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現代 十二 記憶を辿って16 (過去 三十五 結果)

 ()の頃明継(あきつぐ)は牢獄で、一人座っていた。


 ❨佐波(さわ)(こう)の身代わりになってくれと云った言葉が胸に突き刺さる。自分は間違った事をしたのか……。其れとも、紅の幸せのために必要だったのか……。❩と明継は考えた。


 直ぐに監守を呼び付け嘘の自供をした。明継が三次郎を使って被害者を殺すよう命令したと……。


 心の中では紅がそんな事を命令するはずがないと分かっていた。だが、死刑確実の身もしも紅が計画犯だったら……。最後にして上げられる事をしたかった。





 明継の鉄格子前に立ち並んだ軍装の男達。端の小さい男に目が行く明継。

 其れに気付いてから唇を血が(ニジ)むほど強く噛み締めた。


紅隆御時宮こうりゅうおんときのみや様の誘拐、及び、皇侮辱罪。警護隊の殺害の計画犯。()前は、大審院(ダイシンイン)に掛けられる予知なしと、判断され極刑を持って罪を償え。」


 この時代に聞きなれない言葉があった。


 何処(イズコ)かが間違っているそう感じた明継。

 今迄、西洋文化が流れて来るだけだったのに皇を中心として、意味のない軍隊式連帯感が出来始めていると感じた。


 何かが変貌し始めていると感じた明継。


「皇に刃向かったらそうなるのさ……。」と、監守がボソリと呟く。


 軍服の男達に一斉に睨まれて敢え無く明継は、捕縛(ホバク)された。


「説明しろ。」


 叫ぶ明継に鋭い瞳の男がフテブテシク云う。


「犯罪者に云う言葉何てない。」


 頭が混乱して絶望が心に沈んで行く。

 明継は壊れ始めた時代の渦に巻き込まれたと痛感した。



 男達が土足で牢獄に進行する。明継の腕を掴み連れ出そうとする。必死で逃れようとするが体を抱き抱えられ宙に浮いたと思うと、腹に強い衝撃を受け意識が遠退いて行った。







 明継が目を覚ますと其処(ソコ)は前の所と然程、代わり映えもなく牢獄であった。


 だが明白(アカラサマ)に絞首刑用のロープが天井から吊るされている。


「御気付きになられましたか……。」


 薄っすらと半田(はんだ)の顔が分かる。

 明継は怒りに震えた。余りに酷い仕打ちを受けたと拳に力を入れる。


「アンタ……。其う云う事か……。」


 明継は上背を持ち上げた。


「元から()れが願いだったのだな。」


 半田は薄気味悪い笑顔を浮べた(ママ)、明継を見下していた。


「伊藤殿、極刑だそうで……。」


 人間とも思えない叫びが喉の奥から湧き上がる。

 明継は飛び掛かろうとしたが、鉄格子に阻まれ失敗に終る。蹴破る勢いの明継。


「門番を殺したのは紅の側に居た啓之助(けいのすけ)だな。紅の殺害は失敗し計画犯に奉り立て、佐波様に嘘を擦り込み。多くを知り過ぎている私を大審院(ダイシンイン)に掛ける事無く殺すために、紅の代わりに犯行を自供する様にさせた。私が死刑になる事を知って、最後に紅のために死のうと考えている事すら御見通しだったな……。」


「えぇ。」


 明継は口を進めた。


「啓之助と云う男。紅と初めて木蓮を見に外出した時に田所の近くに居ただろう。その上私が逮捕される前、紅を監視する様に向かいの建物から此方の部屋に光が放たれたが、其れも啓之助が行ったのだろう。私の家に紅が住んでいる事を確かめるために……。」


「御利発。それは良く分かりましたね。佐波様が紅を隠したのは知っていました。色々な別荘や山荘を調べましたが見つからず。流石に通訳無勢(ツウヤクブゼイ)に其の様な大事な事を任せるとは……。佐波様は考えがあった訳ではなく只、貴方が連れ出したのを知って、後始末は今皇と啓之助に頼みました。しかし一つだけ、伊藤殿が云った話の中で違う物があります。隣のビルで監視をしていたのは、林 修一(はやし しゅういち)です。彼は、軍人として私の命令に従っていましたから……。」


「修一まで……。」


「彼は何も聞かされていません。軍部の指示に従っていただけです。対象者が貴女方だとすら知らなかった。」


 明継は黙った。

 修一は裏切って居た訳ではないと感じた。


「成人の儀を早める必要が何処(ドコ)にあった……。」


「簡単ですよ。戦争です。軍部は戦争に向かっています。指揮を任せるなら佐波様か紅様が丁度良い。紅様を宮廷に帰す手段がなくなれば、貴方達は天都にいる必要がなくなる。だから佐波様に頼れない様、デマを流した。」


「宮廷の女中に噂を流したのも……。」


「不安感を煽り伊藤殿を宮廷に近づけさせないために……。」


「さっきこの牢獄に移された時、軍装の男の中に啓之助が混じっていたぞ。」


 半田は汚い物を見る様な侮蔑した視線を明継に下す。其れが余計彼の頭に血を上らせた。


何故(ナゼ)其処(ソコ)まで紅に固執(コシツ)する……。」


 半田は、高笑いをしながら、腹を抱えていた。


「次代皇に佐波様を付かせる為にですよ。佐波様は軍備拡大に反対。一部官僚達はそれに困っている。佐波様を亡き者にしようと考えた者もいました……。だが、佐波様殺害の計画は失敗に終り其れを勘付いた佐波様派は、皇院を隠す事を思い付いた。だが紅は伊藤殿が(サラ)った後で行方が分からなくなっていた。佐波様派と戦争歓迎派は紅の行方を探した。戦争歓迎派が紅を保護して、隔離した。佐波様が考えた伊藤殿に預けたと云う口実が一番問題を隠蔽(インペイ)するのに適していた。」


