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時折《トキオリ》一 赤い世界

 晴が瞳を開くと、場所が変わっていた。


 足元も頭上も赤一色の世界だった。(マト)わり付く水の様な感覚もある。


此所(ココ)は……。何処(ドコ)だ……。」


 左右の感覚も無いので、足を前に出す。進む感じがしない。

 何かを捉えて蹴り上げる感覚もない。


「じゃあ?手を()いてみるか……。」


 立った(ママ)の姿勢で前に平泳ぎしてみた。少しだけ進む。前屈みになってもう一度掻いてみると、大分進む。

 前に進ませながら左右に何かがあるのかが、分かった。

 壁と云うよりは暖かい膜の様な物だった。

 弾力がある。


紅時(べにとき)さん~。」


 此の世界に誰か居るのか分からないが一応呼んでみる。

 答えは帰って来ない。


「参ったなあ。何をすれば良いのか、すら分からないよ。」


 立った侭の状態で待つ事にした。


 腕組みする胸元に何かが当たる。晴は着物の胸元に手を入れた。秋の渡してくれた手拭いにペーパーナイフと懐中時計が入ってる。無造作に懐中時計の蓋を開いた。


 秒針と時針が逆さまにグルグルと動いている。


「うわ。気持ち悪い……。でも、今が異質だって云うのは分かった。紅時さんが現れる(マデ)待とう。」

時計を胸元に戻した。


「あの……。」


 少女の声がする。晴は後ろを振り向くと、白い服と黒いスカートの黒髪の少女が立って居た。


「晴……?」


 少女は疑問系で聞いて来た。


「誰だっ……。」


「私は伊藤 春(いとう はる)よ。まあ。まだ明治時代の晴に会った事は無かったけどね。貴方は明治時代の晴よね。女の子の姿をしているから分からなかったけど、紅時さんから話は聞いてるわ。」


「紅時さんを知っているのか。」


「当たり前よ。この世界で……、赤い廊下で初めて会った人だもの……。ママが死んでから夢を見る様になったのよ。紅時さんは赤ちゃんを産んでから、赤い廊下に来たと云ってたわ。先に進みましょう。行き止まりで待ってると思うわ。」


「この世界は何だ……。」


「赤い廊下の事ね。多分、時間の流れ。今は明るいけど奥に進めば暗く成るわ。ナイフは持ってきた?」


「ペーパーナイフの事か……。」


 晴が手拭いを開いた。春が覗き込むと微笑んだ。


「紅時さんの作りね。令和の晴のにそっくり。」


「僕は其の様な物持ってない。秋さんから預かった。」


「こっちの時代の晴よ。令和と言えば解るかしら?」


 晴が目を白黒させている。


「明治時代の晴は貴方の事よ。令和の晴と(こう)は、授業でペーパーナイフを作ったの。紅はパパにプレゼントして私が持ってる。晴は紅の為に作って渡せず、仕舞い込んだ。それを紅は知っていて、明治時代で継一さんに作ってもらう、お願いしたと聞いてるわ。」


 春が見せたのは梅の木を飾りとしたペーパーナイフだった。晴は何処(ドコ)かで見た記憶をがある。


「紅時さんが枕下に入れていたと形状が同じだ。此方は金属だが、紅時さんのは木製だった。梅の形が同じだ。貴方が持っている()れは金属なのだな……。何と鋭利な……。」


「令和のペーパーナイフは、金属加工が出来るからね。多分、明治時代の晴のは高価な物よ。細部は似せてないけど、デザインは同じだもの。早く進みましょう。紅時さんが待ってる。彼女が一番早くに起きてしまうから時間がないわ。授乳の為に、起きてしまうの。赤ちゃんが居るのでしょ。体が起きてしまうと、赤い廊下から強制的に出されて、しまうわ。大体の(えにし)は私達でも繋げたけれど先に進めない場所があるの。」


「先に進めない……。」


「ここは時間の流れよ。明治と令和を繋ぐ夢なの。」


 春が止まると一本道しかない赤い場所の壁をペーパーナイフで切った。


 (マク)がうっすらと裂けてゆく。カーテンを持ち上げる様な動作をする。


「見てみると解るわ。」


 晴が恐る恐る隙間から目線を落とす。


 膜から先は部屋になっていた。高い位置から真下を覗き込む様になっている。


「紅だ……。」


 部屋の窓辺の椅子に座って本を読んでいる。

 明継と共に暮らした場所にいるので、安心しきった顔をして、欠伸(アクビ)をする。


 紅は立ち上がると、椅子の上に本を置いて背伸びをした。


 晴が、三年間明継と紅の日常だと感じて、息を飲んだ。


 春が口元に人差し指を当てて、黙っている。


 彼を膜の後ろに退かし、又ペーパーナイフで切ったのと逆の向きに動かす。


 膜はぴったりとくっついた。触ると弾力も戻っている。


「気付かれてはダメよ。声は聞こえるし、世界に降りる事も出来る。でも制約があって、生きている時間でないと降りられない。令和では私が、明治初期には紅時さんが降りられるわ。でも令和を変える必要はないから、私は見て遊んでいたの。でもね。ある日進めない場所があって暗かったのよ。だから余り近付かなかったの。」


