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現代 十二 記憶を辿って14 (過去 三十三 下男)

 薄暗い部屋の中高価そうな調度品があり、大きめの本棚があった。


 窓を背にして文机があり男が座っている。

 ()の男を前に直立不動の姿で林 修一(はやし しゅういち)が立っている。


 机の男は半田 一郎(はんだ いちろう)であった。


 修一(しゅういち)から文を受け取る。

 読み終えると鍵の掛かった机の引出しに忍ばせた。


()聞きしたい事があります。発言を許可願います。」


 修一は構えた。

 何ですと首を傾げる半田。


「紅を犯人と御考えですか。もしくは計画犯として御考えですか。」


 急に切り出された修一の質問に二、三秒の後、我に帰って元の顔立ちに直した。


「何故そう考えます。」


「門番に殺す動機があるからです。被害者は、鍵を持っていた。明継の牢獄の鍵を其の時間持っていました。」


 半田は修一が最後まで云い切る前に高笑いをした。修一は肩を(スク)めた。


「想像力が(タクマ)しい。紅様の部屋前で惨劇が行われたのはとても哀しく思っています。ですが紅様は犯人ではありません。ましてや慶吾隊も考えていませんよ。」


 修一は真剣な(ママ)固まっている。

 曖昧(アイマイ)な説明に飽き足らず、質問を投げ付けようとした時、半田は説明を続けてくれた。


「内密に。門番の三次郎と被害者は男女間の秩序の(モッ)れがありました。動機は十分にある。それに外鍵があるのに、内側から開く事は出来ませんよ。何か言い訳を付けて開けてもらっても、紅様の体力低下は殺害日時が一番酷かったのです。立つ事も(ママ)ならない人間が殺人は無理でしょう。」


 修一は保護されてから紅が衰弱していた事。自分達は、紅の姿を見えてきたが殺害日に元気を取り戻した様に見えた。


 紅の場合肉体的衰弱より精神的圧迫で動けなくなった。精神面のストレスが強かった。生きる希望を取り戻せば何時でも動けたはずである。


「では犯人を三次郎と御考えですか……。」


 修一は胸を撫で下ろした。

 明継を落し入れ紅を犯人に仕立て上げると、誰かが得をする気がした。その誰かは分からないが…。


「紅様から伊藤殿は無罪であり、自分の意志で三年考え込んだ着いていったと書いてあります。後倫敦(ロンドン)に留学したいとも書いてあります。」


 手紙の内容を知らない修一は半田の言葉で何が記入されているか知った。


「紅様の同意の上で一緒に住んでいたのでしょう。なら誘拐ではないですね。紅様の出奔(シュッポン)です。では伊藤殿には、現状注意と云う御咎めぐらいが相当です。」


「しかし皇院と云う立場の人物を(カクマ)って居たのは事実です。」


「一般的には皇院を公表する訳にはいかない。此処(ココ)は後宮ですよ。その次代皇の佐波様の側近なら、次の皇の意志に匹敵します。皇の命令は絶対です。」


 半田の顔は絶対服従の意志が見えた。


「なせ其処(ソコ)まで寛大な処置が出きるのでしょうか……。紅の意思とは関係なく側に置いたのは伊藤殿の考え。次期皇の寛大な命令でも、今皇の考えは違うでしょう。」


 修一は気にしすぎだと笑えるだけ甘くはなかった。


 半田は真剣な目付きになって、同じ言葉を繰り返した。


「内密にお願いします。紅様の失踪は計画の上でした。次期皇を……、佐波様を失脚させようとする一派がおりまして、それを阻止しようと紅様を伊藤殿に預けたのです。伊藤様は自分が紅様を連れ去ったと御思いでしょうが、紅様は伊藤殿に付いて行くよう打診(ダシン)したのは、今皇の考えです。」


「紅が伊藤殿と住む事は計画だった。」


 半田は頷いた。

 余りの事に言葉をなくす修一。


「なら伊藤殿に連れ去る前に話して、三年間二人を保護するべきではありませんか……。」


 修一は腹を立てた。

 明継は何も知らないでぐるぐると苦しんでいたのだろうと哀れになる。


「佐波様も其れを気に掛けていた様です。」


「佐波様も知っていたのですか……。宮廷の人間全部が明継一人を騙していた事を……。」


「騙したとは人聞き悪い。その事を知っているのは極限られた一部の人間です。話しては庇いきれない物があります。其の上伊藤殿も軍人ではない命令に、身構えてしまうでしょう。紅様が興味を持ったので伊藤殿になった様なものです。」


 半田は小さく笑った。


「ならば何故、牢獄に収容しているのですか……。」


「表向き必要だからです。逮捕の時慶吾隊員が動いて、内々で処理出来なくなった。今皇の御時宮(おんときのみや)様の証言が必要だったのです。」


 半田は紅からの手紙を主に伝えようと、電話機の方へ向かった。


 半田は笑みを浮かべながら、「旦那様に直ぐにでも連絡を…。」と云った。


 彼は、電話機の前に立ち、受話器を持ちながら、ハンドルを回して通信している。

 どうやら主人は、宮廷の近くにいないらしい。相手が出るまで、多少の時間を有した。


「良い御返事が頂けると思います。結果は時間が掛るので、私が伝えに行きます。どうぞ貴方様は紅様の御側に……。」


 電話機のラッパ型の話口を左手で押さえながら、半田は振り返った。

 主人がまだ電話口に居ないのか半田は落ち着いていた。


継一(つぐいち)様にお取り継ぎを願います。」


 半田は電話に話しかけた。


 後ろ姿を見ながら退席する修一。


「失礼いたします。」


 修一は半田の言葉に素直に従った。

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