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現代 六 すれ違い

不定期投稿です。

 (はる)律之(りつの)の家に遊びに来て絶句した。

 畳の上でうつ伏せて居る紅と、浮かれた様に携帯を見ている律之が壁に凭れ掛かって座っている。


「この前と逆じゃん! どうしたの? 紅は何があったの? 」


 畳から起き上がる気配もなく無視をした紅。


「律之もどうしたの? 携帯嫌いではなかった? 何時(イツ)も卓上機しかゲームって言わなかったでしょ? 」


 紅が声を発する。


「律之は新しい彼氏に夢中なの。頭がお花畑だからほっときなよ。」


 律之が微動だにせず声を出した紅に視線をずらしただけだった。又、携帯を擦する。


「彼氏?!なんで……。彼女ではなくて?」


「彼氏。それも、凄い年上。」


 答えた紅は動かず、律之が紅を見ている。


「たかが24歳差だよ。前と変わらないのだから問題はなかろう?紅は失恋したから不機嫌なだけだよ。」


 律之が携帯に視線をやる。メールのやり取りをしている様だ。


「恋してない。先生は男だろ。」


 紅の体が丸まった。


「先生って秋継叔父さんの事? 彼女が居るって言っただろ……。」


「その彼女に会って来た時に律之は彼氏に出会ったの。」


「え~~。修羅場。僕だけ残して何してるのさ。律之の彼氏の写真見せて。」


 晴が律之の携帯を覗き込んでいる。スクロールされる画面に二人の写真がある。


「あれ? 見た事ある……。」


「時継だよ。多分、晴と親戚。」


「え~~。何で近い所で恋愛してるのだよ。僕だけ除け者じゃない。」


 律之が考え込んでいる。


「晴は関係者だよ。間違えなく。記憶がないだけで、凄く近くにいるのだよ。」


 紅が足を抱えた侭、唸る。


「俺だって記憶がないよ。もう思い出したくもない。先生の記憶何て要らないよ。」


「ねえ、何の話? 説明して……。紅も律之も可笑しいよ。」


 律之が晴に向き直る。


「前世って信じるか? 」


「生き物は統べからく輪廻転生してる話? 仏教の教えだよね。もしくは、今ライトノベルでは異世界転生ものが流行ってるよね。だから何? 自分達も転生してる訳? 有り得ないよ。」


「前世の記憶がある。晴もそれに出てき来る。前世から関わり合いがあるらしいよ。」


「私を守る。慶吾隊員の一人だったのだよ。常継と晴は……。」


「う~~ん。興味ない。僕は僕だもの。誰も変わりはいないでしょう? 前世の恋人の為に、今付き合ってる人をないがしろに、するの? そんなの勿体ない。人生を無駄にしてるよ。」


 紅がもっと丸まって何も言わなくなった。

 秋継から来るLINEだけ開こうとはしなかった。メッセージを拒否する事も出来たが消せなかった。


 紅が立ち上がると律之の部屋を出て行く。

 律之の母が夕飯の用意をしていた。


「おばちゃん。帰るね。」


「何言ってるの。まだ帰る前にごはん食べて行きなさい。律之? 泊めないの? 」


 律之から返事は来ない。


「大丈夫。お腹空いてないから……。」


 玄関から靴を履き出て行く。


「ちょっと、待っとよ。紅。僕も行くから……。」


 晴が急いで出てくる。

 ふたりは黙って歩いた。夏なのでまだ日が陰っていない。


 紅の家に着くと律之と同じ形のドアの前で、黒い鍵を出して回した。


「晴も入る? 」


 頷くと紅の後に続く。半畳の玄関に靴がない。そのままダイニングを横切ると、紅の部屋に入ってベッドに横になる。


 晴は腰かけて辺りを見回した。


「紅の部屋は始めてだ。」


 物が必要最低限しかない。机の上も綺麗に整頓されている。


「かあさんの物も残ってる……。隣の和室には入らないでね。」


 そわそわしている晴の目の前で、紅がシャツを脱いだ。


「なっ、なにやってるの?! 」


 晴の声は上擦る。


「部屋着に着替えようと思って……。どうせ。もう寝る時間だろ。」


「でも着替えるなら部屋を変えて欲しい。」


「何を言ってるの? 男同士だろ? 」


「紅は気付いてないの……。叔父さんとあってから、艶っぽくなってるの……。」


 紅は意味が解らない。


「無自覚は罪だよ。女性的になってるの。仕草が……。」


 紅はやはり疑問符を頭に浮かべている。

 密室に晴の溜息が木霊する。


 晴は諦めて、話題を変えた。


「ご飯は?」


「食べない。律之の家に居る時だけ食べてる。」


 晴が(イブカ)しい顔をした。


「母子家庭なのは知っている。でも、母親まで居ないのは知らない。この部屋に居ちゃ駄目だよ。紅の事だから絶対待とうとするけど駄目だよ。」


 紅がティシャツと短パンに着替えている間に、晴が携帯を弄っている。


「あ~~。もう、面倒臭い。直に電話する。」


 数回のコール音の後に、晴の相手が出たらしく、携帯にわめき散らしている。


「今直ぐに連れて行くから良いよね。困るのは此方(コッチ)だよ。余りにも状況が解ってない。僕ん家に連れて行っても、紅は家に戻っちゃうもん!だから、悪いんだから、今直ぐ紅を連れていくつからね?!解った!」


 紅はベッドで丸くなって寝ている。


 相手からの言葉を切る様に晴は携帯の通話を切った。


「紅。必要な洋服はどれ?中学のジャージ入れとくよ。他は何?寝てないで、早く積めて!」


何処(ドコモ)も行く所がない。俺だけ(ヒト)りだ。」


 晴が、箪笥(タンス)を開きながら、呟く。


「居場所がないなら作れば良い……。誰も産まれてから一人だよ。だから、紅には笑っていて欲しい。秋継叔父さんと出会ってから紅は何に怯えているの? 叔父さん教員なんだから相談してみれば? 」


 晴が着替えと下着を(カバン)に積めた。

 学校の課題と筆記用具は、手提げに入れる。


「家から少し歩くけど大丈夫? もう動いて。」


 晴が紅を引っ張った。泥の様な塊を立たせる。


「コンビニでコロッケ買って、食べるよ。空腹が一番の敵だよ。紅は見るからに、食が細いものね。だから、悲観的になる。叔父さんの事も簡単に考えてよ。」


 紅の手を引っ張って、家を出た。まだ、日暮の時間だった。

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