現代 三 近く
紅はLINEの既読文字を待った。
中々変わらない。画面を見たまま固まっている。
「紅。又無理だわ。ゲーム変わって……。」
律之の言葉に反応がない。
振り替えると律之の部屋で胡座をかいている紅が居た。
「紅……。毎日、携帯の画面視すぎ。相手は大人になのだから直ぐには返さないだろ。」
「今は、昼休みの時間って聞いたから……。」
紅は動かない。
「叔父さんは先生なんだから時間よりも雑務に終われてるよ。snsの方が連絡早いんじゃない? 」
「先生。やってるの? 」
晴が空を見上げた。
「叔父さんは何故かやってないよ。snsって犯罪の温床だからやらないって言ってた。ごめん。」
晴が漫画に頭を伏せた。
「紅……。悪いけど、恋人からの返事を待つ女の子みたいだよ。何時もの紅では無いみたい。流石に数日間同じ事をしてると引くよ。僕でも無理だよ。紅は好きだけど、秋継叔父さん相手に何をやってるの? 」
律之が紅の携帯を奪う。言葉を失った紅が奪おうと立ち上がる。それを見た晴が紅の腕を後ろ手で掴んだ。
「内容、何て対した事ないだろ……。」
律之が画面をスクロールさせる。読んでいる内に眉間に皺がよる。
晴はワクワクしながら対応を待っている。紅は仏頂面になった。
「読んでも面白くないよ。」
紅の言葉に晴が残念そうな声を上げた。
「え~~。男のロマンはないの? 」
「確かに、読んでも意味が解んないよ。ビートルズの話題なのは解るけど、マニアックな内容な気がする。イギリスの話題ばかりだな……。」
紅は晴が手を緩めて、律之から携帯を受け取り見る。
数日間の割には会話が盛り上がっている。写真や共有された楽曲。タイトルになった通りの看板。若い時のライナーノーツの切り取りやビバプール現在の風景が上がっている。
「ごめん。着いてけない。」
晴は紅に携帯を返した。
「面白くないって言っただろ。先生なのだから普通の会話しかしてないよ。」
「でも寄りにも寄って、音楽の。それも今時でない楽曲ばっかりって……。60年代に俺達生まれてない。伊藤殿ですら、産まれてない。」
律之が考え込んだ。何かが引っ掛かったらしい。
「イギリスの首都ってロンドンか……? 」
律之が呟く。
「そうだよ。ビックベンとかノートルダム大聖堂があるよね。僕はディズニー好きだからさ。一度は行って見たいよね。パリとか行きたいけど、緊急事態宣言では旅行は無理かな。残念だね。」
晴が又漫画を読み始める。
「ロンドン……。」
紅も呟いた。やはり何か引っ掛かったようだ。
「紅も思い出しているのか……? 笑わないから言ってくれ。」
「何の話? 」
「晴には関係ない。……嫌、あるのか? 伊藤 常継の息子と言ってたよな? 下に兄弟はいるのか? 」
「父さんの名前をフルネームで呼ばれるの何か嫌だ。僕の家は、男三兄弟だよ。僕が長男。何か意味があるの? 」
律之が辛そうに、頭を抱えた。
「駄目だ。思い出せない……。隊長の長男の名前を……。確かに任務に付けた記憶もあるが……。お前、誰だ? 」
「晴だよ。律之も紅も叔父さんと会ってから変だよ。どうしたの? 悩みがあるなら聞くよ。」
「悩みでは無いのだよ。晴にも、記憶が繋がらないのは何故だ? 紅にも記憶がない……。私だけイレギュラーなのか? 」
「意味が解らない。説明してよ。律之。紅が変な道に進んだらどうするのだよ。秋継叔父さんに会ってから、ぼーーとしてるか。携帯を見てるだけだもん。心配になるよ。」
律之が、諦めた様に溜息を付いた。
「伊藤殿が出てくれば、紅は恋をする。間違えなく身内より伊藤殿の側に行く。だから、我々ではどうしょうも無いのだよ。」
