現代 十一 カラオケ
秋継の家から出た紅と律之と晴は、近場のカラオケボックスに来ていた。
晴が歌っている隙に、律之が紅の側に寄る。
「昨日なは寝れたか? 発作は出たか? 」
「出たみたいなんだけど、覚えてないんだよ。回りが心配をしてくれてる。」
「秋継が居るから安定してるのかもな……。時継に会ってから、俺も夢を見なくなったからな。どうだろうな。」
考えて込んでいる律之がコーラを飲んだ。
「話は変わるけど、律之の電話番号を節さんに教えた。仕事終わりに掛けるってさ。」
「俺に用事があるのか? 何の為だろう? 間違えなく、過去の話だろうな……。まあ、聞いてから判断する。」
晴が歌い終わると律之の席に割り込んだ。
無理やりお尻を挟んだ様な密着感がある。
「紅は何を歌うの? 」
「ビートルズだよ。先生が貸してくれたの……。メロディアスなナンバーばかりだから俺は好き。先生から貸して貰えば? 」
晴は不満そうな顔をした。紅はタッチパネルで楽曲を決めている。
「敵からは借りない。」
「じゅあ。PV再生の曲にしょうか。数曲あるから……。」
「紅は天然だよね。普通は叔父さんの話をしないよね? 」
「まだ、晴と恋人ではないでしょ? だから、曲は関係ないし良いよね? 音楽の話くらいは雑談だからさ。」
律之が歌いながら叫んだ。
「いつの間に、そんな話になってるんだ?!二人共!」
紅と晴は耳を防いだ。エコーまで掛かっている。
「まだ、暫定(仮)彼氏だよ。叔父さんが邪魔で先に進めない。」
律之が曲を止めずにマイクを置いた。
「じゃあ、紅と晴は両思いな訳? 秋継は卒業? ホントに? 秋継だって紅に興味があるだろう。あの態度は……。」
「嫌、昨日な聞いたけど……。言っていいのかな?叔父さんは節さんと結婚するってさ。まだ、プロポーズはしてないみたい。だから、僕が紅と付き合っても問題はない。」
今度は紅がビックリしている。
律之が思った。秋継と節の話が進んで居るなら、節の態度は正しい。過去の記憶を含めて彼女は悪くないと思った。
「じゃあ、秋継が紅に下心あるのが、何か嫌だ。大人の遊びに紅を巻き込むな……。」
律之が又はマイクを持って続きを、歌い始めた。
「叔父さんが浮気するのは勝手だけど、紅を巻き込むのは、僕も頂けない。節さん一筋だったから、余計に腹が立つ。」
「先生と俺は恋人ではないよ? 」
「だからだよ。紅を泣かしてる。心ない言葉で紅を傷付けたよ。」
「でも生徒として仕方なく……。」
「じゃあ。僕に嫉妬するのも、小門違いだよ。僕だって一様は生徒何だからさ。」
律之がマイク越しに叫んだ。
「秋継が可笑しい!」
二人は耳を防いだ。叫びが音割れしている。
「ほらね?紅が罪悪感持たせる叔父さんが悪い。僕達まだ中学生だよ。遊ばれてるんだよ。」
「なのかなあ……?」
紅は耳がペタンと垂れた犬の様になった。
晴が紅の頭を撫でると、紅の頬を擦りつけた。
中型犬を抱き締めて、頬を擦り付ける様に何度もする。
「紅は本当に可愛いなぁ。」
紅は抵抗もせず、成されるが侭だった。
「そこ!発情しない!」
律之が、又マイク越しに叫んだ。
三人は二時間歌いながら、雑談をしていた。
カラオケを出ると律之の携帯が鳴った。
「節さんからだ……。昼休みに掛けて来たよ。」
律之が直ぐに対応すると紅と晴は夏の午後の光に当てられた。
ジリジリと熱せられるアスファルトに、熱の風が吹く。
「先生の家に帰る? 」
「ごめん。今日は夜から塾だから、泊れない。何時でも……授業以外で出るから電話して……。」
「晴の所為じゃないよ。今迄、ありがとう。多分晴が居なかったら、律之の家と自分ん家と往復してたから……。一ヶ所に留まれるのは嬉しい。それに、先生が又お小遣いくれた。今度は一万も……。」
「叔父さん。あげすぎではない?確かに、紅が食材を買って、ご飯作ってるからだよな。叔父さんの分も含めてさ。今時居ないよ。中学生で料理出きるのって凄いよ。」
「料理って凄いよね。誰でも幸せに慣れる。食べてくれる人が居ると、尚更嬉しいよね。」
晴が不服そうにしている。
「それは僕も入ってる? それとも僕以外の誰か? 嫉妬するのも嫌だよ。どっちか決めてよ。」
