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時折 十 謁見

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 (あき)紅時べにときの手を握り締めた。


 先行する継一(つぐいち)が険しい顔をしている。紅時は見た事のある景色に微笑んだ。





伊藤殿(いとうどの)達は、此方(コチラ)に……。」


 数日前九州の継一の元に見慣れない男が訪ねて来た。口振りや着物から危害はなさそうだと判断し、部屋に招きいれると()の男は梅ノ木の小箱から文を差し出した。


 意味が分からず継一が文の内容を見てから、慌ててい秋にだけ会いに行き、文の内容を話した。紅時も連れ天都(てんと)に向かった。






 場所は元の通路に戻る。


 歩くと紅時は梅ノ木を小脇に抱えながら、微笑んだ。


 新聞紙にくるまった九州の梅ノ木には(ツボミ)が少し(ホコロ)びを見せていた。


 秋は「何故、今梅ノ木を持ってくる」のか尋ねたが天都(てんと)の梅ノ木と違うのだと話した。意味が解らず紅時の好きにさせた。


 秋は梅ノ花を不思議そうに見詰(ミツ)めた。


「御主人様が御呼びですのでどうぞ此方(コチラ)に。」


 男は答える事なく、手招きし皆も怪しさはあったが()の男の通りにした。



 入り組む場所を抜けて、厳重に警備されている通路を突き進んだ。



 前を行くの男が会釈をすると警備の者も何も云わず、道を開けた。



 全く違う風景に驚きを隠せなかった。


 天井は高く白い壁に絵画が懸かり、歩く所には高級な布が敷き詰められている。明らかに貴族が出て来そうな面持ちの部屋部屋を眺めた。


 廊下は永遠と続いていて、今まで歩いて来た所が小さな点の様に感じた。


 海外から取り入れた高価な電燈(デントウ)と重厚な扉がある。調度品も海外の一流品が勢揃(セイゾロ)いである。


 男は急に立ち止まると目前に厳重なドアがあった。


()連れしました。」


 ()の男の言葉と同時にドアを開けて中に入った。


 廊下から想像した部屋は、西洋風な外装だと思い込んでいたが期待も(ムナ)しく純日本的な装いであった。畳や障子がドアに不釣(フツリ)り合いである。


「伊藤殿達か……。」


 声の主を見詰めると知らない男であった。


 居間らしき所に端座(チンザ)している。


 洋服と畳の不釣り合いさを実感した。其の男はズボンを()いていた。


今皇子(こんおう)様。」


 咄嗟(トッサ)に継一と秋が(ヒザマ)まずいた。


 紅時は手を引かれながら、正座した。

 彼女は秋を見ていたのだから、気付くのに遅れたのだ。だから(おう)の顔を見てから、驚いた表情をした。


 恐れる様に頭を下げた(ママ)正座している。梅ノ木を腰の後ろに隠した。


 三人は同行を(ウカガ)った。


 誰も動かない。今皇の護衛も部屋にいない。


 (みことば)を待つしかなかった。



 だが紅時だけは頭を上げた。不思議そうに辺りを見回し始めた。


 秋が紅時の行動を止めようか、悩んでいた時に声がする。


「表を上げて、席に座ってくれないか……。」


 直ぐに紅時は梅ノ木を持って、秋を立ち上がらせ様とする。


「待ってくれ。紅時。」


 秋が遅れて立ち上がると、男は黒革の椅子の上座に座った。


 継一が判断しかねている。

 紅時は進み出て、梅ノ木を男に渡した。


「お久しぶりです。半田さん。」


「紅時さんか。元気そうで良かった。」


 二人が呆気(アッケ)に取られていると、紅時は一番下座に座り秋を次の上座に座らせた。秋の目の前の長椅子が空いている。


 継一が席に付くと、半田は梅ノ木を座椅子の横に立て掛けた。


「遠路、遙遙(ハルバル)良く来て下さった。私は、今皇の御時宮(おんときみや)の弟宮の半田と申す。身分は偽り、民間に流れている。生き残る方法が(コレ)しかなかった。」


 継一と秋が目を合わせた。


「伊藤 継一と申します。弟宮様が我々をお呼び頂き、恐悦至極の至りで御座います。」


「林 秋と妻の紅時で御座います。粗忽者(ソコツモノ)で申し訳ありません。」


 紅時は三人を見てから、口を開いた。


「話しに入る前に伝えたい事があります。九州で継一様に文を渡される前に私達の村(マデ)、半田さんは情報収集に来ていたました。私の存在が余りにも異端だったから、話を聞きに来たみたいね。」


「紅時さんはまるで人を助ける様に飢饉や、流行り病の人を助けて居たから、伊藤殿の情報以外に気になりましてね。自分の目で見て見たくて……。」


「半田さんとは昔も話した事がなかったから、警戒して逃げたの。でもね。植物の花を踏まない様にして転んだのよ。だから私の知らない人だと思って、戻って家に招き入れたの。」


「紅時。危ないから私が居ない時に、男人を居れるなと云っていただろう……。」


「多分、秋さんが居ない時に、私を見に来たのだわ。()れに、半田さんの目付きが昔と他人だったから、話を聞くだけでも意味があると思ったの。父皇と情報を交換しながら、華族に身を落として、身分を偽り宮廷で仕事をしているそうよ。常継(つねつぐ)さんが慶吾隊(けいごたい)に居る事を話したわ。来年には時継(ときつぐ)さんが宮廷に入る事も話したのよ。」


「既に調査はしてある。彼らは優秀な人材として育てるつもりだ。私は宮廷の長にはなれないが……。皇の計らいで何とかするつもりだ……。良いかな紅時さん軍事的な話をして……。」


