表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】倫敦《ロンドン》  時折《トキオリ》、春 〜君を辿って〜   作者: 木村空流樹
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/138

現代 一

 時宮 紅(ときみや こう)は目を開けた。

 畳の跡がくっきり残った顔を撫でる。

 じっとりと汗が滴り落ちてきた。


 冷蔵庫は中身が無く調味料だけが残った冷たい箱になっていた。冷たい水道水を煽り空腹を紛らわす。


律之(りつの)の家に行くか……。」


 地区のスピーカーで緊急事態宣言が発令されている放送が流れている。

 紅は部屋に鍵を掛けて二棟隣の団地に向かう。蝉の鳴き声がひぐらしになり始めていた。ビーサンをペタペタさせて熱せられたコンクリートの上を歩く。


 インターホンが壊れているのでドアを叩く。


「おばちゃん。紅です。」


 部屋から声がする。紅は何も云わずノブに手を当てた。

 玄関は狭く。半畳しかない。そこに靴が並べられている。

 突っ張り棒のカーテンを開くと、目の前のダイニングテーブルに律之が体育座りでテレビを見ている。


「紅。今日もシャバシャバのカレーだぜ。」


 視線をテレビから離す事無く言う。


「食べれるだけ有りがたいよ。」


 律之の隣に座ると、律之の母がカレーを装ってご飯を丼の様に盛った。


「紅ちゃん。諦めて我が家に住んだら……? 姉さん帰って着てないのでしょう? 」


 紅は冷ます様に具のないカレーを混ぜている。


「でもまだライフラインは生きてるし、携帯もたまにLINEがくるから、来なくなるまでは帰るよ。緊急事態宣言だから、為るべく家にいる。」


「姉さんも何を考えているのかしらね……。中学生一人残して居なくなる何てバカだわ。中学校が復活したら、律之の部屋に一緒に住みなさいね。」


「有り難う。おばちゃん。」


 紅が一口頬張ると、まだ熱かった様で水で流し込んだ。今日始めての食事に胃が驚いた様だった。

 教育番組を見ている律之の手元を見た。食が進んでいない。


「食べ終わったらゲームする? 」


「する。する。またボス戦で止まってる。紅がやった方が上手いから、お願いするよ。」


 律之がカレーを流し込んで席を立った。


「ごっそさん。早くこいよ。」


 自室に向かうと言えど数歩で襖だ。荷物を避ける様に襖を開いた。自室のテレビを付けて、ゲームを立ち上げる。

 律之の母が変わりにダイニングテーブルに付く。カレーを食べ始めた。


「紅ちゃん。姉さんから何か連絡はあった? 」


 律之の皿とコップを渡し、紅も再度食べ始める。冷めて来たので楽に飲み込める。


「LINEだけInstagramさえ上げてない。金の事と飯の事だけだよ。おばさんを頼れって……。ごめん。学校も無いから食べさせて貰って……。」


「子供が気にする事ではないわ。三食食べに着なさい。カレーばかりだけど無いよりましよ。律之部屋片付けて。紅ちゃん寝る部屋があんたんとこしかないのよ。」


「知ってる。ゲーム終わったらやるよ。」


 律之の母が眉がしらを上げた。


「今やれ。今。」


「ババア。うるせえ。」


 律之はゲームをしている。何十年か前に発売されたゲームのリメイクである。巣籠もり生活でそのゲームは億を稼いでいる。

 紅の携帯から通知音がする。


「晴来るって。律之の家でいいかい……? 」


「オッケー。どうせ明日も学校もないからいいよ。」


 紅は携帯を操作して、お尻のポッケに入れた。


「早く食べろ。経験値だけ上げとく。」


 紅はカレーを胃に流し込んだ。

 律之の部屋に行くと、セガのゲームコントローラを片手に彼が舌打ちをしている。


「いいよ。貸して。」


 紅が片腕を出して誘う。画面にゲームオーバーの文字が浮かんでいる。


「晴は直ぐに来るって言ってたか? 」


「家が近いから道順は知ってる大丈夫ではないの。どうせ。自転車で来るだろうね。律之は晴の家には行った事はないっけ? 」


「クラスが違うから行った事ない。いとこが同じクラスに二人も入らないだろう。」


「時宮。何て珍しい名前だから余計かもな……。」


 ラスボスを倒すと、レベルアップの効果音がする。数分は戦っていたようだ。


「友達来たわよ。」


 台所から律之の母の声がする。律之が玄関に向かうと、招き入れた。


「散らかってて悪い。」


「いいよ。僕は紅に会いに来ただけだからね。」


 次の敵を倒していた紅がゲームを中断する。


「晴、久しぶり。元気してたか? 」


 晴は紅の顔を見て表情を曇らせた。


「痩せた? 」


「大丈夫だよ。これくらい。」


「紅もさ……。我が家にご飯食べにおいでよ。律之家より部屋が広いし、風呂も二人で入ったって余る位なんだよ。」


「狭くても楽しいから良いの。律之ん家が、合ってるんだよ。俺にはな。」


 律之が頷いている。紅の隣に晴が畳に座わる。流石に男三人になり、襖を閉めて冷房を付けた。


「今日は紅が泊まってくから晴は早く帰れ。」


 律之が言うと晴は嫌な顔をした。


「じゃあ。僕も泊まってく。良いだろ。紅。」


「紅の家ではない。俺んち。」


「家主に許可を取ってくれ。俺は居候だよ。」


「部屋が狭いんだろ。帰れ。」


「律之は、直ぐにそう言う事を言う。来たばかりだろうが……。」


 晴が居直って、コーラの缶を律之に転がした。紅には、差し出す。三人はプルタブを開けた。

まだお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルフアポリスにも登録しています。 cont_access.php?citi_cont_id=675770802&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