紅の手を晴と恋人繋ぎにする。彼は嬉しそうに握り締めた。
「そんなつもりじゃないよ。誰でも嬉しいよねって言いたいの。晴も美味しいって言ってたでしょ? 」
繋いだ手をブンブンとして晴の口に近づけ、紅の手の甲にキスをする。
紅が耳まで真っ赤になった。予想外の行動にしどろもどろする紅。
「誰も見てないって……。」
余計に晴が面白がる。クスクスと笑いながら、手の甲を厭らしく舌を出して舐めた。
紅から言葉が出ない。嫌悪感がないのが不思議だと紅は思った。
「嫌では無いんだね?じゃあ、僕は紅が大切だよ。次のステップに行って良いよね? 拒否らないと進むよ。」
「まっ待って。まだ分からないよ。」
「もう、待たないって言ったよ。叔父さんが節さんを選んだのが、答えだよ。だから、紅も僕を好きになれば良いよ。舐められて気持ち悪くなれば、手が離れるでしょ? 僕とのスキンシップは大丈夫なんだよ。だから、次に……。」
「次って何? 」
紅が男だから知っているが、言葉に出しと確認してしまう。
晴が微笑んで、又、手にキスをした。
「恋人にする事、何て決まってる。カラオケに律之が居なければ、良かった。可愛い子のエッチな姿は自分だけが見たいよね~~。」
紅の顔がもう一段階赤くなった。
「俺は男だよ。」
「関係ないよ。紅は恋が異性関係にしかないと思ってる? 女の子と同じ様に紅が好きです。だから、覚悟はしてね。男なら尚更解るでしょ? 」
「解るけど……。初恋もまだだし……。」
「僕と初恋をしょうよ! 楽しいよ。デートだけじゃないから、僕の家は人が必ず居るから紅の家は? 内鍵掛けてしまえば、大丈夫ではないの? お小遣い少ないから、中学生は大変だよね~~。」
律之が携帯を仕舞いながら、紅達の方へ来た。
手を繋いでいるのを、解っても何も言わず。紅に話し掛けた。
「秋継の家に時継も呼んでる。彼は既に行ってるみたい。記憶のある人間だけで、紅の記憶を呼び覚まそうとしてる。節さんが言うには記憶が戻る年齢は、明治の秋継と出会った年になると夢で思い出すみたい。だから、我々は七歳位で思い出すはず、俺は思い出したのもその頃だよ。昔の紅が登場するから、小さい頃に紅には話したけども、過去の記憶が紅にはなかったから、俺は諦めていたよ。今更、思い出してどうなる訳でも、無いのにな……。」
紅が俯いている。
「俺は思い出したくない。」
晴が紅の手を握った侭背中を抱いた。流れる様な足さばきだった。
「叔父さんが過去の記憶で、逮捕されるのが納得出来ないんだよ。」
「確かに、事実と違うのが紅だけなんだよ。だから、節さん達は知りたがっている。過去は代えられ無いのにね。」
「嫌ならさ。僕ん家に泊りにおいでよ。深夜ならばれないしさ。」
晴の瞳が輝く。彼の期待は別に有りそうだった。
たが、紅は思い出すよりも皆と記憶の種類が違う事の方が引っ掛かった。
「先生が何で死ぬか知りたい。何故、僕だけの先生は逮捕されるのか知りたい。」
「分かった。秋継の家に行こう。」
晴が嫌がって頭を振った。
「紅が思い出さなくても、未来は変わらないよ。僕が居るよ。側に居るよ!」
背中から圧力を感じる紅。
「思い出したら性格が、変わっちゃうかも知れないんだよ。僕は今の紅が良いよ。嫌だよ。又、叔父さんに取られるの!」
「取られないよ。だから、安心して。」
「じゃあ、僕に好きだって言ってよ。僕だけの物になってよ!」
律之が紅から晴を引き剥がした。無理やりではない自然と力が抜けていく。
「晴の好きな気持ちも解るけど、記憶に囚われてる節さんの為に力を貸して上げよう。出来なければ納得するよ。彼女も凄い不安だと思うよ。」
紅は頷いた。
「晴には終わったらキチンと告白するからね。」
晴が視線を反らした。
「分かった。待ってる。塾には行くけど、スマホは出しとくから、何時でも連絡して……。深夜になったら叔父さん家に行く。辛いけど見に行くよ……。」
紅は晴に抱き付いた。愛おしいとは、この事だろうと思った。小さな女の子が我儘を言っている風に感じた。
律之は紅が晴を抱きしめるのを、止めるのすらしなかった。




