表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/138

時折 五 (過去 6 モガ)

 ※※※※※※ 過去六 モガ ※※※※※※※※※


 一人の女性が此方(コチラ)に近づいて来る。()して、明継(あきつぐ)の座っている隣に腰を据えた。


 女性に失礼なので、明継は目線全部を(こう)に移した。


 相変わらず紅は木蓮(モクレン)にご執心(シュウシン)で明継の心配何て何のその。


 風に揺れて紅い木蓮の花びらが揺れるたび、喜びながら上を眺める紅。


 ビィドロの様な肌の横顔を見た時今までに感じた事のない変な危機感を知る明継。


「どうかしました。」


 其の女は、不意に話し掛けてくる。


「いいえ、何でもないです……。」


「気分が悪いのですか。」


「いいえ。」


木蓮(モクレン)は綺麗ですよね。良く裏山に咲いていました。」


 女は御構(オカマ)いなしに話を発展させる。


 近所の女が花見にきているのだ、紅を知っている(バズ)はないと、必死になって良い方へ考える事にした明継。


 今席を外れたら余計怪しまれると計算もしていた。


「彼は御連(オツ)れさんですか。」


 女の目線は紅の方に向かった。変に詮索(センサク)されては困るので、明継は受け流す。


「えぇ。まぁ。」


「見かけない子ですね。」


 此の侭(コノママ)だと紅の話題になると踏んだ明継は女に会釈をする。


「すみません。用事があるので失礼します。」と言い残した。


 其して、立ち上がるとはや走りで紅の方へ向かおうとした。


 彼女から、一秒でも早く離れ様と思ったからだ。


「すみません。伊藤さんですよね……。」


 耳から脳へ思考が回らなかったため、呼び止めに答え様としない明継に、大きめの声で其の女は問い続けた。


 明継の背に話す女。


 明継の動きが止まる。


「私の事を知っているのなら、始めから()って下さい。」


 明継は女の不気味な行動を嫌悪に思った。


 明継の名前を知っている女。明らかに、不快感満載に近い警戒心を(アラ)わにする。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ねえ。あの女の人。ママじゃないの?髪形がダサいわ。」


「確かに、田所 節(たどころ せつ)さんですね。()の時代の流行の最先端ですよ。彼女は……。」


「モダンガールって聞いた事はない……。春ちゃん。」


 春が少し考え込んでから、微笑んだ。


「ココ・シャネルの事ね。でも外国の事よね。」


「姿の事(ナド)、どうでもよいでしょう……。」


 晴が苛立(イラダ)っている。


「大丈夫よ。過去の一定の場所、()の場所は時間に左右されないの。だから、きちんと話し合って決めて来たのよ。未來を変える方法は必ず明継と紅の二人を逃がす過去にする為よ。バットエンドはみんな嫌なのよ。」


「みんな……。バットエンド……。」


常継(つねつぐ)さんや時継(ときつぐ)さんの時代も見て来ているのよ。私達はね。誰も不幸にならない過去にするのよ。」


 晴が黙った。


 後ろの紅隆が自分が死んでいない未來を確認している。膜を下げると蓋をする様な動作をした。


『誰の許可を得て未来を変えようとしているのですか……。』


 静かに怒れる様に紅隆が、立ち上がる。


 晴が紅隆が怒っているのを直ぐに感じ取った。

 だか、()の答えを出していない侭、行動しているのを知っていたのだ。


 紅時がゆっくり微笑んだ。


「誰も、何も……。只、私達が生きている未來に過去があるからよ。其れが答え。令和では誰も涙を流していないのよ。僕である時宮 紅は先生の側には居られなかったけど、幸せだったわ。」


 紅隆が下を向いた。


『先生のない未來(ナド)要らない……。』


 紅時が、又紅隆を抱き締めた。春も抱き止める様に二人を包み込む。


 彼はしどろもどろしながら二人を見た。明継とは違う抱き心地に戸惑った。


「同じ事を云って申し訳ないけど……。独りは寂しいわ。貴方はもっと色々な人々に会うのよ。仲間も出来るわ。だから知らない未來に怯えないで……。」


 頭を撫でる紅時は紅隆の覚えいない母親、律之と同じ顔をしていた。


「節は貴方の味方よ。どんな時も……。新聞記者をしている時も、軍人だった時も……。ママ(せつ)何時(イツ)も紅を思ってたよ。親友みたいに……。だから、みんなに会って欲しいよ。常継さんや時継さんも、私は会えたよ。」


 晴が困った顔をしていた。


倫敦ロンドンに行ったら誰とも会えないのだが……。」


「修一さんが着いて来てくれるわ。倫敦ロンドンでの出会いもあるのよ。節さんは文通し続けるから、大丈夫。親友だと僕も思っていた。だからつぐを託せた。必ず先生と紅隆を引き剥がさない為に……。私は覚えているの。先生が消える瞬間を……。明継が投獄される過去を……。」


『僕よりも紅時さんは辛い記憶を持っているのですね。』


 紅隆は下を向いて泣いていた。


 二人の女性は頭を撫でながら、微笑んだ。


「心配はしないで……。私達を信じて…………。」


「息子の幸せを願えない母親はいないわ。貴方も幸せになるのよ。」


 晴がゆっくりと膜を閉じる。

 中の方からじんわりと明かりが灯される様に赤くなった。


「此れは……。」


 晴は一歩下がった。


「成功した証よ。」


 二人の女性は笑った。

後少しです。

最後までお付き合いください。

短編に書きました。

底辺 エタル 投稿 読まれもせず 純文学です。


https://ncode.syosetu.com/n1648hm/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルフアポリスにも登録しています。 cont_access.php?citi_cont_id=675770802&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