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エピローグ 海

 修一が九州に帰って来て、一番初めに駆け付けたのが、啓之助だった。

 骨壷を抱きしめると愛おしそうに微笑んだ。


「帰って来たのか……。紅。」


 啓之助は修一と面識がなく、明継と紅につきっきりだった修一には違和感があった。会った事の無い紅の名前を呼んでいるのだ。

 疑問点が合ったが、修一は何も云わなかった。


「啓兄さん。」


 不安そうに終一が寄り添った。


「終の本当の明継兄さんだよ。明るい継続の文字の明継な。倫敦に亡命する迄、俺は彼を避けていたけれど……。幼い時からどんな顔をすれば良かったか、分からなかった。成人したらもう話せなくなった。俺と紅時の関係性みたいにな……。気軽く話し掛けられなかった。紅時が過去の記憶で秋を先生と読んでいただろ……。紅時は死ぬ間際に先生と呼んで、微笑んでいた人物さ。もう、御前の父である秋ははこの世にいないのに……。先生と……。」


 啓之助が奥歯を食いしばって泪を堪えている。


「でも、明継さんはママの実子なのでしょう……。僕の兄だとも、林家の長男と聞いてますが違うのですか……。」


 啓之助に縋り付く終一の方を継一が抱いた。


「あってる。だから、運命とは皮肉な物なのだよ。紅時から明継が生まれるのも……。伊藤明継が先生になるのも、紅隆と出会うのも、全てを納得等出来ない。俺は納得してない。秋と紅時は笑うだろうな……。何も知らない明継と紅には悪いがな……。」


 継一が終の頭を撫でた。


「私も納得はしていないさ。私だけ初めから明継が投獄されて処刑される過去の記憶があるのも、未來を変えない様に必ず動いていたのも……。終が産まれて初めて御前を抱いた時に、答えが解った気がしたよ。修一さんも同じ気持ちだろう……。林修一。彼は私達の初めての人生さ。其して終りと始まりの役目を担う終。記憶が無くなる程繰り返した人生の終わりだよ。」


「継一様が記憶の終りと云うのですか。」


 啓之助が頷いた。


「秋も、もう産まれて変わりたく無いと云って、亡くなった。紅時も頷いて居たよ。記憶の終りは呆気ない物だったな。」


 修一が困惑している。意味が解らないのである。

 理解出来ない話を聞かされている。


「大丈夫よ。私も意味が解らないから……。旦那様、奥様、啓之助様達は、説明はしてくれないの。私が知らなくて良い事らしいわ。だから、昔を懐かしんでいるだけだと思う事にしているの。」


 節が啓之助に微笑んだ。


「田所さん、有り難う。後誰が来れば、海に流せるのだ……。遺言だ。明継と紅の最後の言葉だ。九州の海に帰りたいそうだ。」


 終が暗い顔をした。


「父もママも同じ遺言でした。四十九日法要として、海に流しました。僕は嫌でした。墓すら建てれない等……。」


「秋らしいよ。」


「明継らしいよ。」


 啓之助と修一が同調した。





 

 場所は変わって、海の近くの庵に居た。

 少しの茶を濁す時間があった後、節が継一に報告した。


「佐波様と時継さんも今お見えになりました。」


 悠々と歩く男性二人。節が横から顔を出した。

 修一に一瞥すると、佐波が手を差し伸べた。


「生きていた等、可笑しいだろう。」


 修一が驚いている。


「佐波様は歴史上、では亡くなっている。隠蔽された闇の中にね……。まあ、過去などどうでも良い事だ。久しぶりだね。林君。最後に会ったのは、何時だったかな。明継が世話になって申し訳ない。」


 時継が佐波の隣に居る。

 佐波を支える様に寄り添う姿が印象的だった。


「林殿。良く明継達を連れて帰って来てくれた。紅隆……弟に最後の別れを云いたくて、本当に待っていたよ。」


「余りに無理をなさりますと……。」


「まだ、大丈夫だよ。時継は心配性だ。また、紅が夢で迎えに来ないからね……。」


 坊さんの読経が終わる。

 五月蠅くなった背後に咳払いをしている。

 坊さんの説法を聞いた後、皆、海の方へにゆっくり進む。


 継一が溜息を漏らした。


 終が遠くを見た。


「波の音が聴こえる。」


「波打ち際迄、進みましょう。」


 皆、一斉に波の前に立った。

 坊さんの読経が聴こえる。波の音と数分間坊さんの声を聞いた後、骨壷を節に渡し、修一が蓋を開けた。

 見た目よりも白い骨に、佐波が涙を流した。

 読経は流れる続けている。


「倫敦で紅は幸せだったかい……。」


「もちろん。誰よりも幸せなそうでした。私が居るのもお構いなしでした。」


「紅隆らしいな。」


 弱々しく頭の骨を持つと、撫でる様な仕草をしている。


 時継が佐波の足を持ち上げ、靴と靴下を脱がせる。

 其れが終わると、波に逆らいながら、佐波は海に進んで行く。

 骨を波に付けて沖に流す。船の様に浮かんでは沈み、進んで行く白い骨が流れて行く。

 佐波は、波打ち際迄戻り、時継から骨を手渡された。また、同じ行動を繰り返す。


 皆、想い思いの方法で骨を海に流して行った。

 この世の終わりを悲しむ様に、骨が流れていく。


 後は、骨壷から直に流すしかない所迄になった。

 坊さんの読経と波の音しか聞こえない。


 「では、最後のお別れですよ。」


 修一が節から骨壷を受け取ると、靴を脱いだ。(スソ)(マク)し立てると、海の深い所に骨壷を沈めた。

 白い粉が修一の周りを回る。別れを云っている様だった。


 継一が頷いた。


「皆に幸い多からん事を切に願う。私の命等、何回焼かれ様と、構わない位切に願う。ありがとう。貴方達が居てくれたお蔭で幸せだった。」


「さようなら。」


「ありがとう。」


 修一が波から上がって来ると、皆悲しんでいた。

 節がタオルを彼に渡す。


「田所さんは、流さなくて良かったの……。」


「一番悲しんでいるのは、奥様だから良いの。立て続けにお友達迄亡くなっているのよ。本当に林くんが帰って来るのを待ってるみたいに具合が悪くなったわ。継一様もお可哀そうに……。私は脇役で良いのよ。」


「そっか……。」


修一と節は、海が寄せては返す波を見ていた。





完結

最後まで読んで頂き有難う御座います。宜しければ感想を!

☆も頂けると嬉しいです。

外伝書いてます。カクヨムです。3話までなろうで短編にあります。


第1話 紅時

倫敦 時折、春 外伝 〜朧月夜〜/木村空 - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16817330652658874721/episodes/16817330652658929683

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