「継一様が何の商社を買収しているか迄は、知りませんもの……。」


 紅時が口を閉じた時に、赤子の鳴き声が聞こえた。


 半田の顔が青ざめた。


 秋が嫌な感じがして席に座った侭、声を出した。


「紅時。此方(コッチ)においで。」


 紅時は立ち上がり畳の上まで上がり、掛け軸の裏の壁を見た。


 半田が驚いて立ち上がる。


 紅時は戸を押す動作をすると横に壁をずらした。


 板の上に正座している男が居る。

 其の後ろが通路になっていて逃げられる様になっていた。


「初めまして、皇。」


 紅時が頭を下げた。


「貴方が紅時さんか……。」


 皇は立ち上がると後ろに居る女性を部屋の中に入れた。


 皇と女性が顔を見合わせた。

 不振そうな顔をしている二人。


「やはり貴方も皇族ですね。此のかくしを知っているのは、皇と西后(せいひ)だけです。側室では律之様だけです……。」


 女性がまだ産まれたばかりの赤子を一人抱いていた。


「母上……。」


 紅時は悲しそうな顔をした。一言だけ呟いた。


佐波(さわ)様は、何処(ドコ)に居ますか……。もしや……。」


「双子は忌み子。まだ名前もありません。もしかしたら、誰かに暗殺者されるかもしれない……。だから皇が居る時間は此の通路におります。赤子が泣いても部屋から離れて居れば、問題はありません。此の部屋と私の離れは繋がっているので何とか隠れていました。」


 父皇が座布団の上で寝ている赤子を抱き上げて、部屋に入れた。


 振動に動じる事欠(コトナ)く、健やかだ。


「君は、赤子の見分けが付くのか……。」


 紅時は左手の薬指に(アザ)がある赤子を撫でた。


 側室が身を固くした。


「此の子が紅隆(こうりゅう)……。痣は、成長と共に消えます。先生共に会う頃には、何もなかった。明継も知らなかった筈です。」


 皇が側室と顔を見合わせて頷いた。


「西后が身籠ったのは、おなごしか居ない。此の男子が産まれたが双子だったので、祝砲だけ鳴らし何とか隠し通している。乳母さえ雇わず、西后にすら触らせていない……。」


「なら婆の次女の中村家に嫁いだ子を紹介します。確か、最近、死産したと聞きましたから……。まだ母乳も出る筈です。天都に住んで居るので事情を話せば必ず力になってくれます。婆の娘だけあって武術に()けていますから、護衛も出来ます。刀と薙刀の所持を許して下さい。」


 皇は紅時の顔を不思議そうに見た。


 側室の顔を年を取らせた様に見えたからだった。


 皇達に秋と半田が近づくと、秋は紅時を抱き締めた。


 半田は上座に皇を招いた。


「時間は差ほどありません。伊藤殿と林様からの諜報が正しいか確認をしましょう……。」


 紅時は大丈夫と頷くと畳の座布団に居た佐波の首筋を掴み、抱き抱えた。佐波、特有の儚さがある。


「紅時。無理はするな。自分に会っているのだろう……。ならば、尚更慎重に行動せねば……。」


「大丈夫。もう、会えないから……。皇と対面出来るのも此の一時だけよ。だから信用を得る為に、継一様と頑張って……。私は子守りをするわ。だから……。」


「解った。必ず、迎えに行く。」


 秋が紅時の頭を撫でると、皇の待つ席に移動した。

 半田が継一に居た場所に座り、秋は紅時の居た継一の隣に座った。


 下座に座る秋が皇に名前を名乗る所から始まった。





 女性だけ残された畳の上は、声を落としている男達の話しは聞こえなかった。


律之(りつの)様は今迄、大変でしたね。まだ体調も整っていないでしょう……。」


 側室は目を丸くさせて紅時を見た。


「もう、全てが解った様に話しますのね。半田から聞いていた通りです。正式に発表もされていない紅隆を見分けられたら、何も出来ない。私達は貴方を信じます。乳母の話しも本当でしょう。私1人では隔離された離宮ですら子育ては大変でしたから助かります。其れに 何処(ドコ)かで会った気がしますわ。紅時さんと……。」


「律之さんにはお世話になっていました。今は話せませんが佐波と紅隆を引き剥がさないで居てくれた……。此の時代では無理な事をしてくれて本当に有難う御座います。其れに皇院(おういん)と云う身分迄、作って下さいました。」


 律之が目を白黒させて、紅隆に頬擦りした。もう赤子は泣いていない。


「半田が皇院の制度を作った青年の話をしていました。半田と同じく降下させるのではなく、宮廷に残せる皇院に紅隆をするつもりです。確か、立案者は伊藤殿と同じ名字でしたから……。もしかして、知り合いですか……。」


「制度……。もしや啓之助さんが立案者ですか……。」


「半田に聞かないと解らないですが、確か、聞き覚えがあります。良く離宮に咲いていない梅ノ木を見に来ていたました。只、何もせず、眺めて居ただけ……。啓護隊の青年と必ず同じ時間に見に来て居たから、本当に梅を見に来ていたと思います。」


 紅時は考えて込んだが、言葉にはしなかった。


「九州の梅ノ木を持って来たので鉢にでもお飾り下さいませ。此の子供達が離れを遊びだす頃には立派な盆栽になりましょう……。」


 紅時は微笑んだ。

宜しければ、反応を感想で頂けると嬉しいです。

気付きの方も居ますでしょうが、明継、秋継は誤字ではありません。

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