現代 二 再会
レンタルビデオ屋に紅と律之と晴は来ていた。
紅と晴はレンタルCDを見ている。律之だけふらふらと他の場所を見ていた。
「もう、CD何て誰も聞かないって……。紅はどんな曲を聴くの? 僕はクラシックが好きだな。何か聴いていて落ち着くよね。」
晴はテレビで毎日放送されるニュースを見ていない様だった。塾にも通ってるので、空き時間がないのだろう。
毎日垂れ流される情報は両親にの居ない紅には、不安にさせた。
紅はシングルマザーの母しか頼れる人が居ない。いとこの律之の家は、母の双子の妹に当たる。
「俺はビートルズが好きだな。」
「紅は古いのが、好きだね。リンゴスターはまだ生きてたかな。携帯で調べるから待ってて。」
晴は携帯をいじり始めた。紅はジャケットを手に取り、見ている。
紅は一人の部屋でCDを掛けながら、母の帰りを待つ日々を過ごしている。
「ご存命だわ。若い女性と再婚したようだね。」
「リマスター版が出てる。欲しいな。」
「配信で良くないか……。」
「CDの方が音も良いし一曲の単価が安いんだよ。長い時間聴くなら、ヘッドフォンだと耳が疲れるの。通学時間に聞いてる訳じゃないよ。」
晴が興味なさそうにジャケットを見ている。ポンとそのままCDを置いて、律之の方へ行ってしまう。
紅は拾おうとそれに手を伸ばした。
男性の手とぶつかる。紅は指を引っ込めた。
「ビートルズ好きなの? 」
男性はジャケットを手に取っていた。
「あっ、いえ……。」
「君みたいな若い子が聴くなら大歓迎だよ。往年の名作扱いされてるけど、彼らの曲は個人活動になっても、進化してるからね。」
「おじさんは、ファンなんですか? 」
男は右手を目蓋に当てた。
「まだ二十代だよ。老けて見えるかい? 確かにビートルズ聴いてる二十代は余りいないね。ビートルズが全盛期だったのは、私達より親の親世代だからね。レコードの時代だからかなあ? 」
紅が目を輝かせた。
「お兄さん。レコード持ってるの? 聴いた事ないんだよね。ビートルズあるの? 」
「有るけど興味があるのかい? 」
紅は頷いた。
「貸してあげたいけどレコードは設備が必要だしね。CDならリマスター版があるから、聴くかい? 丁度、車に入ってるから渡せるよ。」
「貸してくれるの? 」
「あげてもいいのだけど、親子さんが驚くだろうからね。あの子から借りた事にしてくれないか……。」
晴を男は指差した。苦笑いをしている。
「余り知らない人から、貰い物や貸し借りは駄目だよ。危ないからね。普通はしないのだけれど、久しぶりの新規ファンだから嬉しくてね。私のLINEだけ教えておく。返す時だけ連絡をくれれば良いよ。」
携帯を男が取り出した。
「危ないから本当は駄目だよ。」
「知ってる。授業で習った。」
紅が読み込んだ情報を見る。伊藤とアイコンが出ている。
「これ、名前? 何て読むの? 」
「『こう』だよ。べにって書いて紅。」
伊藤が首を傾げた。何かを思い出している様だった。やはり思い出せなくて溜息を付いた。
「待ってて。取ってくる。紅君。」
「紅でいいよ。伊藤さん。」
伊藤は店を出て行くと、二人が近付いて来た。
「紅の知り合いか? 」
晴は心配そうに聴く。律之が伊藤の背中を睨んでいる。
「何か見覚えあるんだよな……。」
律之も思い出そうとしている。
「始めての会う人だよ。伊藤さんて知り合いいないしさ……。」
「馴れ馴れしくないか? おっちゃんが……。」
「悪い人ではないよ。音楽の趣味が似ているだけだよ。」
「紅は可愛いから気を付けないと危ないよ。知らないおじさんとは話しては駄目なんだよ。」
晴が訝かしがる。
「やばそうなら直ぐに逃げよう。」
律之が再度入店して来る男を睨んだ。だが直ぐに驚きの表情になった。晴は男を見て安堵した。
「晴。どうした? もしかして、友達か? 」
伊藤は笑いながら晴を見た。
「秋継叔父さんがどうして居るの? 確か、長野に住んで無かった? 」
「勤務地が7月から東京になったんだよ。学区が晴と同じかい。紅も? 」
「区立第三中学校に通ってる三人とも。」
晴がハキハキ答えている。
「では時宮くんかな?二人共に……。珍しい名前だから、もしかしてと思ったけど、副担になった伊藤 秋継だ。宜しく。 」
「律之の副担だよ。僕とは血族だから担任にはなれなかったの。秋継叔父さんは、父の弟だよ。」
律之が真面目な顔をしている。何時もと目の色が変わっている。
「伊藤殿。時継は何処に居る。兄弟なら知っているだろう。」
晴が瞬きをした。
「僕の父の常継と秋継叔父さんしか、兄弟はいないよ。時継、何て聴いたことない。」
「遠縁の親戚かな……。私も聞いた事がないよ。ごめんね。どんな知り合いだい? 」
律之は肩を落とした。
「探してるのに見付からない。何処にいるのだ……。時継……。」
顔色が真っ青である。
「律之? 大丈夫? 少し座るかい……。」
紅が律之を覗き込んだ。表情が曇っている。
「時宮君。これ渡しとく。リマスター版だけでは無くて、ベスト版も入れといた。」
「先生。有り難う。」
「何故か、時宮君が言うと違和感があるのだよな……。何か変な感じだ。」
律之が舌打ちををした。
「貴方が伊藤 明継だからですよ……。」
「律之。何か変だよ。大丈夫? やっぱり休もう。」
律之は悲しそうに目を見開いたが、紅から話し掛けられると、溜息を付いた。
「覚えてないなら仕方ないよ。」
律之が、紅の肩をぽんぽんと叩いた。
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