現代 十二 記憶を辿って 5 (過去 二十四 修一と節)
外観から一見監獄には見えないのが、明継の投獄されている場所である。宮廷の片隅にあり旧慶吾部隊の官舎で牢獄所として名高い。
皇がいる宮廷からは、人力車で数十分馬車で数分かかる。
宮廷内の旧慶吾隊の脱走犯や政治的に表に出せない人物を拷問するための監獄を、明継の牢獄として使用している。
公の場で明継の存在を知られたくないらしい事が伺えた。
官舎だったからか現在牢獄として使っているからか昔ながらの卍型ではなく、近代化の煽りを受けていた。
真上から覗くと、ギリシャ文字のⅡを引き伸ばした形に近い。廊下の接点に監視所があり数十名の警備が常務している。
窓には全て鉄格子錠前は最新式の物を取り寄せている。気持ち長方形の中央に中庭が建設してあり壁に花崗岩を使った所為か重圧感が非常に強い。
節が明継の居る牢獄から歩みを進めると廊下越しに修一が座り込んでいた。
「で……。明継はどうだって……。」
話し掛けてきたのは修一の方からだった。
丁度立ち上がった彼と向え合わせになる節は、長身の修一を見上げた。
「逮捕から数日経っているのに彼からは虚無しか伺えないわ。」
「事の重大さに気が付いただけでは……。」
「いいえ。そう云う訳ではないわね。きっと生に対する執着がなくなった様に思われるわ。」
節の解答に半ば理解不能な様子の修一。
明継の精神的状態よりも牢獄に収容された後、彼の気力が明らかに失われている事が意外だった。
「其れ以上に可笑しいのが……。事件から経過しているのに何処の新聞にも明継逮捕と紅隆御時宮様の保護が掲載されていない……。」
修一が憚られる様に辺りを見回した。
「確かに宮廷に関する一切の記事は極秘だから書けないのも分かるけど……。」
節も修一に聞こえるだけの声量である。其れ以外には聞こえない様に、極小の注意を計る。
「一大事件を隠しているとしか思えない……。」
修一は少し脅えていた。完全に諜報を潰している人物がいる。
事情を此処まで知り過ぎている二人には、慶吾隊も報道陣も邏卒(令和で言う警察)も、蚊帳の外に出来る人物がどれほど強大な物か容易に想像できた。
「此処では不味い……。別の所で話そう。」
身震いを起しながら修一は足を動かした。一分でも早くこの場を逃れたかった。節も横に並んで歩く。
「あっ……。ちょっと用事があるの付き合って……。」
頼りの修一は、目的地に着く前に逃げ腰に為っている。彼女も不安なのである。
「明継に会うのが用事では……。」
「いいえ……。宮廷の要人から遣いがあったのよ。」
節はそれ以上喋る事無く、歩調を早め進んで、目的のドアの前に付いた。
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