時折 二 暗い通路
紅時が赤い廊下で立ち止まっていた。
目の前に真っ黒な空間の壁が出来ている。叩いてみると、甲高い鐘の音がする。
「幾ら叩いても反応が無いわ。」
赤い世界で此れ以上は進めない。
背後から人の気配がする。此の世界で存在を確認出来るのは一人しかいない。
「紅時さん。どう先に進める?」
伊藤 春が大声を上げる。
振り替える紅時は春と伊藤 晴に手を振った。
「やっぱり居たのね。二人とも。良かったわ。先には進めないわ。」
紅時は緋色の若々しい着物を着ていた。
「今日は、浴衣では無いのね。初めて見る着物ね。可愛いわ。成人式みたい。」
「春ちゃんも。今日はセーラー服なのね。」
「パジャマ着て寝てるけど布団の上からセーラー服を乗せてるのよ。流石に、男の子が来るかもしれないから……。」
「晴なら気にしないわ。パジャマ等知らないでしょうしね。」
「令和の晴くんなら、すっごく突っ込む思うわ。確かに時代によって晴の性格も違うみたいね。それに幼いわ。みんなで写ってる写真の晴にそっくりで驚いたわ。」
晴が不機嫌な顔をしている。
「女の会話はつまらない。」
紅時が微笑んだ。
「僕も男の子の時はお喋りではなかったよ。体が違うとやはり心も変わるみたいだね。今は時子さんの気持ちが痛い程解る。秋継さんは優し過ぎるのだよ。誰に対してでも……。だから女性が勘違いする。夫婦になっても気が抜けない。」
「秋継らしいよね。令和ではママ一筋だったのにね。」
「関係ないだろ。明継叔父さんは何をやっても目立つ男だった。時代時代で女の趣味も変わるさ。」
紅時と春が空いた口が塞がらなかった。
「晴も男の子ね。其れも伊藤家の血筋なのかしら……。完全な九州男子の考え方だわ。駄目よ。本命は大切にしないと……。」
「僕の本命になりそうな紅を連れて行ったのは、明継叔父さんではないですか……。」
「やっぱり晴にとって、紅が明治時代も令和も本命なのね。令和の私が小さい時から晴は、紅に抱き付くと鬼の形相で剥がしに来てたものね。紅と晴が同居してからも私だけ遊びに来させなかったし……。男の嫉妬は醜いわよ。」
「やった記憶もない事を云わないでくれないか……。僕は令和には居なかったよ。」
紅時と春が顔を見合わせた。
「やはり晴だけ異質だわ。明治、令和に晴が居るのに、記憶もない……。やはり時間は令和が出来てから、明継と紅が倫敦に逃げるのだわ。だから令和の通路は明るかった。」
「どう云う意味だ……。」
「今、居るのは時間の世界だと云ったわよね。明るい場所は明治時代の過去を変えない時間。でも紅時さんの居る時代を変えてしまうかもしれない場所がある可能性があるの。どこかで変化があるかも分からないの。晴が帰る未來だとも云えるわ。」
「なら変える必要はない。今の侭で良いですよ。」
「晴は記憶がないから良いけど、記憶のある修一さん、節さん、過去の僕である紅と先生の運命を戻してしまい。先生がまた投獄されて処刑されるかもしれない。其では駄目なの。繰り返しのない新しい令和の世界で生きても、紅時として明治初期に転生してしまった。呪いの様に繰り返して居る……。其の原因を探して、止めないと誰も終わらないループの中に居る侭だわ。貴方晴もいるのよ。其の中に……。」
紅時が不安がっている。
「記憶がないなら構わないではありませんか……。」
晴が溜息を吐く。
「修一さんと時子さんはどうすんのよ!ママまで巻き込まないで!私も晴として転生するのも嫌よ。紅を諦めて生きるのでしょ?あんたは……。」
「明継叔父さんと紅を見れば、両思いだって痛い程解るよ。諦める選択以外にないのだから……。僕だって嫌さ。でも隙間すらない二人には……。」
「でも赤い通路に選ばれたのに、晴と春ちゃんなの。意味があるから、此の廊下に居るのよ。」
紅時は晴の頭を撫でた。
甘んじて晴は下を向いている。泣きそうな顔をしているのに歯を食いしばっている。
「上手く行く事を祈りましょう……。」
紅時は春の頭も撫で始める。
晴が紅時の手を払い除けて、睨み付けた。
「だから秋さんに全てを話さなかったのですか……。未來が変わる可能性を……。」
「多分、秋さんは気付いていたわ。でも私の頼みを聞いてくれた。だから必ず継が逃げた世界に帰るわ。明継として倫敦に、3人で逃げた世界。私は、まだ二人目の赤ちゃんにも名前を着けていないし……。此れが終わわり、ループの理由が解れば必ず帰れるから……。」
春は微笑みながら晴に聞いた。
「覚悟何てしなくていいのよ。只、私達は良いと思う方へ進むだけだわ。それには晴の力が必要なのよ。先に進みましょうよ。」
晴は小さく頷くとペーパーナイフを黒い行き止まりに、突き刺した。冷たい空気が流れてくる。
生臭い様な臭いがする。
晴は躊躇わず、真下に力を込めた。人が入れる位の穴が出来る。
「進みましょう。紅時さんと一緒に元の世界に帰るのです。御爺様も、御婆様も心配して居ると思います。」
膜を捲ると先へ足を踏み出した。
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