晴が嫌な顔をした。紅に聞こえる様に少し大きな声を出した。
「秋継叔父さんは恋人が居るよ。美人なお姉さん。」
紅が携帯から目を反らし、晴を驚きの眼で見る。
「嘘。何で……。」
「秋継叔父さん、もう26歳だよ。結婚を前提とした彼女ぐらい居るよ。当たり前ではないの? 」
律之も驚いている。
「紅が居るのに結婚? 伊藤殿が……。」
「僕も伊藤なんだけど……。秋継叔父さんとタブるから名前で読んでよ。それか先生とかにして、律之は副担になのだからさ。」
晴が団扇で自分を仰いでいる。
「紅がどんなに秋継叔父さん好きでも、男子なのだから、結婚は出来ないよ。紅がトランスジェンダーになるの。僕は嫌だな。」
団扇を紅の方へ向ける。生暖かい風が顔に当たる。
「先生が結婚……。誰と結婚するの! 」
晴がゴソゴソと胸ポケットから、携帯を取り出して調べ始めた。
「携帯に確か在ったはず。顔なら解るよ。正月本家に行った時の写真なんだ。九州まで行って、お婆様のお祝いした。何処かのホテルでの写真だよ。」
晴は建物の写真を紅に見せた。律之が乗り出して覗き込む。
「秋継の顔を出してくれ。彼女が居るなら余計に出してくれ。早く。」
紅が放心状態でいる。律之が記憶が無くても恋をしているのは、気が付いていた。
だが今の時代に紅の場所は秋継に無いのが、解った。
「写真。彼女の写真。」
晴は勿体ぶって画面をスクロールさせた。秋継の隣に女性が微笑んでいる。腕を組んで幸せにそうにしている女性。
「綺麗な人だ……。俺よりも似合っているね。」
「だろう。秋継叔父さんが大学の時に知り合った同級生だよ。カレコレ3年近く付き合ってる。だから、親族の集まりにも参加してるのだよ。」
律之が顔をしかめた。顔を何度か手で覆う。
「田所 節か……。寄りにも寄って、何故だ。伊藤殿は何を考えている……。」
「彼女の押しが強かったんだって。付き合うまで時間が掛かったけど一番長く付き合ってるよ。」
「先生はもしかしてもててる? 」
「遊びはしなかったけどそこそこ。彼女は居たよ。あの性格だから、普通ではないの? 優しいし面倒見も良いしね。職業柄かな。人当たりも良いからね。」
「先生に彼女が居たんだ……。」
律之が落胆している紅に、寄り添った。
「紅。彼女が誰だか解るかい? 節って聞き覚えない? 彼女の顔に見覚えはない? 」
紅は顔を横に振った。晴が不思議そうにしている。
「何で名前まで知ってるの? もしかして知り合い? だったら、世間は狭いね。」
紅が泣きそうな顔をしている。律之が紅の頭を撫でる。
(自分も同じ立場なら泣くだけでは済まない。怒り出してる)と考えた律之。
「晴は彼女と話して違和感はなかったのか? 」
「全然優しい女性だったよ。」
晴が感想を述べようとした時紅の携帯から音がした。秋継からのLINE通知音だった。
紅は画面を見つめる。今迄の音楽話の内容とは全く違う話が出て来た。
首を傾げていると律之が画面を覗き込んだ。
「節が会いたがっているだと……。紅と私に!? 伊藤殿は何を考えているのだ……。馬鹿め!此の様な傷心の紅に塩を塗り込みたいのか……。もう違う人格なのか……。解らない。」
紅が下唇を噛んでいる。
「あんな可愛い彼女が居たら紹介したくなるよね。俺も変な感情持ってたから良かった。先生は普通だ。俺も忘れよう……。」
畳の上で体育座りになって顔を埋めた。
「紅。」
律之が頭を撫でる。紅は啜り泣いて居る様な雰囲気だった。
晴が意味が解らず頭を掻いた。
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