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【完結】倫敦《ロンドン》  時折《トキオリ》、春 〜君を辿って〜   作者: 木村空流樹
第一章

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過去 三十八 不審者

 一等車両で明継(あきつぐ)(こう)と母が話している。



紅隆(こうりゅう)様……。」


 言葉が違う所からする。目の前を通りすぎる男から発せられたらしい。


「誰ですか……。」


 紅は母の後ろに隠れた。顔見知りでは無い様だ。


「探しておりました。佐波(さわ)様の元へ帰りましょう。」


 テーブル越しに紅の腕を掴んだ。


「辞めて下さい。」


 払おうとしたが離れず。母は紅を抱き締めた。


 明継が咄嗟(トッサ)に男の背後に周り、紅を掴んでいる腕を締め上げた。痛みで男の顔が歪む。


「紅を知っているのか。御前は誰だ……。」


 男の筋肉量が一般人と違う。押さえた腕を払われない様、机に押し付けて明継の力が入り易い体勢にした。


「答えろ。」


 明継の関節技に力が籠る。其れを見た車掌が止めに入って来た。


「御客様。」


 明継の力が弱まった瞬間に、男は関節を外し逃げ出した。一等車両の出口から外に出て、動いている電車から飛び降りる。滑車を転がって行く。遠くで立ち上がり、走って逃げて行くのが分かる。


 明継が追いかけ様とすると紅が止めた。


「先生は危ない事はしないで下さい。」


「相手は一人とは限らないし誰の差し金か聞いていないよ。」


 紅にしがみ付いていた母が着物を正した。


「落ち着きなさい。もう追い掛けても間に合わないし、あの眼は口を開かないわ。」


 母が一括すると直ぐに明継が座った。

 車掌が机の上の欠けたカップを片付けている。


「佐波様の名前を出していましたが関係者でしょうか……。」


 明継が車掌から受け取った三杯目の紅茶を飲む。


「信頼させる為に出しただけでしょう。先生ではなく私を捕まえ様とするなど……。」


「貴方の身分なら当たり前です。護衛が居なくなってどうするつもりかしらね。(はる)は駄目な子ね。感情の(ママ)動く所は明継に似たのかしら……。」


 車掌が又紅茶を持って来た。今度は紅と母にだった。


「私ですか……。叔父に似るなど聞いた事が有りませんが……。」


「無鉄砲な所はそっくりよ。」


 母も甘くない紅茶を飲む。溜息を付きながら笑った。


「先生に似てるのですか……。」


 紅が興味を持った。晴の話をきちんと聞いて見ようと思った。


「誰か解らないけど、紅ちゃんを狙う者がいるのね。御父様と常継に連絡を入れるわ。上手く対象するでしょう。明継も落ち着きなさい。紅ちゃんを守りたいのは十分承知してるから……。一等車両に居たのだから身分がしっかりしてるはずよ。直ぐに主犯が分かるわよ。」


 母がお茶を飲んだ。


「先生が取り押さえるとは思いませんでした……。」


 紅の手が震えている。


「伊藤家は武術も小さい頃から学ばせているのよ。明継は刀術も学ばせてあるから、一人位ならのせるわよ。紅ちゃんを守りながらは数名の対処は無理だろうけど。確かに紅ちゃんには、明継しか居なかったから武術の心得は出来ないわね。あんな狭い部屋では、危ないもの。伊藤家に来たら晴に教わるのが良いわ。体格も同じだし……。」


 紅は手の震えをテーブルで隠す。


「先生が良いです。教えて頂くのは……。」


「私もそう思います。晴では役不足かと……。」


「組み手の相手には晴が適任だわ。他に理由があるのね。」


 母が紅の腕を見た。何も云わず次の言葉を待ってくれたが、ソーサーをテーブルに置く時間しかくれなかった。


「明継以外に拒否反応があるのね。なら尚更晴にしなさい。荒行事(アラギョウジ)も大切です。男の子でしょう。心は守るけれど、自分の身は自分で守れる様に成らなくては駄目よ。明継が同行してはいけないとは云ってないのだからね。」


(イササ)か複雑だよ。」


 紅が晴に組敷かれる場面が、容易に想像出来た。晴の性格だから手加減等しないだろう。

 明継の胸がちりりと傷んだ。

 自分の感情に気付いて他の誰かに形だけでも、触られるのが嫌だった。だが紅の為を思えば晴が適任だろう。


 明継は苦笑いをした。


 其の時、息を切らして晴が、車両の扉を開いて駆け寄って来た。

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― 新着の感想 ―
お母様は最強ですね。世の道理を弁え、極めて敏く聡明な方です。 大きな慈愛の翼による、強い庇護を感じます。
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