「今から行く場所か……。」


「似てるけど違うわ。暗い場所はまだ未來も無い所みたいね。話は戻るけど、暗い場所での泣き声を聞いたの。叫ぶ様な……。毎夜聞こえるし気になって行ってみたら、紅の女の子バージョンが居たのよ。それも幼い。膜を叩いたら紅がこちらを向いてビックリしているのよ。私を見て『春ちゃん』て呼ぶの。だから膜を切ろうとしたら、切れなくて……。紅にペーパーナイフを見せたら消えちゃってね。気になって翌日も来たら、黒い場所に立ってたのよ。だから紅時さんから切ってって言うと、膜が裂けて私も通れたの。確か初めての赤ちゃんを出産した時かしら……。可愛そうに暗いのが怖かったみたい。でね。影響が余り出ない様に、暗い場所の膜を切ったの。秋さんとの過去が見れたわ。楽しそうにしているのが、印象的だったわ。でね。覗き終わったら、明るくなったの。廊下も膜も……。私達はこの赤い場所を膜と通路もしくは、廊下と呼んでいるわ。」


「どういうわけ……。」


「暗い場所は、紅時さんの居る未來に影響すると言う事よ。過去は過去で変えられない。令和も過去にカウントされているのよ。だから明かるかった……。暗いのは未來を変える過去だけ……。明継達が倫敦に逃げない過去、明継が投獄され罪人になる過去が暗い侭なの。」


「繰り返して居る過去の方か……。」


「ご名答。でも何故繰り返してるのかも分からない。その為に、明治に降りられる人が欲しかったの。紅時さんでは幼な過ぎるし、話を聞いて貰えないのよ。それに廊下を赤くしている途中でここには来れなくなってしまったの。」


 晴が眉間に皺を寄せた。


(つぐ)を失ったからか……。では又、此の場所に来れるのは、赤子を産んだからと云う訳だな。御前も赤子が居るのか……。」


 春が嫌な顔をした。スカートを棚引かせる様にくるりと回った。


「女子高生に妊娠何てあり得ないわ。セーラー服よ。見て解んないの!」


「其の様な格好(カッコ)は知らない。モガよりもスカートが短い。」


「もっと短い女子高生もいるのよ。まだ、私は固い方。パパが許してくれないもの……。」


 晴が嫌な顔をした。


「令和の時代は誰が誰になっているのだ。」


「伊藤時子と秋継が結婚で、娘が私。伊藤 晴と時宮(ときみや) 紅は同居中。」


「令和の晴と紅は同じ家に住むのか……。一度でも相手を違えたのに秋と紅時さんは何故、結ばれるのだ……。」


「私も分からないよ。令和の時代でハッピーエンドで終わっても良いと思ったのに……。まだ、秋継の人生は繰り返してる。その上、秋さんだけ記憶を持ってないのよ。」


「僕も持ってないが……。」


「多分だけど晴は産まれたのが遅いのよ。だから、ロンドンに逃げる過去で最後に出てくる。」


「どう云う意味だ……。」


 春が微笑みながら自分を指差した。


「晴は私だからよ。女の私が貴方の前世だからよ。令和の晴と違和感が無い位、性格が同じだし好き嫌いも同じなのよ。だから紅を好きになる。」


「僕が女だなどあり得ない。」


「私もそう思うわ。体が間違えてると思うもの。でも紅と結婚出来るから、どうでもいいわ。」


「今、令和の晴と紅は同居中だろ。なら、お前に入り込む隙間はないぞ。」


「未来は解らないわ。私はまだ学生だから、社会人の紅よりも幼いと思うわ。でもチャレンジする価値もあるでしょ。押しに弱いもの紅はね。それは晴が一番知ってる筈でしょう……。」


「黙れ。未來をぶち壊すな。」


「お互い様よ。」


 赤い廊下を進みながら話している二人に、着物姿の紅時の後ろ姿が見えた。緋色の着物で色が景色と被っている。


「紅時さん。どう先に進める?」


 春が大声を上げる。


 振り替える紅時は春と晴に手を振った。


「やっぱり居たのね。二人とも。良かったわ。先には進めないわ。」


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