「戦争を始めるタイミングを見計らっていたのか……。」


「其うです。佐波様が成人してから軍事を拡大させる方へ国を動かす(タメ)です。」


「佐波様は軍事拡大は反対でなかったのか……。」


「今皇は反対はしていません。捺印を押すのも時間の問題でしょうにね。」


「佐波様と父君の今皇との連絡を遮断したな……。今皇も優しい御方だったはずだ。前の戦とは違う大陸との戦いに納得するとは思わない。」


「開戦の方法は時間を掛けて行われます。其まで伊藤殿達は、自由で居られた訳です。」


口惜(クチオ)しい……。」


「皇になるには皇院が必要で、皇院のいない皇は、第一皇になれない。其れで十五の成人の儀まで紅様をどうしても生かさなくてはいけなかった。」


「どう云う意味だ……。」


「皇は代々神であり、皇の言葉は神の言葉と民衆は信じている。一種宗教的意味があった。軍備強調派の一派が皇が神になり、神から命令を下せる形にしたかった。そうすればどんなに理不尽な戦争の開戦も国民は従っててくれる。」


 半田は目線を明継の視線まで落とした。


「其れには皇が御飾りでなくてはいけない。佐波様は要らない考えを御持ち過ぎる……。しかし第一皇子抹殺だと、国民も黙っていない。其の上、一回失敗している。影武者である皇院を殺せば、王位継承権は下に回る。佐波様が明継を(トラ)え、紅を守る必要があったと云う訳ですよ。だから、貴方が逮捕されるのを承諾した。」


 紅の背景にあるのが、軍事的な物だとは気付かなかった。其れよりも、ショックが大きい。皇を使って、この国を軍事国家に建て直そうとしている一派がある。その他に、佐波を次代皇に押して現状維持の一派もいる。


「田所に皇院の事と慶吾隊の名前を流したのも、啓乃助です。其うすれば佐波様が焦って内密に貴方と紅を、確保しようとする。それが出来なければ強行手段を採るしかない。貴方の逮捕で紅の身柄を確保するしかない。そうすれば、紅は一人になる……。」


 半田の卑らしい口調が響き出した。自分一人では負えないと分かっていたが、口惜しくて仕方がない。


「其の上紅を宮廷に入れれば、安全は確保されたと思っている。佐波様の馬鹿さ加減………。」


「やはり門番殺害は紅を殺す目的だったのだな。」


「三次朗が厠に行く。啓之助が門番を殺害、紅を殺そうとして鍵を開けた時に反対側の廊下を巡回した慶吾隊の光が見えて、下女の悲鳴が聞こえた、見付かったと勘違いし逃走。戻って来た三次朗は腰を抜かして、気絶。紅が隅っこにいたのは下女の悲鳴に驚いていただけ……。」


 半田は平然とした(ママ)、続けた。


「紅様殺害に失敗に終った結果、三次郎を実行犯にし紅様を計画犯に仕立て上げ、伊藤殿に偽証させる手を考えました。三次郎は数日前迄貴方の監視役でしたからね……。」


「一部始終を見ていたな……。」


「ええ、啓之助が逃げるのは誤算でしたが……。」


「御前が田所や修一や佐波様に話した事は全て嘘だろう。」


「半分以上はデマカセでありますが……。少しは本当を云っていますよ。其れに貴方の前で話している事は全て本当です。(タムケ)に……。」


 明継はもう逃げられないと判断し絶望的になった。紅も守り切れなかった悔しさ、無力な自分が悔しい。


「これから紅はどうするのだ。」


「紅様は幼少の時より見守ってきた御方、御可哀想に……。こんな風になって……。」


「白々しい止めろ。」


 押し潰した声を出す明継。


 半田は鼻で笑うと直ぐに邪悪な顔付きになった。


 今すぐにでも首を締め上げたいと、明継は腕が(ウズ)いた。


「さぁ、知りませんよ。啓之助も側に居ますし、何時(イツ)でも打てる。でも彼は最後まで使える。なら生かして置くのが一番でしょう。」


「佐波様はどうなる……。」


「佐波様達は、貴方が紅を連れて逃げる事を望んだのですよ。至る手を使って怖がらせて……、だが伊藤殿は逃げなかった。なので啓之助と修一が、紅と佐波様の監視役になります。今は守る方向で、(アルジ)とも話が出来ています。」


 口惜しそうには聞こえない半田の声。


 小馬鹿にされた明継は吠える気にもなれず黙っていた。

 瞳からは血走った殺意が見える。


「軍事派も藩主、家臣、が仕組んだ事。宮廷全員がそれに乗っている。紅殺害は九州の伊藤 継一(いとう つぐいち)殿が考えたのですよ。皇子の権威を利用するために……。此れから戦争が始まる。それで一儲けするには皇の神の一声が必要なのですよ。国一つが動かせる神の声が……。佐波様は、啓之助を使って、門番殺害の諜報を調べた。紅様本人に聞かず啓之助の言葉だけを信じた。彼は爪が甘い。この国の頂点には向かない。たがら我々が影で、この国を動かす。」


 明継は自分の耳を疑った。聞いてはいけない事を聞いた。耳を塞ぎ、丸くなった。


 父がこの件に関与している。自分の子供の命を切り捨てて……。


 心臓が痛くなり体を()(ムシ)る明継。


「まだ、私を苦しめるのですか……。父上。」


 明継の怒号が最後に聞こえると静かになった。

読んで頂き有り難う御座います。

意味が分からない箇所ありますが、回収は少しお待ち下さい。

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