現代 十二 記憶を辿って10 (過去 ニ十九 話し合)
「あぁ…。きっと血の出方から十中八九、殺害現場は部屋の廊下の真ん前。それも数分で的確に殺害されている。その上血の飛び方から、刺した直後被害者から離れた……。」
「何で……。」
「血潮が服に付かない様に……。刺してから数秒の内に離れている。凄い手慣れてるみたいだ。」
「と云う事は……。内部犯よね。其れも、直ぐ持ち場に戻らなければならない奴かしら……。」
修一は頷くと胸元のかくしから、ペンと手帳を取り出して書き出した。
「門番は二人。五分間の内に殺戮は行なわれた。一人が厠へ第一発見者の門番、三次郎が疑われている。」
修一が半田の説明を要約する。だが彼は半田の言葉にない事を話始めた。
「紅の部屋の錠も戸も半開きになっていたそうだ。その上、部屋の扉を開けた時に紅は壁の角にへばり付く様に座っていたらしい。」
手帳をパラパラと捲る修一に、
「何でそんな事知っているの……。」と恐怖混じりに聞いた節。
不敵な笑みを浮かべる修一。
「悲鳴が聞こえたのだよ…。」
「どう云う意味……。」
修一の笑みが恐ろしくなった。
「門番の三次朗が死体を発見した時、凄まじい惨劇で意識が飛んだらしい。その侭何時間か経過した後、下女が通りかって惨状が露になった。」
「ちょっと待って。もしかして、空白の数時間が……。」
「その数時間を知る為に、俺は聞き込みに徹した訳。殺害時刻が深夜だとすると、第二発見者の下女が来るまでの数時間は完全に空白になっている。其の後慶吾隊が出動するまで数分経って事情聴取して被害者を解剖までした。其処まで隠したかったのだろうね。この事件か……。紅を……。」
目を丸くして額を舁くと節は修一の最後の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「もしかして慶吾隊は紅を犯人だと思っているのかしら……。でも無理ではない。外側からしか部屋の鍵が開かないのだし……。」
「あの部屋には厠が設置されてない。厠に行きたいと云えば鍵を開けると思うよ。犯行時刻、鍵もドアも開閉自由だったらしい。犯行に使われた小刀も被害者が所持していた物だった。」
何故慶吾隊が事件の後始末をしたのか、薄っすらと分かってきた。宮廷の要人達は内部犯だと分かり、一番先に紅を疑った。それで事件を揉み消す為に内部の人間に捜査をさせた。
「でも小柄な紅様が、鍛えられた大男の首を刺せるかしら……。体力もない紅様には無理だわ。」
修一は黒い皮の手帳を捲る。箇所箇所を抜き出している様子。
「刺し傷は上部からの物で、犯行的には可能だが引き抜く力が及ばないはずだ。そうなるとあんな現場にはならない。刺して直ぐ引き抜いて飛ぶ様に離れないといけないから……。倒れてから、抜いたとしたら血で大きな池の様になるね。」
「じゃあ。紅様が犯人ではないのね。」
「証言が有る訳ではないから何とも云えないのだよ。それに、紅が犯人説も憶測だし……。」
ボリボリとペンで頭を掻きながら、手帳を覗き込んだ修一。
節は頭の中を整理してから、
「慶吾隊は紅を犯人とも考えていると……。」と云って、修一が補う様に付け足した。
「紅を暗殺の標的とも考えている……。」
喉を押し潰した様に修一は云った後手帳を閉じた。
「仮に紅様の暗殺の方で考えるなら、力のない彼を、抵抗があっても撃ち損じるかしら……。」
「考え難いね。紅に暗殺する為に門番を仕留めたなら理由に叶っているけど……。」
二人は明継の顔が浮んだが、即座に打ち消した。彼が紅に会いたくてもそれは無理でしかなかった。彼の監視のために数人の人間が駆り出されているのだから……。
「啓之助は何のために居るのかしら……。紅を守るため……、其れとも……。」
「監視役の方が強いだろうね。犯人が誰か決るまでは……。紅は被害者であり加害者であると見られるだろうね。」
だからあんなにも啓之助が事件に触れる事を恐れたのだろう。怪しい人物と思うが何となくホッとする。
紅が犯人だとはどうしても思えない二人。
紅の一途な健気さがその様な犯行に繋がるとは思えない。彼は明継をどうにかして助け様と咽び泣く日々を送るだけにすぎないと思える。
「伊藤さんの牢獄でも行きますか……。」
節が修一に尋ねると彼は眉間に皺を寄せた侭頭を抱えていた。
節は修一の腕を引っ張る。明継のいる官舎へと向かった。疲労の色は彼にも出ていたのだから事情ぐらいは説明すべきだと考えた。
明継も紅の事を心配しているのは分かりきった事だからだ。
もう少しお付き合いください。




