現代 十二 記憶を辿って4 (過去 二十三 贖罪)
冷たい鉄格子の中から外は殆ど伺い知る事は出来ない。完全な重犯罪者になった明継は、上半身を露にして囚人服を身に纏い、今迄の美貌とは別に窶れ干乾びていた。
天井から吊るされた枕木に、両手を金具で括り付けられて立っている。
しかし目元だけが菩薩の様な慈悲に溢れていた。
一人の所為か時間の感覚が薄れ明継が逮捕された時から、どれだけの日にちが経過したか理解出来ない。
半分は正気だが半分は夢の住人になっていた明継に、時間の流れは関係ない物になっている。
(何年間も紅の自由を奪っておいて……。此れは、報いだな……、)と考えていた。
明継からは全てが終った人間の末路が見えていた。きっと死刑確定だろうと警護兵に匙を投げられた。
宮廷の人間を巻き込んだのだから無理もない。国民全体が同情を寄せるのは、紅にだけで十分だと思った。
「どう……。罪人の気持は……。」
節が面接所を使わず直接牢獄に姿を現した。鉄戸の一インチ四方の窓から節の声が聞こえる。
明継は反応も見せず隙間から零れる外の光を見ていた。
「ざまあないわね。其の姿……。無様ね。」
明継は眉一つ歪めない。意識があるのか無いのか瞬き一つしないので分からない。
「紅様は雲の上の人なのよ。彼の人生を破滅させるだけでは飽き足らないの。やっと元の生活に戻れて順風満帆なのよ。」
何も答えない明継の背。
抜け殻の彼に喧嘩を売っても仕方ないので、節は身を翻して帰ろうとした。
「彼は元気だわ。貴方の事何て忘れて楽しそうだったわよ。」
蔑みの声が聞こえる。明継は其れでも節に顔を見せなかった。
「今が一番幸せそうだわ。」
節の白い視線を明継に浴びせる。明継の変化のない肩が、微妙に動いた。
「一つだけ聞きたい。一体誰が紅の諜報を流した。」
「まだそんな事を気にしていたの。私ではないわ。新聞に記事を載せようとしたら上からの圧力で握り潰されたの。それから慶吾隊やらが動いたらしいけど……。でも私達が載せたのは、皇院の内情を掲載しただけで、御時宮様……、紅の事は内容を記載出来なかったわよ。」
聞いているのか聞いていないのか、分からない明継に興味をなくし節はゆっくりと歩いて帰って行った。
一人部屋は、完全に独立している分、明継の心を静めた。
あの後紅がどうなったのかは、誰も答えてくれないので心配していた明継。
令状が出ていた為か男達が明継に対する扱いは酷く、美しかった肌に大痣が幾つも出来ていた。
陽の目に当たる所は其の様な扱いは受けていなかったが、えげつなく服の下に火傷の跡がくっきり残っている。
「紅が幸せなら、其れで良い。」
明継は心の中と言葉で頷いた。
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