっぱり叔父さんは殺されるの?」
「何で、お前がそんな事を言うんだ?啓之助ではないのか?」
秋継が紅から離れると、晴はゆっくりと紅の隣に腰を卸した。
「僕は僕。晴以外にいないよ。そんなに似てるの?」
「生き写しと迄は言わないが似てる。」
「私も似てると思います。先生。」
紅が声を出すと、晴が怪訝そうな顔で睨み付ける。
「紅も俺でしょ?俺。話し方まで変わらないでくれる……。本当に嫌だ。過去の記憶が戻ると性格が変わるの辞めて貰える?僕だって当事者何でしょ?でも、過去の記憶なんてあるだけ無駄だよ。今の時代にそぐわない。」
秋継の視線が紅に対して愛おしい物を見る形に、変わっているのに晴が気が付く。
「節さんが泣いて嫌がる訳だわ……。」
時継と律之が部屋に入ってくる。
「兄さんと佐波様……。」
秋継が呟く。
「記憶が戻ったのか?どうだったかは聞くまでもないな。その苦しみ方では、捕まったのだろう。でも、明継が捕まるのは何故だ……。どんな内容か話して貰えないか?」
時継が秋継の前に座った。
布団を敷きっぱなしで秋継が話し始めると、節が人数分の麦茶を持って部屋に入ってく来た。
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